西川善司の大画面☆マニア
260回
最強のゲーミング4Kテレビ現る!? LG 48型は超低遅延&HDMI2.1対応だ!
2021年1月8日 08:00
前々回の連載で“PS5やXbox Series X/Sに最適なテレビ選び”を解説したが、この中で最新ゲーム機の性能をフルに活かすためには、テレビが「4K/120fps入力」(倍速駆動とは別)、「VRR」(Variable Refresh Rate)、「ALLM」(Auto Low Latency Mode)、「HDR/WCG」に対応しているのが望ましいと記した。
しかし、2020年12月時点で、これらの要素を全て満たす日本メーカーのテレビは1機種もないことが判明。逆に、これら全要素に対応していたのが、LGの液晶・有機ELテレビだった。
この事実には、筆者自身も驚いたわけだが、読者諸氏も同様だったようだ。この記事、掲載後に相当数寄せられたのが「2020年発売のLGテレビを大画面☆マニアで取り上げて欲しい」という要望だった。しかし、LGは予想以上にテレビが売れているらしく「すぐに評価機を用意できない」とのことで、少々遅くなってしまった。
今回取り上げるのは、4K有機ELのスタンダードである「CX」シリーズの48型「OLED 48CXPJA」である。実勢価格は約16万円前後。有機ELテレビの中では、最も求めやすいモデルのうちの1つだ。
製品概要チェック~軽量で設置性良好。Dolby Atmos対応のサウンドもまずまず
前回取り上げたパナソニック「TH-55HZ2000」がそうだったように、最近は有機ELテレビの重量増加が著しい。当初有機ELテレビは“薄くて軽量”という先進性が訴求されていたが、最近のモデルは55型のディスプレイ部だけで30kg近い製品も出てきており、この傾向に歯止めが利かなくなっている。
一方本機は、ディスプレイ部だけで14.9kg、スタンドを合わせても15.9kgとかなり軽量の部類に入る。今回は、箱からの取り出し、運搬からスタンドへの合体まで全て筆者一人で行なうことができた。
ディスプレイ部のサイズは107.1×4.7×61.8cm(幅×奥行き×高さ)。ベゼル幅は実測で上が約10mm、左右がそれぞれ約10mm、下が約13mmとかなりの狭額縁だ。
スタンドは樹脂製の平板タイプで、ディスプレイ中央部に合体させる構造。ディスプレイ下部の両端2カ所に鳥足を組み付けるタイプと違い、設置台の取り付けも楽ちん。スタンドのサイズは562×246mm(幅×奥行き)。画面がはみ出して良いならば、このサイズの要求面積を満たす、それほど大きくないテーブルや台にも設置できる。
スタンドは角度調整に対応しない非可動なソリッド式。接地面からディスプレイ下部までの隙間は実測で約42mm。丁度、BDソフトのパッケージが3本ほど収まるの隙間だ。
スピーカーは本体下部左右の端付近にレイアウトされている。開口部は下向き。ただ、音質は想像していたものよりは良好だ。
音楽を聴いてみると、ボーカルセクションは音量を上げても伸びやか。ハイハットのような高周波の高音も鋭く最後の余韻まで鳴りきっているし、バスドラムの低音の乾いた皮の響きもリアルだ。スピーカーの出音が下向きのため、定位感が下寄りなのは気になるが、テレビのスピーカーとしては不満のないレベルに仕上がってはいる。カジュアルにテレビ放送やネット動画、ゲームを楽しむには十分な音響性能を持っていると思う。
スピーカー構成はフルレンジが10W+10W、ウーファーが10W+10Wで、総出力は40W。低音出力がしっかりしていると感じたのもなんとなく納得という印象。なお、本機のスピーカーシステムはDolby Atmosに対応するが、イネーブルドスピーカーは搭載しない。
ただ、「機器設定」-「AIサービス」-「オートサウンドチューニング」メニューで設置場所に適した音響表現ができるようにする簡易的なキャリブレーションを用意する。いちおうキャリブレーションを行ない、Dolby Atmosのテストトーンを再生して音像の定位感をチェックしてみたが、音圧の高さは良好ではあるものの、サラウンド感の効果は弱め。ここに大きな期待は避けるべし。
