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Appleロスレスやソニー360RA、上期注目スピーカーはコレ! ~夏の本田・山之内対談
2021年7月29日 08:00
オーディオ・ビジュアル評論家の山之内正氏と本田雅一氏が、話題の新製品や業界動向を独自の視点で語る、半期に1度の対談。前編と後編の2回に分けて、上半期に登場した新製品や新技術、AV時事ネタを取り上げる。
ビジュアル編に続いて、後編は「オーディオ編」。大きな話題を集めたApple Musicによるロスレス・ハイレゾ配信の開始やソニー360 Reality Audioの本格展開、そして上期の注目オーディオ製品を語ってもらった。
また記事後半には、山之内氏と本田氏の両名がそれぞれセレクトした「2021年上期の注目製品」(ビジュアル、オーディオ機器から5製品)を掲載した。
Apple Musicがロスレス・ハイレゾ開始。Apple Music対応が必須に?
本田:オーディオに関しては、音楽を聴くための媒体が変化してきていることが、製品トレンドにも著しい影響を与え始めていますね。すでにカジュアルな製品はストリーミングに対応しなければ商品として成立しない状況となっていて、このことがより高品位な音を求める製品も変え始めている印象です。
山之内:サブスクリプションが本格的なハイレゾ時代に突入したことが2021年前半の最大の話題ですね。1年半ほど前にAmazon Music HD、mora qualitasが先鞭をつけたあと、Apple Musicがロスレス&ハイレゾに舵を切り、今年後半にはSpotifyも参入を予定しています。
これまでは既存のダウンロード配信からハイレゾへの移行は緩やかなペースだったと聞いていますが、これからはむしろ高音質での配信が標準になるでしょう。
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本田:ダウンロード、ストリーミングともに、Appleの動向があらゆるサービスに伝搬していくと考えられます。何しろ料金が同じで、全ての楽曲に関してマスターをそのままロスレスで配信し始めた。関係者に取材した際、何をハイレゾ、何をロスレスで配信するのかと尋ねたら、「全カタログ」を「納品されたマスターそのままをALACでエンコードしたもの」と答えた。
DSDの配信はないけれど、PCMで納品されているデータそのままがロスレスで配信されることになる。これで料金が上乗せしないのだから、時代が変化するのは必然でしょう。
Appleの発表のあと、結局AmazonもAmazon Music HDの追加料金を撤廃することになった。Spotifyが始めるハイレゾ配信がどうなるかは分からないけれど、料金面においても追随せざるを得ないはず。
Amazon Music HDが月額980円に値下げ。プライム会員は780円
本田:ロスレス・ハイレゾを売りにして高音質音源のダウンロードサービスを提供してきたサイトもあるが、納品されているデジタルマスターはどこも同じはずなので、Appleのようなストリーミングサービスが出てきて、それに慣れてしまうと、ハイレゾ、ロスレス派もダウンロード購入する機会が大きく減る可能性があります。
このような再生環境の変化において、機器に求められてくるのが“どんなサービスに対応しているのか”。そしてサービス側は“どんな機器で再生できるのか”が問われることになります。
現状、高級オーディオメーカーは、Apple Musicを再生する機能をサポートしているところはほとんどないので、いますぐのインパクトは少ないかも知れませんが、これまでハイレゾ、ロスレスを売りに戦ってきたストリーミング配信サービスは事業継続が難しくなるでしょうね。
山之内:TIDALやQobuzが正式に日本でサービスを始める前に、もっとメジャーなAppleやAmazonが普及すると、参入はますます難しくなりそうですね。
