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最近のオーディオ高すぎ! Amazonの音には不満? 山之内×本田の新春対談【後編】

本田雅一氏(左)と山之内正氏

評論家の山之内正氏と本田雅一氏が、オーディオ・ビジュアルの製品や出来事を本音トークする恒例の対談。2022年の動向を振り返りつつ、両氏が注目した製品や最新技術を語る。

後編では、注目のオーディオ機器を挙げつつ、高騰するオーディオ機器の価格の問題や、Amazon Musicの音質問題などを取り上げる。文末には、山之内氏と本田氏が推す、2022年の“オーディオ名品3選”、および「2023年の期待と展望」を掲載した。

今のオーディオは感覚的に“ウルトラハイエンド”。高くなりすぎている(山之内)

本田氏(以下敬称略): AV Watchの扱う製品ジャンルとしては、いきなりマイナーな話になってしまうけれど、個人的な2022年のオーディオでトピックだったのは、ラックスマンがサエクのナイフエッジ型トーンアームを搭載したアナログプレーヤー「PD-191A」「PD-151MARKII」をリリースしたことが驚きでした。

サエクは2019年に、同社の伝統的な名品であったダブルナイフエッジ型トーンアームを復活生産しましたよね。JELCO(市川宝石のオーディオ事業)が休業した時、サエクに「どうにか簡素化したものを作れないかな?」と尋ねていたこともあったのですが、そのときは「ナイフエッジのトーンアームを制作、調整できる職人が限られていて量産レベルは難しい」と話していた。だから、なおさらに”よくやった”なぁと。

ラックスマンのアナログプレーヤー「PD-191A」
アナログプレーヤー「PD-151MARKII」

山之内: 部品点数を減らしたり、精度の基準を変えるなど、いろいろな工夫を凝らしているのではないかと思いますよ。一体型で済ませられるような部品を導入する事によって、精度を保ちつつ、コストを下げるといった手法です。

サエクが復活させたダブルナイフエッジのトーンアーム「WE-4700」は細部まで徹底的にこだわって設計していますが、他社に供給する場合は、原理はそのままで、もっと作りやすいアームに仕上げる必要があるでしょうね。

サエク(SAEC)のトーンアーム「WE-4700」

山之内: Technicsの前例がありますが、日本のメーカーが30万円前後で本格的なアナログプレーヤーを投入する流れは、レコード文化にとってはプラスになると思います。今後もこうした動きは他のメーカーからも出てくるでしょうから。

7つのカラーバリエーションを用意した、Technicsの50周年記念モデル「SL-1200M7L」

本田: JELCOのオーディオ事業の休業は大きなインパクトだったのですが、それがきっかけに、まさかこうした展開が生まれるとは思いもしませんでした。

山之内: アームをきちんと作ろうとすると、今は本当に値段が跳ね上がってしまう。複数の企業が共同で、ローコスト化にチャレンジするのはとてもいい事だと思います。

本田: 幸いにもいまは円安のタイミングですから、ヨーロッパ、アメリカなどの海外に日本の技術を生かしたオーディオ機器が再び拡がって行けば、国内でのアナログオーディオ機器市場も活性化しそうです。

山之内: 昨年5月にミュンヘンのオーディオショウ「HIGH END」に行きましたが、日本のオーディオ製品がものすごく安く感じました。海外のブランドの製品が軒並み上がっているため、より際立って見える。日本から海外への輸送費もありますから、多少高くなるのは当然とはいえ、それでも他の海外ブランドに比べると安くみえる。

逆に言うと、日本にやってくる製品は輸送費の上乗せも増えて、また一段と高く見える。“ハイエンド”というよりも、今は感覚的に“ウルトラハイエンド”になりつつあります。それでも、ごく少数の方は購入できるでしょうが、高くなりすぎている現状は心配ではありますね。

アンプもスピーカーも互いに最適化されている“アクティブ”のメリットは多い(山之内)

本田: 記事ランキングの上位に入ることが多かったデノンは非常にバラエティも豊富で、求めやすい価格のオーディオ機器も出していますね。

山之内: 昨年はオンキヨーやパイオニアも復活しました。今後実際にどうなるかは分かりませんけれど、ピュアオーディオ機器も手掛けてくれるようになると、ユーザーの選択肢が広がります。