定格消費電力は256W。同画面サイズ級の液晶モデルと比べると2倍近い値だが、2020年から登場した48型有機ELテレビとして普通の値。年間消費電力量は172kWh/年。
全HDMI端子がHDMI 2.1対応の衝撃
接続端子は正面向かって左側の側面部と背面部にある。
HDMI入力端子は4系統あり、すべてが「4K120Hz」対応。PS5、Xbox Series X/Sの4K120fps入力をサポート。加えて全HDMI入力が「HDCP 2.2」はもちろんのこと、「VRR」「ALLM」「HDR/WCG」に対応。このあたりが、LGテレビが人気を集める要因になっている気はする。なお、eARCについてはHDMI 2のみ対応。
USB端子は側面に2つ、背面に1つあるが、全てがUSB 2.0。USBハブの接続にも対応するという。
3つ全てのUSB端子が録画用USB接続型ハードディスクに対応しているのがユニーク。公称値では1台あたり4TBまでのハードディスクが接続可能だそうで、それ以上の容量については動作保証対象外としている。また、録画用ハードディスクはUSBハブを介して接続はできないという断り書きもある。
ちなみに、ハードディスクをUSB接続した場合、ハードディスクのファイルシステムを初期化せずにテレビ放送の録画ができることを確認。一般的なテレビの録画機能はハードディスクを接続した途端に初期化を促してくるが、本機の場合は、Windowsで使っていたハードディスクをそのまま録画用に転用でき、しかも元からあるデータは温存される。
本機から取り外したハードディスクは再びPCに挿し戻すと、普通に読み書きが可能。録画ファイル自体の存在を確認することもできる。さすがに録画データは暗号化されていてWindowsアプリでの再生は叶わないが、このハードディスクに対する動作特性は面白かった。ちなみに、USBメモリーでも実験したところ、普通に番組録画が行なえてしまう(笑)。
また、USB端子にキーボードとマウスを接続したところ普通に動作。マウスカーソルは、画面上のUIをちゃんとクリックすることができるし、Web検索などにおいて、検索ワードをアルファベットはもちろん“かな漢字”で入力できる。前回ビエラで同じことを試した際、その対応が中途半端だったので、今回は「おっ」と感じた。
1系統のアナログ映像入力を装備。ただし、端子そのものが背面パネルに実装されているわけではなく、付属の変換アダプタを介して接続する方式。赤白黄のコンポジットビデオ入力とアナログステレオ音声入力の他、色差(YCbCr)形式のコンポーネントビデオ入力にも対応しているのがポイントだ。コンポーネントビデオ入力はD端子にも変換可能なので、HDMI登場以前のDVD機器やゲーム機を接続することができる。
この他、アンテナ端子や光デジタル音声出力端子が搭載されていた。
ジェスチャー入力対応の「マジックリモコン」
標準クラス以上のテレビ製品に長年採用する「マジックリモコン」が付属されている。
何が“マジック”かといえば、リモコン自体がWiiリモコンのようなジェスチャー入力に対応しているのだ。リモコンを手にとって軽く振ると赤い矢印カーソルが現れ、以降は、リモコンを指揮棒のように振るだけで画面内にカーソルを自在に動かすことができるようになる。繰り返しになるが、Wiiリモコンの操作感そのままである。
このアナログジェスチャー入力は、YouTubeやAmazon PrimeなどのVODサービスアプリで使えるだけでなく、ゲームアプリにも利用可能。LGのテレビはWebOSを採用しており、LG独自のアプリストアにあるゲーム一部では、このアナログ入力を使って遊ぶことができる。
リモコンの電源ボタンを押して、地デジ放送の画面が出るまでの所要時間は実測で約2秒。地デジのチャンネル切換に要する時間は実測で約2.5秒。HDMI入力の切換所要時間は実測で約1秒。最近の機種と比べると、同等かやや速い印象。
設定メニューに関しては、その多くが“LG語”になっているので、抜粋して解説していきたい。