ただ、TIDALの場合はRoonとの連携やMQA配信に付加価値を見出す人もいるし、Amazon Music HDやApple Musicに対応するオーディオ機器がまだ少ないので、既存のユーザーがすぐに他のサービスに乗り換えるかどうかは未知数です。
再生環境によって選択肢が分かれたり、ハイレゾサブスクの多極化が起こる可能性もあります。オーディオ機器の対応に時間がかかっている現状では、当面パソコンにUSB-DACをつないでサブスクを楽しむという人が増えそうな気がします。
映像配信でもベルリンフィルのデジタル・コンサートホールがハイレゾ配信に踏み切りましたが、こちらも追加料金はかかりません。今回のハイレゾ化はiOS、Andoroid、Apple TVからスタートし、その後でストリーミングプレーヤー、さらに年内にはウェブブラウザという順番で高音質化を進める予定です。デジタル・コンサートホールが始まったときとは逆に、ポピュラーな機器から高音質化を進めるというアプローチを選んだことが興味深いと思います。
ベルリン・フィルの映像配信が世界初ハイレゾ化。FLACで最大96/24
本田:Apple Musicがハイレゾ・ロスレス配信で使うALACはオープンソースで開発されているため、再生対応しようと思えばすぐにできるはず。
たとえば、すでにApple Musicに対応しているSONOSの場合、今後はハイレゾ、ロスレス再生対応のためにファームウェアアップデートを検討していると話していました。
これからはプレーヤー選びのポイントも変わってくると思います。従来であれば、ハイエンドユーザーは手持ちのライブラリを再生するための機能、つまりDLNAやHomePNAでの再生機能と音質を重視していれば目的達成できましたが、LANでの音楽ファイル再生だけでなく、ROONのようなアプリ、あるいはストリーミングサービスと、より幅広いサービスに対応しなければならなくなるでしょうね。
ファーム更新で音質改善や機能追加ができるか否かは重要
山之内:LINNがネットワークプレーヤーの最高級機KLIMAX DSMを14年ぶりに全面モデルチェンジして、かなり話題になりました。今回はDACも完全自社開発で、FPGAとディスクリート回路を組み合わせることで設計の自由度を高めたことが重要な点です。
プログラムやアルゴリズムを書き換えるファームウェア更新で音質改善や機能の追加がやりやすくなるメリットもあるので、たとえば新しいストリーミングサービスへの対応なども迅速に進められる可能性があります。
LINNが今回DACを自社で開発したことは、現在のデジタルオーディオ機器が置かれている状況を象徴する出来事だと思います。
エントリーモデルでは既存のDACチップを採用したほうが開発コストを抑えられるのでメリットが大きいですが、中高級機は事情が異なります。世界的な半導体不足を考慮すると、これまでデバイスメーカーに頼ってきた部分を自社でまかなおうと考えるのは自然なことです。
DACという信号処理の中核だけでなく、ネットワークオーディオ関連プラットフォームの確立も自社やグループの中でもっと強化しなければならない流れになってきました。そこをある程度自社で設計できて、対応できるようにしておけば、製品作りで他社との差別化がしやすくなるはずです。
リン、自社製DACでフルモデルチェンジした「KLIMAX DSM/3」
本田:ストリーミングの音を改善すると言っても、ロスレス・ハイレゾの音を如何に聞かせるかという世界と、ロッシーな音を如何にキレイに聞かせるという両方のアプローチがありますよね。
片方のニーズしかない人もいれば、両方を重視する人もいる。後者はソニーのDSEE Extremeなどの補完アプローチで、多くのメーカーが取り組んでいます。一方、前者に関してはは一部の高級オーディオメーカーを除いては、ほとんど取り組みがなかった。
もちろん、それはニーズがなかったからなのだけれど、ハイエンドとカジュアルの間には大きな隙間がある。そこを埋める製品として、ハイレゾ、ロスレスの音楽ストリーミングで使いやすいハイファイシステムの可能性があると思いますよ。
