西川善司の大画面☆マニア
第266回
ソニーXRエンジンで快適操作&文句なしの画質! 推しの4K液晶ブラビア「X90J」
2021年8月16日 08:00
ソニー・ブラビアが2021年モデルへと刷新された。型番末尾に“J”が付く製品群が'21年モデルの証だ。有機EL「A90J/A80J」シリーズ、そして液晶「X95J/X90J」「X85J/X80J」シリーズというラインナップの中から、今回は液晶「X90J」を取り上げる。
X90Jを選択した理由は、画質性能と価格のバランスが優れていると感じたから。
X85J、X80Jはエッジ型バックライト採用機で、どちらかといえば、画質よりコストパフォーマンス重視系。X95J、X90JはHDR映像表示に長けた直下型バックライト採用機で、画質を気にするならば、こちらを選ぶべきと判断した。
では、X95JとX90Jとの機能差はどこにあるのか。
上位X95Jは、下位X90Jに対し、HDR表示に寄与する「XR Contrast Booster」が、より高輝度かつ高精度なものになっていること。液晶パネルの表面が、より映り込みの少ない「X-Anti Reflection」になっていること(65型を除く)。視野角特性に優れる「X-Wide Angle」を採用していること。そして、サブウーファー搭載でより音声出力が強化されていることなどが違いとして挙げられる。
また画面サイズ的にも、X95Jは65・75・85型と大画面中心であるのに対し、X90Jは50・55・65・75型と比較的、一般的なサイズも用意されている。
というわけで、今回の大画面☆マニアでは、パーソナルサイズにも最適で、最も画面サイズの小さなX90Jの50型「XRJ-50X90J」(店頭予想価格は約20.9万円)を選択した。
ソニーといえば、ゲーム機PlayStationブランドを有するメーカーでもあるため、今回はゲームへの対応度などについても細かくチェックしている。
外観:意外に軽量で設置しやすい。スピーカー性能も良好
50型のXRJ-50X90Jは、画面サイズのわりには軽量だ。ディスプレイ部だけで13.5kg。設置は2人で行なったが、この程度の重さであれば、大人1人でも設置は可能と思う(組み立てや持ち運びは2名以上を推奨)。
ディスプレイ部の寸法は111.9×7.0×64.9cm(幅×奥行き×高さ)。額縁サイズは実測で、上が約12mm、左右が約12mm、下が約20mmとなっており、そこそこ狭額縁なデザインとなっている。
50型のスタンドは、画面下部の両端に組み付ける方式。
全長29.6cmのこのスタンド、脚部と挿入部をビスで組み付けたあと、ディスプレイ部下部に差し込むことになるのだが、差し込んだあとのビス留めが不要なのがユニーク。
ディスプレイ部の挿入部に“爪”のようなひっかかり構造があるためなのか、一度挿入するとカチッと固定される。なので、今回の設置作業では、スタンドをあらかじめ、本機を置きたい場所に配置しておき、そこにディスプレイ部をはめ込むという手順をとった。なかなか便利である。
スタンドは完全リジッド式でスイーベル調整は対応しない。左右のスタンド間の距離は、実測で、ほぼほぼ表示幅と同等の110cm。なので、中央にスタンドが来るタイプの製品とは違い、設置台の横幅は、画面の横幅分必要になる点には留意したい。
スタンドが画面下部両端に来る関係で、ディスプレイ下周辺は比較的開けたスペースとなっている。台からディスプレイ下部までの隙間は約70mm。薄手のブルーレイパッケージが5本ほど入る隙間だ。まあまあの高さの隙間なのでここにサウンドバーなどをレイアウトする活用もありかもしれない。
スピーカーは、画面下部左右にフルレンジユニット×1基ずつ、画面左右上部に高音域用のツイーター×1基ずつ実装。総計4基構成で、出力は20W(10W+10W)。画面の大きさからすると標準的なスペックと言ったところ。
音質自体は良好。お気に入りのインストゥルメンタル系の音楽ソースを聞いてみたが、ベースやバスドラムなどの低音もそこそこパワー感はあるし、ハイハットやライドシンバルの高周波音も繊細に伝えてくれていた。
