小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第867回
ミニコンポは消えず! 超小型にTV連動、KENWOODとデノンの“尖った”2機種
2018年9月12日 08:00
ミニコンポ時代が来る!?
オーディオブームというのは、打ち寄せては返す波のようなものである。1970年代から80年代にかけて、国内電機メーカーがこぞってブランドを立ち上げて参入するなどの大波が来たのは事実だが、潮が引いたあと無くなるかと思えばそうではなく、やはり何度も波が打ち寄せている。
いわゆるミニコンポの登場は1970年代末とされているが、本格的なブームの到来は、CD登場以降だった。つまり1980年代半ば以降で、「CDラジカセ」としのぎを削ることになったわけだ。次いで1990年代のMD登場によって、ダビングの母艦としてまたもや“ミニコンポ VS CD/MDラジカセ”の時代となった。
しかしその後はiPodなどのメモリープレーヤーの時代、スマートフォンの時代と進むにつれ、オーディオの主流はドックスピーカーやBluetoothスピーカーへと変わった。「ミニコンポのようなもの」は、ハイレゾ再生を目的としたDACやオーディオレシーバーといったものに姿を変えていった。
そして最近また、一周どころではなく何周も回って再びミニコンポが帰ってきた。当然今どきの機能を搭載してのカムバックである。今回は8月下旬から9月頭にかけて相次いで発売されたユニークな2機種、ケンウッドとデノンのミニコンポ的製品をテストしてみた。
細部まで綿密な計算とこだわり、ケンウッド「NA9」
まずはケンウッドの小型アンプ「KA-NA9」とスピーカー「LS-NA9」からご紹介したい。ケンウッドブランドが以前から展開する「Kseries」の最新モデルとなる。2004年からスタートしたKseriesは、CDレシーバーとスピーカーのシステムだったが、iPod対応、Bluetooth対応、ネットワーク対応と進化して、最新モデルではストリーミング対応という形になった。店頭予想価格はKA-NA9が55,000円前後、LS-NA9が40,000円前後となっている。
まずはアンプ部のKA-NA9から見ていこう。外形寸法117×179×53mm(幅×奥行き×高さ)の片手で持てるコンパクトな設計だが、6mm厚のアルミシャーシ採用で、重厚なたたずまいを見せる。しかも真鍮製インシュレータの三点支持と来れば、それだけオーディオファンならごはん3杯はいけるはずだ。
天板は、前部にBluetoothのNFCポートがあるためにガラス張りとなっており、アルミへアライン仕上げの後部にはKENWOODのレリーフ。その奥にはファンにはお馴染みのレッドトライアングルがデザインされている。
正面には大型ボリュームがあり、左手に小さいステータス表示部がある。USB端子はUSBメモリ等を挿して再生するためのものだ。右手にはソース切り換えと再生・ポーズボタン、ステレオミニのイヤフォンジャックがある。コンポのイヤフォンジャックと言えば、以前なら問答無用で標準ジャックだったものだが、時代は変わったのだなぁと感慨深い。本体ボタンは最小限だが、ほとんどの機能はリモコンで行なうので心配無用だ。
背面に回ってみよう。銅製のビスが輝いており、このあたりからしても「やるな」という雰囲気が漂ってくる。電源はACアダプタとなっており、このため重量は700gに抑えられている。
左からアナログオーディオ入力、光デジタル入力、Micro USB端子だ。Micro USBはPCと接続すると、USB DACとして機能する。本機はハイレゾ対応(最大192kHz/24bit FLAC/WAV)だ。右側はスピーカー接続端子で、4~16Ωに対応する。出力は10W×2(4Ω時)。
スピーカーのLS-NA9は、リボンツイータを搭載したハイレゾ対応だ。サイズは100×163×196mm(幅×奥行き×高さ)で、アンプ部のコンパクトさと比べて大きく感じるが、これぐらいの容積がないと音響的に十分ではないとの判断だろう。
スタイルとしては2Wayバスレフ型で、注目のリボンツイータは、高分子ポリマーとアルミニウムのハイブリッド材を振動板に採用する。フロントグリルを外しても、ツイーター部は薄いメッシュでカバーされており、子供が1円玉突っ込んで突き破ったなどということがないようになっている。
リボンツイーターは最近、100kHz以上の再生を謳うウルトラハイツィーターがハイレゾ対応として人気があるようだが、本機のものは40kHzまでの高域対応となっている。