たとえばストリーミングで音楽を聴くとなると、ワイヤレススピーカー老舗のSONOSはすごく使いやすい。だから、ボクなんかはカジュアルに楽しむ場所はSONOSばかり。メインのシステムはLINNのDSMだけど、それ以外はSONOS Oneが2台、Fiveが2台、Sub3、Roamが2台とMoveもある。
家の中がSONOSだらけなのは一度、システム作って連携させ始めると、増やすほどに便利で楽しいシステムになるからなんだけど、既存のシステムもPortという製品を使うとその仲間に入れられるんですよね。
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本田:対応するサンプリング周波数が48kHzまでなどの制約もあるけれど、世界中のどこのサービスにも対応できている。デジタル端子からLINN Klimax DSMに入れて使った方がもっと楽しむ時間増えるかも? なんて思い始めてます。
繰り返しになるけど、スマートフォン向けと思われていたような、大衆向けサービスであったとしても、追加料金なしに、ロスレス・ハイレゾが配信されるようになったことで、今後は音楽を愉しむ装置の選び方や楽しみ方にもにも変化が及ぶ。その結果、製品も変化するという事でしょうね。
さきほど話した“Apple Music取材”なんですが、この時対応してくれた方は、Apple DigitalMastersの担当者だったんです。
Aplle Digital Masterというのは、ハイレゾのデジタルマスターに対して、最適なサンプリングレートコンバータを使って44.1kHzにして、解像度は24bitで入力。内部32bit浮動小数点で演算するAACエンコード楽曲のこと。この圧縮なら音質劣化はないというのがアップルの主張でした。実際、東急文化村のマスタリングスタジオでその聞き比べもしたけれど、確かに非常に優秀で、区別がつかないレベルでした。とはいえ、ロスレス・ハイレゾで配信することは従来の見解と矛盾するから、どう考えているのか尋ねてみたのです
彼らとしては、256kbpsのApple Digital Mastersは非常にバランスの良い選択だと今でも考えているそうです。ただ世の中には、ビットパーフェクトでなければ嫌という人々も存在する。そのニーズが大きいのであれば配信しましょう、というのが彼らのスタンス。そしてそのサービスに付加価値があるか? と考えたとき、「同じ音楽、同じ音質体験ならば追加料金は必要ない」という結論に達したとのこと。
実際にどう感じるかは、人それぞれだし、自分が使っている機材によっても結果は変わるでしょう。そこに宗教的な論争はないけれど、どちらも必要なら提供しますよというスタンスは潔いなと感じましたね。
――Amazon Music HDやApple Musicなどのハイレゾ・ロスレスサービスが出てきたことで、パッケージやハイレゾ音源の購入頻度は以前に比べて減りましたか?
山之内:よく尋ねられますが、あまり変わっていませんね。特に音楽ディスクはできるだけ手元に残しておきたいという気持ちが強いですし、格安で買えるボックスセットの企画がいまも続いているという事情もあります。10年前はライブラリを整理するためにネットワークオーディオを導入したのに、予想に反してパッケージメディアは減るどころかむしろ増えてしまいました(笑)。
本田:僕なんかはCDを買うよりも、ダウンロードが増えていた。ただ、新録も含めてハイレゾが当たり前のクラシックと違って、ロックやジャズなんかは過去盤のリマスタリングが多いので、すでに持っている場合は、ダウンロード購入しないことが増えましたね。ハイレゾのありがたみは以前より下がった感じ。隙間をストリーミングのハイレゾ音源が埋めていることも理由のひとつでしょうね。
今度こそ普及する? Dolby Atmosや360RAによる音楽の“立体化”
――Dolby Atmosや360 Reality Audio(360RA)など、ステレオ視聴が主流だった音楽を“立体”で聞くことについて、どのように受け止めていますか?