今はオーディオをいざ始めようにも、選択肢の幅が狭すぎます。オーディオショップに足を運ぶと、並べる機器が無くて棚が空いている状態なんですよね。

昨年8月に開催された新製品発表会で参考展示されていた、パイオニアのピュアオーディオ機器。「PD-10AR」「A-40AE」
こちらは、オンキヨーのピュアオーディオ機器。左から「C-7030」「A9110」

本田: 「わたし、オーディオが好きなんです」という若い方と話をすると、アンプという製品の役割を認識していない人もいるんですよ。おそらくイヤフォンからオーディオに興味関心を持ったこととも関係しているのでしょうけど、イヤフォンもスピーカーも“音が鳴るもの”という認識でしかなくて、なぜアンプがないと鳴らないのかということを理解していない人もいて驚きます。

山之内: そう考えると、アクティブスピーカーなどは薦めやすいですね。JBLの「4305P」を試聴しましたが、バランスのいい音で鳴っていて、注目を集めている理由が分かりました。こうした製品をきっかけに、アクティブスピーカーが拡がってくれるといいです。

JBLのアクティブスピーカー「4305P」

本田: 4305Pは僕も驚きましたよ。しかも左右はWiSAで繋がるのでケーブル接続する必要もない。フロントバスレフとホーン型のツイータは、設置する場所にも寛容で、壁に近く設置する際には低音部のアッテネーションを行なうボタンも付いてたり、比較的楽に良い音が引き出せる。ワイヤレス再生の機能も音質もよく、プレーヤ、アンプ、スピーカーと別々に揃えても、なかなかこのレベルには至らない。

これはイヤフォンでも同じことが言えますが、きちんとしたブランドで一体型、パッケージして作られている商品って、音質がコントロールされていますから、音の完成度が高いのですよね。

山之内: 設計しやすいし、アンプもスピーカーも互いに最適化されている。アクティブスピーカーのメリットは多いですよ。

本田: 極端な話ですが、同じくWiSA対応チップを使っているB&Oのワイヤレススピーカーを聞いたんですよ。なんとペアで1,000万円クラス。これが製品の格に見合う音がしっかりとする。

いわゆるHi-Fi志向というよりも、優れたデザイン性を持った上で、どっしりとした低域の上に、潤いのある気持ちのいい中音、ヌケのいい中高域から高域へのが乗っかっている。ああいう心地よいバランスをフロアに置いただけで実感できるのも、やはりアクティブの良さかなと思いますね。

KEFも同じ方向でいくつかの製品を出していますが、ブランドごとに音のまとめ方、価値観を構築できます。今後、もっといろいろな製品が増えて欲しいですね。

KEFのワイヤレススピーカー「LSX II」

どうしてAmazon Musicは音がよくないのか。実際の音を聴くと驚く(山之内)

山之内: e-onkyoを買収したフランスのザンドリーが、Qobuzのロスレス&ハイレゾ配信を近日に始めると宣言していますね。e-onkyoと共通で使えるアプリを現在開発中で、最初はダウンロード、ゆくゆくはハイレゾストリーミングを行なうようです。

AmazonもAppleもハイレゾストリーミングを行なっていますが、オーディオ装置で再生するにはハードルが高く、正直使いにくい。ピュアオーディオのネットワークプレーヤーやアンプなどが対応しているTIDAL、Qobuzが入ってくるとしたら、“Hi-Fiストリーミング”の1つの突破口になる可能性があります。そこは大いに期待しています。

本田: わたしはTIDALを辞めましたね。いまはQobuzですね。

山之内: 音質はTIDALよりもQobuzの方が優れているので、それもありですね。手持ちのプレーヤーやネットワーク機器がネット対応していると、アップデートですぐ使える可能性もありますし、買い足す必要もないので、サービスが始まればすぐに楽しめるはずです。

例えば、Amazonにはまだ対応できていないLINN DSでさえも、Qobuzの新サービスが日本で正式にスタートしたとしたらすんなり対応できるはずです。CEOを務めるギラード・ティーフェンブルン氏が「すぐできるように準備中」と話していましたしね。