まず「画面サイズの設定」から。この階層下には「ジャストスキャン」設定があり、基本は「自動」に設定しておけばよいのだが、RADEONと組み合わせたときに限り、「自動」設定でオーバースキャンとなることがあった。誤認された場合には手動で設定する必要がある。
続いて「映像」-「追加設定」のところ。HDMI 1~4に対して個別にON/OFFの設定ができる「HDMI Ultra HD ディープカラー」の設定。一見何の設定か分かりにくいが、事実上HDMIの帯域設定に相当するようだ。
OFF設定は互換性重視のHDMI伝送帯域10.2Gbpsモードで、ON設定が18Gbps以上(HDMI2.1機器との接続で最大40Gbpsまで)に対応するようだ。4K/60fps以上のPCやゲーム機と接続する際にはON設定としたい。電気特性が優秀でないHDMIケーブルでは、ON設定では映像がランダムに消えたり映像が映らなくなったりする場合がある点には注意したい。
「映像」-「追加設定」-「インスタントゲームレスポンス」も各HDMI入力系統ごとにON/OFF設定できる。これは、ALLMの有効化/無効化設定に相当する。
面白いことに、NVIDIA GeForce RTX 3090と接続時にインスタントゲームレスポンスON時に「G-SYNC Compatible」の設定が可能になった。逆に、AMD RADEON RX 570と接続時にはここをONとしてもFreeSync(VRR)は有効化できなかった。
これと似た設定項目に「映像」-「追加設定」-「AMD FreeSync Premium」がある。ここをONにするとAMD RADEON RX 570と接続時にFreeSync(VRR)が有効化できるようになった。すると今度は逆にNVIDIA GeForce RTX 3090では「G-SYNC」の利用はできなくなる。
まとめると……
- GeForce系GPUでG-SYNC Compatibleを利用したい場合は「インスタントゲームレスポンス=有効化」「AMD FreeSync Premium=無効化」
- RADEON系GPUでFreeSync(VRR)を利用したい場合は「インスタントゲームレスポンス=設定に無関係」「AMD FreeSync Premium=有効化」
……となっているようだ。この「AMD FreeSync Premium」設定は後述する入力遅延測定に影響がないことも確認している。
なお、Xbox Series Xを本機と接続し「インスタントゲームレスポンス」と「AMD FreeSync Premium」設定の組み合わせで、Xbox Series X側の「自動低遅延モードを許可する」「可変リフレッシュレートを許可する」「Dolby Visionを許可」がどのように変化するかをまとめたのが下記の表となる。
この結果は接続機器に非常に複雑な影響をもたらすことが分かってもらえるだろうか。この振る舞いは、LG製2020年モデルのテレビ製品では共通の振る舞いだと考えられるので、新世代ゲーム機を接続するユーザーは、表を参考にして欲しい。
「スクリーンセーバー」設定の階層下には画面の焼き付き防止に関係する設定がならんでいる。「パネルノイズクリア」は軽微な焼き付きを解消するメンテナンスモードのこと。「スクリーンシフト」は、表示映像を1ピクセル単位でゆっくり回すようにスクロールさせることで、焼き付きの低減を狙うもの。普通の映像では気にならないが、固定画面系のゲームプレイをプレイしている最中は気になるかもしれない。
「ロゴの輝度調整」は、表示映像中に静止画像要素があると認識した場合に、輝度抑制を行なう機能。「高-低-オフ」が選べるのだが、オフ設定にしてもこの制御を完全に切れるわけではなく、若干輝度をセーブする制御が入る。ここもゲームプレイにおいては煩わしく感じることがあるかもしれない。
なお「焼き付き防止」に関連した設定として「映像」-「映像省エネ設定」で「自動-オフ-最小-中-最大-映像オフ」がある。これは静止画像の要素があるないにかかわらず、輝度を抑制する設定。長時間静止画を表示させるフォトフレーム的な用途で役立つだろう。
焼き付き防止のための1フレーム遅延が撤廃!?