メインスピーカーが下にあることから、定位感は下側という印象はあるものの、自動音場補正を実行すると幾分か改善する。自動音場補正は、ユーザーの試聴環境に適した音像変調を最適化するキャリブレーションのような機能で、リモコンに内蔵されているマイクを使って行なう。
Dolby Atmosにも対応する。実際に映画「トム&ジェリー」をAtmosで視聴してみたが、本格的なサラウンドシステムには敵わないまでも、音像が目まぐるしく動くアクションシーンでは、テレビ実体よりも、外側にまで音像が定位するような表現がちゃんと行なえていることが実感できた。本機に内蔵されたスピーカーセットを最大限に活用した、仮想音源技術による立体音響表現は、予想以上に満足度が高い印象だ。
定格消費電力は170W、年間消費電力量は174kWh/年で、同型サイズの有機ELテレビの半分程度に収まっている。
インターフェイス:HDMI端子は2.0と2.1対応の2種類
接続端子パネルは、正面向かって左側側面にレイアウトされている。
HDMI端子は4系統。うちHDMIポート1/2がHDMI2.0、HDMIポート3/4がHDMI2.1対応となる。よって4K/120Hz入力、Variable Refresh Rate(VRR)、Auto Low Latency Mode(ALLM)はHDMIポート3/4のみサポートする。
ARC(eARC)は、HDMIポート3のみ。となると、従来のHDMI機器はHDMIポート1/2、AVアンプやサウンドバーはHDMIポート3、PS5やXbox Series Xなどの新世代ゲーム機はHDMIポート4に接続することが奨励される。
アナログ映像入力は、1系統を配備。別売りの4極ミニジャックケーブル(赤白端子でアナログステレオ音声、黄端子でコンポジットビデオを入力するケーブル)で接続できる。また音声関連では、光デジタル音声出力端子、ヘッドフォン出力に対応したアナログステレオミニジャックを用意する。
USB端子は、USB3.0端子とUSB2.0端子を1つずつ実装。どちらのUSB端子でもデジカメ、ビデオカメラ、USBストレージデバイスを接続できる。
筆者の実験では、USBメモリーに収録されたMPEG4動画の再生が行なえ、キーボードやマウスの接続も確認した。キーボードは日本語変換には対応していないのが残念。アルファベットの入力は可能だった。またマウスはメニューアイテムの選択に対応していた。
デジタル放送の番組録画はUSB3.0端子に接続したハードディスク機器に限定される。ただ筆者の実験では、USB2.0接続のハードディスクでも録画は可能だった。また、USB3.0接続であっても32GBのストレージデバイスは「容量不足」のエラーが出て録画用として登録ができなかった。
この他、有線LAN端子、デジタル放送のアンテナ端子(地デジ、BS/CS)が実装されている。
操作性:高速でキビキビ動作。実用レベルに達した音声入力
リモコンは細身のバー形状で、Bluetooth接続方式。テレビに向けることなく利用できるのは便利。“ネット時代のリモコン”ということで、上部には動画配信サービスのダイレクトボタンが2列で並ぶ。
電源を入れて地デジ放送画面が出るまでの時間は、実測で約3.5秒。地デジ放送のチャンネル切り換え時間は実測で約2.5秒。HDMI入力切換時間は実測で約1.5秒だった。速度はまずまずといったところだ。
リモコンを使ってみて驚かされたのは、マイクからの自然言語音声コマンドが便利なところ。本機では、リモコン上のマイクボタンを長押ししながら話しかければ、広範囲にいうことをきいてくれる。
「HDMI2に切り換えて」、「フジテレビに変えて」、「西川善司をYouTubeで検索」などが通るのはもちろんのこと、「新垣結衣について教えて」としゃべると「どんなことが知りたいですか?」と聞き返してくるので「結婚相手」と続いて話せば「シンガーソングライターの星野源が…」と応えてくれる。