本田:360RAだけでは普及に懐疑的でしたが、AppleのDolby Atmosも入ってくると状況は変わってくるのではないでしょうか。Apple Musicは、何曲と明言していませんが、旧作の立体音源も数多くリリースされています。近年のEDMというようなジャンルだけでなく、過去のカタログも含めて立体的にどのように演出するかはこれからの楽しみでもありますね。
実は音楽を立体化するのは、4chオーディオの時代から何度も行なわれては失敗を繰り返してきたのですが、今度こそはいう印象です。まずはしばらくは状況を見ていきたいです。
ソニーの立体音響「360 Reality Audio」対応ハード拡大へ。ライブ映像にも
山之内:音楽の立体再生が普及するかどうかは再生環境次第だと思います。360RAを卓上のスマートスピーカーで鳴らしたときは、正直さほど惹かれなかったのですが、ヘッドフォンで聴いたら相当な効果があると実感しました。立体感を誇張するミキシングではなくて、音楽としてステレオとは違う説得力のあるコンテンツが出てくれば、あえて3D再生で聴いてみたくなるかもしれない。
新しい音源にも期待したいですが、旧録音をリミックスしてもう一度聴くのもありだなと思いました。オリジナルと同じアーティストやエンジニアがリミックスに直接関われればベストですが、そうでない場合は、あえて旧音源を3Dに作り変える意味があるかどうか、そこはよくわからないです。
ソニー、高さ方向にも音を広げるワイヤレススピーカー。「360 Reality Audio」認定
本田:アーティストの方が結構に関心を持っていると聞きます。ボクのところにも、何名かのアーティストから問い合わせがありました。ピエール中野さんはドラマーですが、リズム音源をいろいろな場所に配置して聞かせることに興味を持っているようでした。
オリジナルの360RA再生装置は素晴らしいものでしたが、13chのスピーカーで聞く環境は特殊すぎる。それは例外として、(Appleのように)Dolby Atmosを使えば、対応レシーバーを介して楽しめる。
実際にApple Musicでの配信が始まり、Dolby Atmosで立体的な編集が施された楽曲がどのように評価されるかが楽しみです。個人的には自宅で鳴らした時の音に、思わず頬が緩みましたよ。
AV Watchの読者はサラウンド、アトモスの再生環境を持っている人も少なくないでしょうし、サウンドバーでも、バーチャルやビームフォーミングなどでAtmosを聞くことができるわけで、Dolby Atmosを利用することの利点は小さくないです。
山之内:スピーカーの数を増やす場合、9chか11chぐらいまで使えるなら音楽コンテンツでも立体音響の可能性が一気に広がります。
最近発売された例では、冨田勲の「源氏物語幻想交響絵巻」の3Dオーディオ版(CDとPure Audio Blu-ray仕様のBlu-ray、RME Premium Recordings)がとても面白かったですね。
7.1.4chのDolby AtmosかAuroー3Dで再生すると、生霊が呪いの言葉を発しながら頭の周りをグルグルと回る場面など、3Dオーディオならではの臨場感が体験できました。ノルウェーの2Lなど立体音響の収録に意欲的なレーベルは音楽作品でも非常に完成度の高い録音を手がけているので、再生環境があるなら映画だけでなく音楽もぜひ3Dオーディオで体験して欲しいと思います。
これからの動きになりますが、ベルリン・フィルもAtmos配信を準備しています。そう遠くない時期にデジタル・コンサートホールは空間オーディオでの配信も始めると思いますよ。同サービスを最初の段階から手がけている音響プロシューサーのクリストフ・フランケは、「手軽な環境で楽しめるサラウンド配信を近いうちに実現したい」と言っていましたが、AppleがAtmosでの配信を始めたことで、それが現実になると判断したのでしょう。
日本初360 Reality Audio専用の「山麓丸スタジオ」
本田:Apple Musicだけの話であれば、Appleのヘッドフォン、イヤフォンはそのままで立体的な音響を楽しめます。そのための仮想サラウンドの技術を盛り込んでいますからね。
何も考えなくとも聴けばわかるというのは、新しいフォーマットを普及させる上での最低条件。SACDやDVD-Audioのサラウンド音楽も僕は好きだったけど、楽しめる環境をもってる人は少なかった。しかし、今は仮想サラウンドでも良い感じで体感できると思う。
山之内:ヘッドフォンユーザーの一番の悩みは、ヴォーカルなど左右の音圧が同じ音源が頭の中に定位してしまうことですが、イマーシブの技術を上手く活用すれば、頭の外側や前方に音を定位させることもできます。
楽器を立体的に配置するのはクラシックの作曲家や演奏家にとっても当たり前のことなので、360RAや空間オーディオとの相性は良いはず。いま配信している音源は数えるほどしかないけど、3D再生を意識した録音の作業が進んでいるので、注目作がもうすぐ出てくると思います。
本田:一昔前の仮想サラウンドは、F特がフラットに感じられなかったり、音場全体が不自然に感じることが多かったけれど、演算能力の向上も貢献したのでしょう。最近は違和感を覚えることは少なくなりました。まずは、体験して欲しいなと思います。
上期に発売された注目のオーディオ機器
――上期に発表・発売されたオーディオ製品の中で、注目の製品にはどのようなものがありますか?