遅延の測定は、今回もLeo Bodnar Electronics「4K Lag Tester」を用いて計測。入力映像は4K/60Hz(60fps)で、計測した映像モードは「標準」と「ゲーム」の2つ。結果、標準は92.6ms、ゲームは9.4msとなった。それぞれフレーム数換算で約5.6フレーム、約0.56フレーム分の入力遅延ということになる。
従来、LGディスプレイが供給する有機ELパネルは、焼き付き防止の観点から、表示するフレームの平均輝度を求め、その値から駆動輝度を決定するアルゴリズムを採用していた。そのために必ず1フレーム分の表示遅延が避けられなかった。
前回取り上げたパナソニック「TH-55HZ2000」も実際、ゲームモードで1フレーム遅延していた。今回の測定結果から考察するに、ゲームモードに限っては、この平均輝度算出を1フレーム前の情報で代用するアルゴリズムとして「避けられない1フレーム遅延」を解消したものと思われる。
ちなみに9.4msという遅延は、本機の映像パネルが倍速駆動パネルであり、4K/60fps映像入力時には理論値8.3msの遅延が避けられないからだろう。この「4K/60fps映像入力時には理論値8.3msの遅延」の理屈についてピンとこない人はコチラの記事を参照頂きたい。
それにしても、ついに有機ELテレビで入力遅延が1フレーム未満となったことは喜ばしい限りだ。画素応答速度の速さまで考慮すれば、へたな液晶パネル採用のゲーミングモニターよりもゲームプレイに向いている可能性すらある。
まだ試せる機会は少ないだろうが、4K/120fps入力時に4K/120fps表示対応ゲームをプレイした際には、前述した「4K/60fps映像入力時の理論値8.3msの遅延」をなくすことができるので、おそらく1.1ms(=9.4ms-8.3ms)の超低遅延でゲームができることになる。
画質チェック~最新世代パネルを採用。地デジ画質は国内メーカー並みに
日本メーカーのテレビ開発関係者にヒアリングしたところ、LG製の有機ELテレビは、当然、LGディスプレイ製の有機ELパネルを使ってはいるが、(日本メーカー含む)他社へ供給する前の最新プロセスで製造したパネルを採用する傾向にあるという。
“自社グループ企業による垂直統合事業のメリット”を最大限に活用するためにそうなるのは当たり前か、といったところだが、本機パネルをデジタル顕微鏡で撮影・確認したところ、実際そんな手応えを感じた。
というのも、本機の有機ELパネルは、筆者が2020年に評価した東芝レグザ「48X8400」、パナソニックのビエラ「TH-55HZ2000」とは異なる画素構造になっていたからだ。
一目瞭然なのが赤のサブピクセル。今回のLG機には、赤サブピクセルと白サブピクセルの間に細長い「赤いサブドメイン」が設けられているのだ。
この赤いサブピクセルのサブドメインの用途は不明だが、暗い赤になると個別に消灯されるようなので、赤階調の生成に加担しているように思える。
自発光画素はある程度の電力値にならないと光り出さないので、赤出力の弱いLG式有機ELパネルにおいて、面積を小さくした赤サブピクセルを新設したのかと思ったのだが、どうもそういうわけでもないようだ。というのも、この細長いサブドメインが単体で発光するような状況があるかと様々な映像を表示して探してみたのだが、巡り会えなかったのだ。
撮影上の問題かと思い、一応画面の別場所を撮影してもこのように映るため、撮影ミスではなさそう。いずれにせよ、LGの2020年モデルの有機ELテレビはこのようなサブピクセル構造になっているようである。まあ、上で計測した入力遅延の計測結果についても、東芝やパナソニックの2020年モデルとは明らかに違う特性を示していたので、本機は新しい有機ELパネルが使われている、ということで間違いはなかろう。
地デジ放送~従来よりもノイズ処理が劇的に改善されていた
最初は地デジ放送をチェック。
従来、海外メーカーのテレビは、デジタル放送の画質レベルが低かったのだが、本機では劇的に改善されているのを確認した。
地デジやBS放送はMPEG2コーデックで伝送されているため、映像内に動体が多いと途端にブロックノイズだらけになる。また静止画に近い動きの少ない映像であっても、輪郭近辺にはモスキートノイズが目立ちやすい。
海外メーカーのテレビは、このMPEG2映像をほぼそのまま表示していたため、MPEGノイズがかなり際立っていた。逆に言うと、日本メーカー勢のデジタル放送向けの高画質化処理がやたらアグレッシブで、「普通にデコードして普通に表示していただけ」の海外メーカーのテレビ画質が相対的に劣って見えていただけだったが、本機の放送画質は日本メーカー勢と肩を並べられるようになったと思う。
前述したMPEGノイズは劇的に低減されており、MPEG4系のような安定した画質を実現出来ている。しかも、ただボカしを入れたり、シャープネスを強調したりするだけの信号処理的な取り組みだけではなく、映像の内容を細かく吟味して処理する「適応型の画像処理」が行なわれている雰囲気がある。