まぁこれらはGoogle TVの機能によるものなのだが、スマートスピーカー的な機能を提供してくれるだけでなく、同じインターフェースで、テレビの使い勝手を向上させていることには好印象を持つ。話しかけてからの反応もスピーディだ。
番組表の文字はなかなか高精細で、1番組あたりのマスに記載される番組紹介の文章量もかなり多い。もちろん、視距離が遠い場合には[黄色]ボタンで拡大・縮小できるのも便利。
「ハイエンドスマホ並み」とまでは行かないが、「スタンダートなスマホ並み」の速度感で操作できることに好印象を持った。YouTubeやAmazon Prime Videoの動画配信サービスを試してみたが、これらのメニュー切り換えも反応がよい。
これまでは「テレビのスマート機能やネット関連機能は遅くて、使いにくい」というのが定説だったが、ことに最新ブラビアに関しては「そんなことはないかも」と思わせてくれた。
ゲーム関連機能:HDMI2.1対応で入力遅延は12.4ms。音ズレあり
ここ最近、テレビ製品の買い替え需要がにわかに盛り上がっているようで、筆者もよく周りから購入相談を受けるようになっている。
コロナ禍による巣ごもり、五輪特需なども大きな要因になっているとは思うが、筆者の周りはゲーム好きが多いのでゲーム用途でのテレビ買い換えが多い印象だ。もちろん、PS5、Xbox Series Xといった新世代ゲーム機の購入に伴っての買い換えということなのだろう。
先日、「PS5/Xboxにマッチする、HDMI2.1対応ゲーミングモニターの選び方」を掲載したが、今回取り上げているX90JシリーズもHDMI2.1対応機種なので、ゲームファンも注目する機種と思う。
PS5/Xboxにマッチする、HDMI2.1対応ゲーミングモニターの選び方
ということで、ゲーム関連機能をいろいろ検証してみた。
まずは入力遅延から。
今回もLeo Bodnar Electronics「4K Lag Tester」を用いて計測。入力映像は4K/60Hz(60fps)で、計測した映像モードは「ゲーム」と「シネマ」の2つ。結果は「ゲーム」で13.0ms、「シネマ」では131.6msとなった。それぞれフレーム数換算で約0.78フレーム、約7.9フレーム分の入力遅延ということになる。
入力遅延
・ゲーム 13.0ms(約0.78フレーム)
・シネマ 131.6ms(約7.9フレーム)
※デフォルト設定の場合
大手メーカーのテレビ製品のゲームモードは近年、“一桁台ms”であることを踏まえると13.0msはやや見劣りする値である。実際、「ストリートファイターV」などをプレイすると遅延が気になる。
ソニーにこの件について相談したところ、「バックライト分割制御」と「明るさセンサー」を共に「切」とすると多少改善する、という情報が得られた。さっそく再検証すると、「ゲーム」は0.6ms短縮されて、12.4msとなった。60fps換算時で約0.74フレームなので、劇的な改善とはなってないが、今期ブラビアのユーザーはTIPSとして覚えておいて損はないだろう。
今期のブラビアは、HDMIポート3/4がHDMI2.1をサポートしたが、少々クセがある。というのも、HDMIポート1/2と、HDMIポート3/4では、設定仕様が異なっている。ゲームユーザーはもちろん、AV系のユーザーにも無縁ではないので詳しく解説しておこう。
HDMI2.0のHDMIポート1/2では、「標準フォーマット」と「拡張フォーマット」の設定が選べるが、前者がHDMI1.4以前の10.2Gbps伝送、後者がHDMI2.0の18Gbps伝送をサポートする。
一方、HDMI2.1に対応するHDMIポート3/4では「標準フォーマット」「拡張フォーマット」に加えて「拡張フォーマット(ドルビービジョン優先)」が追加され3択設定となっている。
詳細は後述するが、この3択選択において、筆者が実機で調べた感じでは、「拡張フォーマット」では伝送速度はHDMI2.1の48Gbpsになるが、「拡張フォーマット(ドルビービジョン優先)」では、HDMI2.1対応ながらもドルビービジョン対応と引き換えに、伝送速度は18Gbpsになってしまうようだ。
これは一体どういうことか?