山之内:ウルトラハイエンドですが、さきほど触れたLINNのKLIMAX DSMが14年ぶりにフルモデルチェンジしたことは大きな話題を呼びました。特に同社初のディスクリートDAC「ORGANIK」は今後の展開も楽しみです。
日本メーカーのなかでは、マランツと並んでディスクリートDACの開発に積極姿勢を見せるエソテリックから、ネットワークDACというコンセプトで、同社としては価格を抑えた「N-05XD」がこれから発売されます。ハイエンド機に比べて回路構成を一部簡略化しているとはいえ、大きな音質メリットが期待できる一台です。ちなみに同社は今後は既存のDACチップを極力使わず、自社開発のDACで製品化を進めるそうです。
エソテリック、新開発DAC搭載のネットワークDACプリ「N-05XD」
山之内:DACの選択がオーディオメーカーの製品開発に大きな影響を及ぼす例が新製品でも顕在化してきました。AKMのDACを使えなくなった影響はAVアンプで顕著ですが、ピュアオーディオでも影響が出ています。
アキュフェーズのCD専用プレーヤー「CD-450」は当初AKMのDACで開発を進めていたのですが、旭化成エレクトロニクスの火災後に急遽ESSのチップに変更しました。もちろんチップだけ載せ替えても動作しないので、周辺回路を新たに設計し直し、当初よりも発売が遅れてしまいました。怪我の功名というわけではありませんが、ESSのDACを使い慣れていたことが幸いして、非常に完成度の高いプレーヤーに仕上がっています。
海外でストリーマーと呼ぶことの多いネットワークプレーヤーの分野では、ブルーサウンドの「Node 2i」のファームウェア更新に注目しています。外部CDプレーヤーのデジタル出力をMQAデコードできるようになり、手持ちのCDプレーヤーが対応していなくても、Node 2iを組み合わせればMQA-CDをハイレゾで聴くことができます。もちろんBDプレーヤーの光デジタル出力にも対応するので、手持ちのシステムに導入する候補としてお薦めです。
カナダ「Bluesound」初上陸。薄型ネットワークプレーヤーと無線スピーカー
山之内:そのほか、昨年から継続している動きとしてリーズナブルな価格帯で良質なスピーカーが登場していることにも注目しています。パラダイムの「Founder」シリーズ、エラックの「Solano」ほか、日本市場への本格導入を果たしたポークオーディオ「Reseve」シリーズもコストパフォーマンスの高いスピーカーの代表格ですね。
スピーカーは今年の後半から来年にかけてミドルクラスからハイエンドの価格帯で重要な製品がいくつか登場してきます。具体的な情報は次回お知らせできると思います。
パラダイム、新技術満載「Founder」6機種。ブックシェルフ約38万円
ELAC、ダイキャストフレーム・ユニット搭載のスピーカー「Solano 280」
Polk Audio、ペアで7.7万円からの「Reserve」スピーカー
本田:オーディオ編がApple Musicの話からスタートしましたが、Hi-Fiのメーカーからすれば、いままでApple Musicは“スコープ外”だったわけです。先行して始まったAmazon Music HDにしても、ものすごくいいのかというと、細かいディテールなんかも含めて言えば、Hi-Fi向けではないといまでもボクは思っている。そうするとこれもスコープ外で、Hi-Fiメーカも動きが鈍かった。Appleが今年ロスレス・ハイレゾ対応して、今年後半にSpotifyが対応してくると、ものすごく大きなうねりとなるでしょう。ここは真剣に対応せざるを得ないだろう。
だから、カジュアルな製品で言うとKEFのLSXなんかはすごく良くて、これから音楽をいい音で楽しむシステムを買いたいという人には勧めている。LSXは1つの例でしかない。しかし、Wi-Fi対応のスピーカーは日本市場以外で増えているので、Hi-Fiメーカーによるワイヤレススピーカーが流行ってくれればいいなとは思っている。これまでは海外ではラインナップされているのに、日本ではカタログにも載ってないものもあったので。
KEF、左右ワイヤレスのハイレゾスピーカー「LSX」。SpotifyやAirPlay 2対
――リーズナブルな価格帯で良質なスピーカーが登場しているという話がありましたが、それらのスピーカーと組み合わせるアンプとしては、どのような製品がオススメですか?