肌や布の肌理は精細に描かれ、グラデーションはなだらかに塗られ、それらが混在している箇所は的確に処理を分けているようだ。LGは近年、人工知能技術を活用した映像エンジン「α9」を採用しているが、その効果の賜なのだろう。
UHD BD画質~有機ELらしいHDR感は好感触だが……
いつもの「マリアンヌ」「ラ・ラ・ランド」「GELATIN SEA」の4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)を視聴して、定点評価を実施。使用した画調モードは「FILMMAKER MODE」。こちらは、電機メーカーや映画スタジオが4K(8K)映像向けの取り扱いガイドラインを策定している団体「UHDアライアンス」が策定した画調モードとなる。
「FILMMAKER MODE」は、本機の「映像」-「追加設定」-「FILMMAKER MODE自動切換」設定を有効にし、テレビが「映画コンテンツ」と認識すると、ノイズ低減やフレームレート補間などを無効化して、極力素材本来の状態で表示するようになる。建前としては「マスターモニターに近い映像表現」を実戦するものだ。
「映像モード」の変更メニューから、手動で「FILMMAKER MODE」を選択することもできるが、「映画を見るときは必ずFILMMAKER MODEで見るんだ」という方針であれば、前述の設定を有効化しておくといいだろう。
「マリアンヌ」では、チャプター2冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内へのシーン、アパート屋上で夜の偽装ロマンスシーンなどを視聴した。
夜の街灯の煌めきは前回のビエラ(TH-55HZ2000)に及ばないまでも、自発光感は十分伝わるレベルで好感触。シャンデリアのクリスタルの高階調表現も見事だ。ぱっと見では“もの凄い明るさの塊”だが、目を凝らせば、各クリスタルがちゃんと異なる色や輝度の反射光を返しているのが分かる。
屋上での偽装ロマンスシーンでは、暗色のカラーボリュームをチェック。
本連載では何度も言及しているが、有機ELは自発光パネルであるがゆえに完全オフ画素となる黒は綺麗だが、ある一定レベルの電荷をかけないと光ることができず、閾値を超えた電荷をかければ、かけたで明るく光ってしまう特性がある。これにより有機ELには「暗色に粗がでやすい」傾向があるため、このあたりをチェックするのには暗いシーンが適しており、毎回このシーンを定点評価している。
まず暗がりで語り合う主役のブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの暗がりの中の肌色は違和感なし。灰色に落ち込むこともなく、わずかに血の気を感じる“暗い肌色”が出せている。間接照明で浮かび上がるモルタルやタイルの陰影もしっかりと出ている。
ただ、このシーンを注意深くじっと見ていて、気が付いたことがあった。それは暗色の階調表現。
暗色の階調、および発色自体は正しい(とおぼしき)色が出ているのだが、等間隔でうっすらと格子筋が出るのだ。特に単色の暗色のグラデーション表現で分かりやすく、テクスチャ表現などの高周波表現のところでは目立たなくなる。
また、この格子筋は一定の輝度より明るい箇所では目立たない。格子筋の一辺は3~4mm程度。どちらかと言えば縦筋よりも横筋の方が濃い。このシーンでいえば、マリオン・コティヤールが単独で画面に出たときのピンぼけの背景辺りが分かりやすい。
この格子筋は出るところには整然と出ており、画面座標系において固定位置、つまり“定常波”的に出ているので、おそらく映像エンジンのボックスフィルタのカーネル半径に起因するものと推察される。念のために、私物の東芝の液晶レグザ「55Z720X」で同一シーンを確認したところ、こうした格子筋はなかったため、本機固有のアーティファクトだと思われる。この現象は、暗室での視聴で、画面までの視距離70cmで気が付いた。
「ラ・ラ・ランド」では、いつものように夕闇の下で主役二人が歌い踊るシーン(チャプター5)を視聴。この作品は意図的に挿入されているフィルムグレインが多いために、前述のアーティファクトはそれほど目立たない。
カラーボリュームの作り込み自体は良好なので、主役のエマ・ストーンとライアン・ゴズリングの暗がりの肌の質感も良いし、夕闇に照らされるエマ・ストーンの黄色いドレスや赤いカバン、青いヒールなどの暗めの原色表現も悪くない。二人が歩く暗がりの道脇の街灯の輝きも有機ELらしい局所性の高い輝度表現が、鮮烈なHDRコントラストを表現出来ていると思う。
もしやと思い、UHD BD「ソニック・ザ・ムービー」のチャプター15を視聴。
物語が終末を迎えた平和な世界が描かれるシーンで、主役のジェームズ・マースデンとティカ・サンプターが部屋の壁を塗り替えているシーンがあるが、その塗り替えているグレーの壁に先ほどの格子筋が確認された。彼らの家に、政府関係者が礼を述べにやってきて、それに二人が応対するシーンでも、主役二人の背景の壁にも格子筋が現れる。