HDMIポート3/4において「拡張フォーマット」や「拡張フォーマット(ドルビービジョン優先)」を設定した状態で、PS5やXbox Series Xを接続すると、どのような挙動を示すか検証してみた。
まず、「拡張フォーマット」を選択した状態でゲーム機を接続。
PS5では、多くのフォーマットで色解像度がフルスペックとなるRGBに対応し、120Hz(120fps)時に限っては色解像度が半分となるYUV422となった。
Xbox Series XではDolby Visionに関しての対応は全て「×」が付くが、逆にそれ以外のHDR関連、4K/120Hz関連には全てOKマーク。要は「拡張フォーマット」は、HDRかつ4K/120Hzに対応したモードということだ。
続いて「拡張フォーマット(ドルビービジョン優先)」を選択した状態で、ゲーム機を接続。
PS5では、4K/120Hzに対応できないばかりか、4K/60HzのHDRにおいても色解像度が半分のYUV422となってしまうことが確認できた。
Xbox Series XではDolby Visionに関してはOKマークが付くようになる。しかし、伝送速度が足りないためか、4K/120Hzに関係する項目の全てに「×」が付く結果となった。
つまり、「拡張フォーマット(ドルビービジョン優先)」では、4K/120Hz入力は一律未対応というわけだ。
以上のことを踏まえると、各ゲーム機において、HDMIポート3/4の設定は……
・PS5の場合は、「拡張フォーマット」でOK(もともとDolby Visionに対応していない)
・Xbox Series Xの場合は、Dolby Vision利用時は「拡張フォーマット(ドルビービジョン優先)」を選択。120Hzコンテンツ利用時は「拡張フォーマット」を選択
……といった使い方になるだろうか。
前回、取り上げたLGテレビ「OLED55G1PJA」(第265回参照)は、このあたりを自動でやってくれるので、ユーザーが自主的に設定を変える必要がないのが便利だった。次期モデルでは、LGのような賢いスイッチング機能を搭載して欲しいところである。
「ストリートファイターV」をプレイしていて効果音の遅れが気になり、音の遅延についても検証した。
格闘ゲームでは、連続技のコマンド入力を、映像の動きはもちろんのこと、効果音の発生タイミングも手がかりの1つにしている。発音のタイミングのズレは、かなり気になる要素なのだ。
ということで、前回から映像機器評価用に導入したソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」を用い、この音ズレについての計測も行なってみた。検証に用いたのは同ソフトに収録されている「A/V Sync」テストだ。
このテストは、映像コンテンツとしては、中央の緑のマーカー(「0」のところ)のタイミングでドンピシャに発音するだけのシンプルな内容となっている。このテスト映像を、実際にテレビ/ディスプレイに映すことで、どのくらい発音がずれるのかを検証できる。
XRJ-50X90Jで上記テストを実行し、その表示画面をソニーのデジカメ「DSC-RX100M6」で120fps撮影したのが下記の動画だ。なお、現状YouTubeでは、120fps動画は60fpsにコンバートされてしまうので、その点は了承頂きたい。
0.25倍のスロー再生などを行なうと分かるが、XRJ-50X90Jでは+83.4msあたりで発音しているのが分かる。83.4msの遅延は、60fpsのゲームで言うところの約5フレームの遅延に相当する。
参考までに、最近のゲーミングディスプレイ製品の一例として、LG「27GK750F-B」で計測したのが下記動画だ。
27GK750F-Bは、しっかり“0”のタイミングで発音しており、遅延がないことが分かる。
なかなか興味深い測定結果となった。実は、かねてから「テレビやディスプレイの音ズレの遅延も測定して欲しい」というリクエストが来ていたので、今後は継続的に測定していきたいと思う。
画質チェック:XRエンジンの実力は本物。地デジの画質も見事
ソニーはパネルの詳細を明らかにしていないが、表示面を顕微鏡で確認した限りでは、XRJ-50X90Jに使われているのはVA型液晶パネルと思われる。
VAはIPSに比べると角度依存の色変移はあるものの、正面から見たときのコントラスト感はIPSに優る。今回の評価は主に画面の真ん前で行なっており、角度依存の色変移は気にならなかった。
下の写真は、本機の表示面を顕微鏡で撮影したものになるが、RGBの縦長のサブピクセルが整然と立ち並んでいるのが分かる。赤サブピクセルは、緑や青よりもドメインが細かく分割されているのが興味深い。
輝度ムラは四隅に若干あるが気になるレベルではない。ユニフォーミティは優秀だと感じる。