山之内:プリメインアンプではマランツのPM6007やPM7000N、デノンのPMA-600NE、アトールのIN50 Signatureなどがお薦めですが、スピーカーほど選択肢が広くないのが残念です。
マランツ、2世代分進化したCDプレーヤ「CD6007」、DAC内蔵アンプ「PM6007」
デノン、新時代オーディオ入門機「NE600」。DAC+BT搭載アンプ、CDプレーヤー
山之内:むしろ10万円台から20万円台では、スピーカーにDACと高効率のクラスDアンプを内蔵した製品が台風の目になる気がします。
たとえばKEFのLS50 Wireless IIは、Amazon Music HDに対応していないのが残念ですが、ハイレゾサブスクへの対応が広がれば最強の存在になるでしょう。またUSB接続がメインになりますが、エアパルスの新製品「A100 BT5.0」も推薦に値します。
KEFもエアパルスもスピーカーとしての基本設計が優れていて、アドオンとしてワイヤレス対応やデータ対応を果たしたことが勝因だと思います。パソコンを別として10万円から20万円ほどで完結する音の良いオーディオはこれからどんどん伸びると思いますよ。
KEF“音のブラックホール”搭載、新「LS50」。アンプやHDMI搭載のワイヤレス機も
AIRPULSE、低域再生強化の無線スピーカー「A100 BT5.0」。9.9万円
本田:10万円という価格で区切れば、カジュアルに音楽を楽しみつつ、好きな音楽をいいおとで楽しみたいというカジュアル層が中心ですよね。僕は仕事をしながら聴くシステムとして、以前はお気に入りの小型パッシブスピーカを選び、机の上で使いやすいように、斜め上を向く三つ足のスタンドを人工大理石で作ったり、少しばかりマニアックな楽しみ方で机の上のオーディオを楽しんでました。
でもある時、「SONOS Fiveを使ってみてよ」というので、これを2台使いでステレオ再生させてみると、これがかなり具合がいい。ワイヤレスサブウーファーのSub3を組み合わせると、さらによくなる。スマートフォンのマイクを使って定在波補正する機能もあって、モヤっとした低域から中低域のもたつきがすっきりしました。
原理主義的にオーディオを楽しむのも一つの手だけれど、10万円前後のカジュアルな価格帯でいえば良い解決策だと思います。スピーカー自身が音楽配信を再生できるし。日本の高級オーディオブランドも、こうした仕組みやアイディアをもっと取り込んで欲しいですね。
ハイエンド製品を適切にセットアップした100点の音質というわけでなく、60、70、80点の音が、普段、仕事をしていたりパソコンを使っているときの机の上で得られる。そんな競合製品が増えれば、価格も下がって多くの人がハッピーになるのではないかと思います。
・ ソニー 4K有機ELテレビ「A90J」シリーズ
コントラスト向上以外にもXRプロセッサーの効果は広範囲に及ぶ。最暗部の均一性も以前に比べて大幅に改善しているのでOLEDの初期モデルからの買い替えも視野に入る。アコースティックサーフェスの再生音はレンジ感が明確に向上した。
・ TVS REGZA 4K有機ELテレビ「X8900K」シリーズ
パネル表面の低反射処理はOLEDとしては珍しいが、視聴環境によっては実用レベルでのコントラスト向上に寄与する。48型はパーソナル用途に好適。
・ エアパルス スピーカー「A100 BT5.0」
A80よりもウーファー振動板が大きくなり、低音の量感と厚みが向上したが、ベースの反応の良さは損なわれていない。Bluetoothの再生音も意外に良質だが、パソコンをUSBでつなぎ、ハイレゾ・ストリーミングで本領を発揮する。
・ パラダイム スピーカー「Founder 40B」