Amazon Musicが、最大192kHz/24bitのハイレゾ・ロスレス配信を開始したのは2019年9月。サービス当初は「Amazon Muisc HD」という名称だったが、現在は「Amazon Music Unlimited」に変更されている

本田: Amazon Musicの今のクオリティであれば、対応したとしても使わなかったでしょうね。ちょっと期待はずれでした。

山之内: どうしてAmazon Musicは音がよくないのか。数字だけみれば、立派なものが並んでいるけれど、実際の音を聴くと「えっ!?」と驚いてしまう。

本田: 某メーカーの内覧に参加したら、デモでAmazon Musicを使っていて。「Amazonの音は悪いのに、なぜこれでデモをしているの?」と聞いたら、「Amazonのアカウントしかない」と言うのです。で、Apple Musicと音を聴き比べさせたら「なんでこんなに違うの?」となって、デモに使うサービスを見直すと話していましたよ。

Androidだからアップル以外がいいかと思いきや、Apple MusicのAndroid版の方が音質はずっと良かったですね。

日本発のハイレゾ対応音楽配信「mora qualitas」は、2019年10月のサービスインから3年を待たずに、2022年3月29日をもって終了した

AirPods Proの第2世代モデルは期待以上の出来でした(本田)

本田: ポータブルとしては、ソニーのウォークマン「NW-WM1AM2」が印象的でした。前モデルから引き続きハイエンドの音を出してますが、今回は最上位の特別なシグネチャーモデル(NW-WM1Z)でなくとも、“上位モデルの音質に近づいた”という意味で大きな進歩を感じました。

初代のシグネチャーモデルはすごく丁寧な音作りになっていましたが、通常モデルになると「あれ?」となっていて、乖離が大きかった。最上位モデルでやり切った上で、その低コスト版を作っているのかなと、当時そんな感想を話していました。

そのことを開発者も覚えていて、新モデルを聴きはじめる時から「今回は下のモデルから作りました」と話してましたね。標準モデルを作ってから、そこを基礎に物量をつぎ込んで上積みをしたそうです。

山之内: 上位の「NW-WM1ZM2」も進化してますが、AM2の進化が顕著でしたね。

2022年3月に発売した、ソニーのウォークマン「NW-WM1AM2」(左)と「NW-WM1ZM2」

本田: それから、ソニーのワイヤレスヘッドフォン「WH-1000XM5」も印象的でした。実はワイヤレスって、空間表現が苦手なイメージを持っていたのですが、しっかりと再現されていて、驚かされました。なかなかエポックメイキングな製品だと感じました。

あと、マクレビ(Mark Levinson)のワイヤレスヘッドフォン「No5909」も評価しました。この製品はUSB DACモードを備えていて、USBケーブルで接続した時の音がいい。先ほどのアクティブスピーカーとも話が繋がるのですけど、やはり音の入口から出口まで、1つのエンジニアが音をまとめて作ることは意義があるなと改めて思いましたね。

ソニーのワイヤレスヘッドフォン「WH-1000XM5」
Mark Levinsonのワイヤレスヘッドフォン「No5909」

山之内: わたしが印象的だったのは、B&Wの新しい700シリーズでしょうか。期待していたよりも相当に良くなっていて、上位800シリーズのクオリティにグッと近づきましたね。値段も近づいてしまったのが残念ですが、“750シリーズ”と言っている方もいるぐらい、800シリーズの良さを受け継いでいます。

あこがれの対象として、800シリーズを意識している方も多いでしょう。ブックシェルフ型の805D4だとペアで100万円越えになりますが、705S3であれば約半分の価格で買えます。

B&Wの700シリーズ

山之内: あと、ソース機器ではTechnicsから発売された「SL-G700M2」をお薦めします。このモデルは1台でなんでも再生できる……CD、SACD、ネットワーク、Bluetooth、それからUSB経由でパソコンにもつながる。これ一台買っておけば、ネット系のコンテンツはほぼ賄える。

ディスクプレーヤーなんだけれど、ネットワークプレーヤーでもあるというモデルですね。音も前世代から明らかに進化しています。DACのすぐ後にあるローパスフィルターでの位相の回り込みを回避するために、DACの前段であらかじめデジタルで補正する技術が入っていて、音質改善に寄与しています。

Technicsのネットワーク/SACDプレーヤー「SL-G700M2」

本田: ところで長足の進歩を遂げたといえば、実はアップルの「AirPods Pro(第2世代モデル)」は期待以上の出来でしたね。ドライバーやアンプなどを全て作り直していて、今までとは違い、空間を埋めるような情報を感じられるクオリティに仕上がっています。

山之内: わたしは第1世代を使ってますが、それは買い替えるほどの変化ですか?