本機は、直下型バックライトシステムを採用しており、映像の明暗分布に応じて局所的にバックライトを制御するエリア駆動(ローカルディミング)に対応する。このエリア駆動技術。ソニーはもちろんのこと、国内メーカーはどこも制御が上手い。
「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」には、このエリア駆動技術の品質を評価する、意地悪なテストモードが揃っているので試してみることにした。
今回は、漆黒画面内の各領域に順番に高輝度な白色四辺形が出現する「ADL TEST」(Average Display Luminance TEST)と、小さく高輝度な白色四辺形が漆黒画面の端を移動して回る「FALD ZONE counter TEST」(FALD:Full Array Local Dimming)の2つを活用した。
たしかに、白色四辺形が出現すると、その周囲が微妙に明るくなる、いわゆるHALO(ヘイロー/ハロー:光芒)現象は確認できるが、隣接する領域への影響が最低限に制御できていて、制御そのものはかなり優秀だと感じる。
本機のバックライトは、高輝度表現でかなり明るく輝くが、実際にHDR映像ではどのくらいの再現性能が有るのかについても、テストディスクで調べてみた。用いたのは「Stimulus」テスト。これは、様々な色において、漆黒の0nitからHDR10規格上の最大輝度の1万nitまでのグラデーションバーを表示して、実際にどの程度の階調まで描けているかを確認するもの。
テレビやディスプレイは画面内に表示される明部の面積具合で最大輝度が変わってくる特性があるので、このテストの結果はあくまで目安ではあるが、有彩色は1,000nit、白色は2,400nitくらいまでは表現されている印象だ。
もちろん、この結果は本機で「1,000nit、2,400nitの輝度が出せる」ということではない。あくまで、本機の輝度性能の範囲内で、その輝度の映像信号をディスプレイ(トーン)マッピングして表示できていた、と言うことを示すものだ。
いずれにせよ、この範囲の輝度表現が描けているということは、一般的なHDR表現の範疇のゲームや映画は問題なく高品位に表示できそうだ。ちなみに、暗部もチェックしたが、液晶特有の黒浮きがないわけではないが、かなり暗い領域の暗部階調まで再現できていた。
以下に、モード毎の白色光カラースペクトラム計測結果を掲載する。
バックライトの実光源は青色LEDであるため、青色光のスペクトラムピークが鋭いのは当然として、青色光から波長変換して作られる緑と赤のスペクトラムが見事にえぐれているばかりか、ピークも鋭いことが分かる。ちなみに、赤色のピークが大小2つになっているのは最近の広色域バックライトに使われているKSF赤色蛍光体の特徴である。
こうした“鋭くえぐれた美しい3つのスペクトラムピーク”があることで、赤緑青を混ぜ合わせて作られるフルカラーの色深度が実現できていると推察できる。平易にいえば、発色性能の高さが想像できるわけだ。
以上を踏まえ、映像コンテンツの視聴を行なった。
まずは、日本では最も視聴する機会が多いと思われる地デジ放送だ。使用した画質モードは「スタンダード」。
ビットレート十数MbpsのMPEG2コーデックを使って放送されている地デジ映像は、何の処理もなしに見ると「かなりの低画質」だ。それこそ、ブロックノイズやモスキートノイズといった各種MPEGノイズがオンパレードな映像になっている。ブルーレイなど、最近の高画質映像を見慣れた目で見ればなおさらだ。
しかし、本機では、新世代映像エンジン「XR」により、そうしたノイズをほどよく低減してくれる。
パッと見た感じでは、MPEGノイズの存在がほとんど分からないレベルだ。過度にノイズ低減を掛けると、時間方向に違和感のある映像になってしまうことがあるが、それも見られない。同様に、過度にノイズ低減を掛けると動きが速いシーンで解像感が損なわれてしまうが、本機の表示映像は静止、動画状態共に解像感が安定しており見事だった。
続いて、4K Ultra HD Blu-rayの映画「マリアンヌ」から、チャプター2冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内へのシーンと、アパート屋上で夜の偽装ロマンスシーンなどを視聴した。使用した画質モードは「シネマ」。
まずは最初の夜の街のシーン。本機のHDR表現は、明部階調の描写力が高いためか「街灯の光」や「車のボディへの情景の映り込み」など、それぞれの輝きの強弱を巧妙に描き分けていることに感動した。明部をギラギラに輝かせるような大げさなHDR感ではなく、あくまでリアリティを感じさせる方向性でHDR表現をチューニングしているのだろう。
続くシャンデリアを見上げるシーン。シャンデリアを構成する無数のクリスタルの輝きの高階調も、繊細にその輝度の違いを描き分けている。ただ明部が眩しいだけではない。高輝度表現にも情報量が多いのだ。