ペルソナとプレミアの中間に位置するパラダイムの新シリーズ「ファウンダー」唯一のブックシェルフ型スピーカー。大口径のウェーブガイドが目を引くデザインは個性的だが、色付けのない自然な音調は上級機譲りで、同社の一貫した設計ポリシーが伝わる。
・ アキュフェーズ CDプレーヤー「DP-450」
アキュフェーズのCDプレーヤーが4年ぶりにモデルチェンジしてDP-450が誕生。メカニズムを更新したほか、DACも従来のAKMからESS製のES9026PROに変更され、中域の密度が向上した。
・ ソニー 4K液晶テレビ「X95J」シリーズ
高画質ならOLEDではないの? 確かにその通りだが、唯一、大型テレビ向けOLEDパネルを生産するLG製パネルが新世代に切り替え時期の今、それでもOLEDよりは安価なハイエンド液晶に注目したい。認知特性プロセッサー「XR」の効果もあり、バックライトマスタードライブではない液晶モデルの本機でも、鮮烈な映像を見せてくれる。内蔵スピーカーの定位や再生待機もよく、今この時期に液晶を選ぶ意味を感じるモデルだ。
・ Apple メディアプレーヤー「Apple TV 4K」
本機を選ぶことには少々抵抗もあった。必ずしも“高画質”に対してストイックな製品ではない。一方でiPhoneと連携してのカラー補正機能など、“作品性をストレートに伝えたい”と考える開発陣の意図は十分に汲み取れる。ハイエンドではないが、十分な画質と音質。そこに加わるのは新しいプロセッサの助けもあっての、業界最高速の応答性だ。多様な映像ストリーミングサービスがあるが、あらゆる環境で最も高速に応答。リモコンの改良もあって、多数のコンテンツの海を快適に泳ぐことができる。
・ ヤマハ AVアンプ「RX-A8A」
AVアンプ受難の時代にあって高品位モデルは高騰、あるいは開発そのものが見送られる、あるいはクラウドファンディングへと向かう中で、38万円のマスプロダクションとして、この品質の11チャンネルAVアンプを開発、発売したヤマハに敬意を表したい。より高価、物量が投入されたモデルはあるものの、内蔵するDSPプログラムの完成度なども含め高い完成度で、高品位かつリーズナブルなAVアンプを出せるのはさすが。
・ Apple Bluetoothヘッドフォン「Apple AirPods MAX」
ワイヤレスのノイズキャンセリングヘッドフォンは音質は妥協しつつも体験を優先するものという概念を取り払った製品。B&O Beoplay HXがライバルとなるが、極めて歪感の少ない音場の整った音は、演出とは無関係で迫力に欠ける印象を持つものもいるだろう。しかし、色付けの良い音と音場再現は秀逸。難点があるとするならば、基本的にアップル製品とのペアリングでしか本領を発揮しないことか。他デバイスとの接続では、音質が落ちる場合が多い。それ故、2年ぶりのリニューアルとなったソニーの「WF-1000XM4」と迷ったが、唯一無二の製品として本機を選んだ
・ TVS REGZA 4K有機ELテレビ「X9400S」シリーズ
“OLEDは世代の切り替え期”。今後はLG製パネルの世代交代が進むだろう。最上位モデル選びには慎重になりたい一方で、従来パネルの品質は熟成の域に達している。特に暗室での映画モードの表現力は甲乙付け難い。ということで現時点での4K OLEDを選ぶなら、普段使いの良さを重視したい。レグザ9400Sシリーズの良さは、従来からのタイムマシン機能や“おまかせAI”による日常使いの使いやすさに加え、密かに(?)外部スピーカー端子を備えてること。手持ちの小型スピーカーがある人向けだが薄型テレビ内蔵よりもずっと良い結果が得られる。特に48インチモデルは機能と画質に対してリーズナブルだ。