ウーファは8cmのグラスファイバーコーン。リボンツイータは中音域まではなかなかカバーできないので、ウーファと言いつつも、カバーレンジはほぼほぼフルレンジなんじゃないかなと推測するのだが、オーディオに詳しい諸氏はどう見るだろうか。全体の再生周波数帯域は50Hz~40kHzだ。
小型ながらさすがのサウンド
さて肝心の音だが、アンプのKA-NA9は入力ソースが幅広いため、実に使い出がある。スマホとの組み合わせではBluetoothスピーカーとして機能するが、デフォルトで高音質化技術のK2テクノロジーがONになっており、圧縮音源を原音相当にまで復元する。
実際にON・OFFしながら聴き比べてみると、ONではエコー成分の分離感が上がるため、楽器の定位に立体感が出てくる。いやなクセがあるわけではなく、これなら常時ONでも問題ないだろうと感じた。
加えてPCと接続すれば、DACとしても機能するのはポイントが高い。ハイレゾ音源はUSBメモリからも再生可能だが、フォルダの移動作業がリモコンとなるため、まどろっこしさはある。一方PC経由であれば、操作も簡単だ。手持ちのMac Miniと接続してみたところ、192kHz/24bitでも接続できた。
リモコンは薄型のプチプチボタン型で、入力切り換えや再生コントロール、フォルダ操作などのほか、バス、トレブルのイコライザーが操作できる。個人的にはバスを+2ぐらいするとちょうど良い感じだ。
大音量で聞いても音が尖る感じがないのは、リボンツイータ採用の恩恵だろう。小音量では、低域が寂しくなるのは仕方がないとして、定位の安定感がよく、寸詰まり感がない。これは深夜作業のお伴として、仕事環境にさりげなく置いて楽しみたいシステムである。
AirPlay 2に最速対応、TVと親和性が高いデノン「RCD-N10」
続いてデノンの「RCD-N10」である。本機は「CEOL(キオール)シリーズ」のネットワーク対応CDレシーバという位置づけだが、同時発売のスピーカー「SC-N10」との組み合わせでミニコンポとして機能する。価格は「RCD-N10」が57,800円、スピーカー「SC-N10」がペアで17,800円となっている。
ホワイトとブラックの2色展開で、今回はホワイトのレシーバのみお借りしている。外形寸法は280×305×108mm(幅×奥行き×高さ)と、昨今のミニコンポとしてはやや大きめだが、CDの再生機能が付いていることを思えば、やむなしといえる。
オフホワイトの樹脂製ボディで角が丸めてあり、いかにもリビングに似合いそうな雰囲気だ。ケンウッドKA-NA9とはアプローチが全く逆方向である。
天板はアクリルのはめ込みになっており、操作用十字キーと再生、停止ボタン、バック、入力切り換え、ボリュームボタンがある。すべてタッチセンサーだ。正面には電源とCDイジェクトボタン、USB端子とイヤフォン端子がある。ディスプレイは文字も大きめで、離れた場所からのステータス確認がしやすい。
再生可能なソースは、音楽CD、AM/FMラジオ、インターネットラジオ、USBメモリ、アナログ入力、光デジタル入力×2、Bluetoothと多岐に渡る。このほかネット系では、HEOSアプリを経由して音楽ストリーミングサービスに接続できるほか、DLNAサーバへアクセスしたり、AppleのAirPlay 2にも対応している。
もちろん、ハイレゾにも対応しており、ネットワークかUSB経由で、最高192kbps/24bitに対応する。対応フォーマットはWMA、WAV、FLAC、ALACで、DSD 5.6MHzにも対応と、なんでもありになっている。
AirPlay 2はWWDC 2017で発表されたものの、機能実装は今年5月末のiOS 11.4からと、かなり遅れた。加えて対応機器がHomePodと最新のApple TV 4Kぐらいしかなかったため、恩恵は限られていた。本機はApple純正以外のオーディオ機器としては、最初にAirPlay 2に対応した機器となる。
背面を見てみよう。レシーバの名にふさわしく、入力種類が多い。Wi-Fiも備えるが、LAN端子もある。光デジタル端子は2系統で、アナログ入力はRCA端子だ。ラジオ用のAMとFMアンテナ端子があり、それぞれ簡易アンテナが付属する。スピーカーだけでなく、サブウーファも接続できるのはなかなか本格的だ。
軽快だがクセのある再生手順
では早速鳴らしてみよう。今回新対応ということで、まずはAirPlay 2から試してみたい。
Appleの音楽アプリ「ミュージック」からAirPlayマークをタップすると、「Denon CEOL」が見える。AirPlay 2のポイントは、この横に付いたチェックボックスだ。今回は対応機器が1台しかないのでわかりにくいが、AirPlay 2対応機器が複数台あれば、どれを鳴らすかチェックボックスで選べるようになる。それぞれ別ボリュームで鳴らすことも可能だ。