どうやら「ノイズの少ない映像」、かつ「平坦な低輝度の塗り表現」に同現象が現れやすいようだ。おそらく、有機ELが苦手とする暗色表現を行なうための時間方向や空間方向の階調補償駆動の弊害も関係しているのだろうか。
明るめの映像の定点観測で用いている「GELATIN SEA」では、前述したようなアーティファクトは感じられなかった。
なお、「Ferry」「Shadow」の浅瀬付近のシアンからエメラルドグリーンへのグラデーションの海の色はそれなりに再現出来ていると思うが、エメラルドグリーンの鮮烈さが最新の液晶モデルにやや劣る印象。
「Nightfall」の夕焼け雲のシーンにおける黄色やオレンジの階調は滑らか。ここは左上の空が暗めなので例の格子筋が若干出ているのがわかるが、カメラ側の撮像素子のノイズも強いため、前出の映画ほどは気にならない。沈み行く太陽の実体から上空に広がる赤い雲の純色感はよかった。
また、0nitから10,000nitまでの階調表現の再現性をチェックできるHDRテスト映像を見てみたが、高輝度階調に関しては4,000nit辺りまでは飽和させずに階調を再現しようとする振る舞いを見せ、なかなか立派である。
もちろん、これは「本機が4,000nitの輝度を再現出来る」という意味ではない。「仕様上の最大輝度表現力の範疇で4,000nitまでの輝度の映像を正しく表示出来る」という意味なのだが、いずれにせよ「そうしたHDR映像を見映えを壊さずに表示出来る」ということなので優秀と感じる。
総括~HDMI2.1フルカバーで超低遅延。ゲーミングモニター顔負け
LGのテレビ製品を評価するのも久しぶりだったが、非常に楽しく行なうことができた。
画質面に関しては、デジタル放送番組の画質向上に驚いた。このレベルであれば、日本の目の肥えたユーザーにも文句はそれほど言われないはず。「あとは好みの問題」と言うところにまで漕ぎ付くことができたと思う。
また色表現についても、カラーボリュームの作り込みが細やかで、日本メーカー製に拮抗したレベルにまで達している。
かえってこれが、筆者の「徹底的に評価してやる」というヤル気に火を付ける結果となり、本文で述べた映像エンジンの粗を発見することに繋がってしまった(笑)。まあ、ここは次のモデルで改善を望みたい。
それから「HDMI2.1対応の接続性」と「ゲーミングモニター顔負けのゲーム機との親和性」については、前評判通り素晴らしかった。FreeSync(VRR)対応だけでなく、G-Sync Compatibleにも対応しているところなどは、ほとんどゲーミングモニター並みの対応力といえる。
実際に、本機にXbox Series Xを接続し、「全般」-「4Kテレビ詳細」の項目を開き、Xbox Series Xが対応するディスプレイ出力機能項目の対応度を確認してみたところ、全てに「レ」マークが付いた。全項目「レ」マークの結果を見たのは、本機が初めてだ。これについては「あっぱれ」としかいいようがない。
また、入力遅延についても、「LGディスプレイ製有機ELパネルは,焼き付き防止機構が介入する関係で1フレーム遅延が避けられない」という定説を打ち破ってしまったことにも驚かされた。これについては恐らく、2021年以降の日本メーカー製の有機ELテレビでも、本機と同世代パネルを採用することで追従して来るかとは思うが、「すぐにこのスペックが欲しい」という人にとっては、現在発売されているLGの有機ELテレビしか選択肢がない。
ゲーミング機能だけなら、より安価なBXも選択肢に
2020年に発売されたLGの有機ELテレビはラインナップが多く、どれを選べばよいか迷ってしまうかもしれない。最後に簡単な選択ガイドを記しておこう。
今回評価したのは、中間グレードにあたるCXシリーズの48型。他には、65・55型を揃える上位のGXシリーズ、同じく65・55型の下位BXシリーズが存在する。(最上位には超極薄ディスプレイと別筐体のスピーカーからなる、壁掛け用のWXシリーズもある)
例えば、画面サイズを55型で比較すると、CXの約20万円に対し、GXは約4万円高く、BXは約4万円安い。スペック的な差としては、GXはCXよりもスピーカーがよりリッチなものになっている。BXはCXよりも映像エンジンのグレードが低い「α7」となり、搭載チューナー数も削減されている。目玉となっているゲーミングモニター的な機能については差異はないので、モニター的な活用を重視するのであればBXシリーズでもよいかもしれない。
画面サイズの48型は、CXシリーズにしかないため「大きすぎない大画面」が欲しい人はCX一択となる。ちなみに、55型のBXは48型のCXよりも安いので、コスパは55型のBXの方がよかったりする。
毎回書いているが、筆者としては40型ジャストのモデルが欲しいところ。どうかLGさん、お願いします。