続いて、屋上の偽装ロマンスシーン。
液晶なので、黒帯の黒浮きは感じるものの、本編の映像を邪魔するほどのレベルではない。夜の屋上から見える遙か遠方の漆黒の空や、鈍い街明かり、屋上を照らす薄明かりなど、非常に暗い背景で構成された映像でも遠近感を感じることができた。主役のブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの二人の暗闇における肌の質感や、衣服のテクスチャ感も完璧だ。
奥の階段からの光が間接照明となって照らしだす屋上の床面には、その弱い光のリアルな減衰感まで感じることができる。本機の表現力は明部表現だけに留まらない。液晶モデルではあるが、輝度の繊細に描き分ける能力は暗い映像においても優秀だ。これは「バックライトのエリア駆動の巧さ」に裏打ちされた表現力といったところか。
続いて、動画配信サービスも試してみた。
まずは、Amazon Prime VideoでSFアクション映画「トゥモロー・ウォー」を視聴。
ネット動画であることを忘れるほど自然な映像で、ネット動画特有のビットレート不足感は微塵も感じず。発色のリアリティも良好。コントラスト感はいわずもがな。本体のみで再生されるバーチャルサラウンドも迫力があった。
普段、映画はプロジェクターで見ることが多いのだが(記事参照)、そんな大画面狂の筆者においても、XRJ-50X90Jでの視聴体験に文句はなし。満足度が高かった。
続いて、YouTubeを視聴。普段はiPadで見ているのだが、本機での視聴は見応えが増して凄かった。というのも、通常のSDR映像も、XRエンジンが独自解釈してHDR的な表示にしてくれるのだ。
筆者がこの時に視聴したのは、自動車評論家による、車内の内装までを画角に組み入れた車載カメラ映像の試乗レポート番組。チャンネル登録して普段からよく見ている番組だけに、その車載映像の見え方の違いに驚いた。
まず感動したのは「車内の明るさ」と「屋外の景色の明るさ」の対比がリアルなこと。まるで、本当に助手席に乗っているみたいな視界なのだ(車載カメラが助手席位置に設置され、運転席方向に向けられているため)。
車内の装備の映り込みや、ハイライトのリアリティも凄い。同じ明るい表現でも、「照明に照らされてできるハイライト」と車内の装備のボタンやインジケーターなど、自ら発光する「自発光表現」の違いがちゃんと分かる。さらにXRエンジンの超解像(リアリティクリエーション)により、フルHDのYouTube映像が4K感覚の高解像感で楽しめるのも好印象だった。
総括:文句なしの画質性能。ゲームよりコンテンツ視聴に推したい
約10日間に渡って評価を行なったが、非常に楽しいものだった。
大画面☆マニアでは、「これを調べたらどんな結果が出るのか?」という動機が起点で様々なテストを行なうのだが、今回は「XRJ-50X90Jでこの映画を見たら、どんな画質で楽しめるのだろう」という興味の方が強く、結果色んな映画を見てしまった。振り返れば、それだけ本機の画質性能には面白みと魅力が多分にあったということだ。
さらに、独自サービス「ブラビアコア(BRAVIA CORE)」も、非常に良質なコンテンツ群と感じた。
「ブラビアコア」とは、ソニー・ピクチャーズの最新作や旧作が楽しめる、XRプロセッサ搭載ブラビア専用の動画配信サービス。総作品数は非公開だが、ラインナップはそれなりに充実しており、対象ユーザーは会員登録期日から2年間、任意の新作タイトル10本ほか、旧作などの一部無料タイトルが見放題で楽しめる。
配信時の最大ビットレートは80Mbpsとのことで、ネット環境をきちんと整備する必要はあるが、動画配信サービスとしてはかなり高画質な映像が楽しめる。IMAXバージョンのタイトルや、4K/HDRタイトルも多くラインナップされており、評価期間中、筆者は相当に楽しませて頂いた(笑)。映像を見た感じは、ほぼUHD BDの画質と変わらなかった。
ズバリ、映画好きならば、このブラビアコアだけでも本機購入の動機になりそうである。ユーザーとなった暁には、まず、このブラビアコアでいくつか映画を見てみるといい。その画質性能の高さを満喫できるはずだ。
画質性能に関しては満足度100%だったXRJ-50X90Jだが、一方で、リアルタイム性の高いゲームプレイとは、相性がそれほどよくはないということが判明してしまったのは少々残念だった。
画質面においては相当に優秀なので、今期のブラビアはオーディオ・ビジュアル用途に注力した設計だったと言うことなのだろう。そうは言っても、PS5を有するソニーグループだけに、ゲームプレイに特化したモデルの設定は欲しいところではあるが……。
いずれにせよ、XRJ-50X90Jは(というか今期のブラビア)は、「映像をじっくり、しっかり楽しみたい高画質絶対主義」のユーザーにお勧めしたいというモデルである。