曲のスキップ操作も、以前は数秒待たされたところ、1秒程度のタイムラグで反応するようになった。これぐらいなら許容範囲である。加えてアプリ操作だけでなく、siriを使って音声コマンドで音楽再生の指定ができるようになっている。
もう一つのポイントは、映像とのシンクロである。通常スマホ動画の音声をBluetoothスピーカーやイヤフォンなどで聴くと、音声伝送側の遅延が大きいため、リップシンクが合わなくなる。だがYouTubeアプリなどからAirPlay 2による音声伝送を行なうと、動画と音声のズレは問題ないレベルであることが確認できた。AirPlay 2はAppleの音楽サービスを利用していないと恩恵がないように思われがちだが、音楽モノの動画をいい音で聴きたいときの伝送手段として、今から利用できる現実的な解だろう。
もう一つ特徴的な機能が、テレビ対応である。光デジタル入力の一つに「TV」とラベリングされているが、こちらのほうにテレビから音声を接続すると、テレビスピーカーとして利用できる。具体的には、テレビの電源が入ると自動的にアンプの電源も入り、入力が光デジタル1に切り替わって音が出るという機能だ。
リビングに置くオーディオ装置として、テレビスピーカーとしても使えるのは良いアイデアだ。ただ、ドルビーデジタル音声には対応しないこと、テレビの電源が入ってスピーカー側から音が出るまで10秒ほど待たされるのが残念だ。コンポの起動時間があるので仕方がないと言えば仕方がないのだが、 “テレビとは画面が点いたら音が出るもの”と認識している家族を説得するのは、難しそうだ。
なお、光デジタル入力が無くなっても自動で電源が切れるわけではないが、コンポ側に赤外線リモコンの学習機能を搭載している。つまりテレビのリモコンでコンポを操作できるというわけだ。割り振りできる機能は音量調整、ミュート、電源ON/OFFトグル、電源ON、電源OFF、入力Optical In 1、入力Optical In 2、入力Analog Inだ。
デノンがネットワークオーディオ機能として推進するHEOS。HEOSブランドの製品は、海外では2014年から製品投入されていたが、日本で導入されたのはまだ去年の事である。当時導入された3モデルもレビューしているので、HEOSのなんたるかはそちらの記事を見ていただければ大体のことはわかるはずだ。
本機もHEOSシステムを採用しており、スマホアプリから様々なソースを選んで再生できる。ただこの時に若干注意が必要なのは、本機の音楽再生は、キュー(再生リスト)順に積み上げていく方式という点である。つまりソースを変えればそれがすぐに再生するというわけではなく、今この曲だけ聴ければいいのか、キューをクリアして再生するのか、キューの最後に追加するのかを選ぶようになっている。
これを意識的に行なわないと、新しいソースから再生を始めたつもりがいつの間にか前のソースの再生に戻っていたりして、混乱する。面白い機能だとは思うが、キューを使わないシンプルな再生モードがあってもよかったかもしれない。
総論
今回はミニコンポ的な立ち位置の製品2つをご紹介したが、さすが今どきのオーディオ製品、ハイレゾやストリーミング対応はぬかりない。ケンウッドKA-NA9は、スマホを中心に幅広い再生をサポートしながら、USB DACとしても使えることを考えれば、PC・スマホユーザー向けのオールインワン的な存在である。
デノンのRCD-N10は“リビングに置く音楽再生センター”といった立ち位置で、ストリーミングはもちろん、テレビからラジオからハイレゾまでなんでも鳴るので、幅広い層をカバーすることが可能だ。古いオーディオ製品は全部うっぱらってシンプルにセッティングするなら、いい選択であろう。
両製品ともに、アンプとスピーカーはセット販売ではないので、既にいいスピーカーが余ってるという人は、アンプ部だけ買えば最新機能が全て使えるオーディオシステムができあがるのもミソである。手持ちの機材と組み合わせて拡張していけるのが「コンポ」の醍醐味だとするならば、スピーカーとアンプのバラ売りという方向は、実に正しい。
KENWOOD KA-NA9 | KENWOOD LS-NA9 |
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DENON RCD-N10 | DENON SC-N10 |
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