本田: 買い替えてもいいと思います。空間オーディオの再現性や、ノイズキャンセリングの性能も向上しています。あそこまで良くなってしまうと、iPhone向けのイヤフォンとしてはほかのメーカーが勝負できないかと。iPhoneと組み合わせて使う分には、他にも様々な使いやすさを得られるようになっていますし。

もちろん、利用する方の音の好みもあると思うのですが、機能や使いやすさ、空間オーディオの立体感だとか、トータルで考えると、他の機種を選べないレベルです。一方で、音質のみでいえば、B&Oの「Beoplay EX」も素晴らしい仕上がりだったと思います。

B&Oの完全ワイヤレスイヤフォン「Beoplay EX」

本田: それから、まだ実際に発売されていないため参考までですが、ダイソンがヘッドフォン「Dyson Zone」を発表したのもびっくりでしたね。

英国まで足を運び体験しましたが、オーディオ的な表現力は老舗に及ばないまでも、極めて真面目なつくりでした。空気清浄機との組み合わせというユニークな製品なのですが、また機会があれば詳しくお話ししたいですね。

空気清浄機能付きのヘッドフォン「Dyson Zone」

2022年の“オーディオ名品3選”~山之内正編

B&W「700S3」シリーズ

スピーカーはオーディオ機器のなかでも特に進化のスピードが速く、エントリーからハイエンドまですべての価格帯でダイナミックな世代交代が進行中だ。B&Wの700シリーズも上位機種の技術を大胆に導入することで最新世代に生まれ変わり、従来とは別物の豊かな表現力を獲得した。ブックシェルフ型では唯一のツイーター・オン・トップ仕様を導入した705S3は空間表現力の深さで下位モデルとは一線を画すが、通常仕様の706S3と707S3も質感では従来機を大きく上回る。

705S3

LINN「SELEKT DSM Classic Hub/Edition Hub」

ネットワークプレーヤーとプリアンプを一体化したリンのDSMプラットフォームの中核を担うSELEKTが大きく2つのカテゴリーに分かれ、上位のEdition Hubは筐体も含めて新設計を導入して上位グレードへの移行を果たした。

DACとオーディオ出力回路のグレード、パワーアンプの有無ど、複数のモジュールの組み合わせを吟味することでエントリーから最上位機種まで予算に応じて多様な仕様を選べるようになり、リンのミドルレンジ機として魅力が高まった。サラウンド信号のデコードとマルチチャンネル再生をカバーするAV仕様も選択肢に含まれる。モジュール構成は基幹デバイスや回路の将来的なアップグレードも視野に入れているので、導入時は高価に思えるが、長い目で見るとコストパフォーマンスは優れている。

SELEKT DSM Classic Hub

ソニー「WH-1000XM5」

ソニーのワイヤレスヘッドフォンの頂点に位置する1000Xシリーズが第5世代に進化。音質改善に加えてデザインもいっそう洗練されたものに生まれ変わり、これまでのモデルチェンジ以上に変化の中味が濃い。環境の違いに柔軟に適応するノイズキャンセリング機能は基本性能がさらに向上し、いっそう深く音楽に没入できるようになった。筆者は第2世代機を使い続けていたので、音質と機能の進化の大きさを特に強く実感している。

WH-1000XM5
2023年の期待と展望~山之内正

AV機器の開発・製造を取り巻く環境は依然として厳しいものがあり、輸出入を中心に市場流通面の課題も山積していて、価格の変動要因はこれまでになく複雑化し、深刻化している。そんななかで私たちの購入意欲を刺激する優れた製品を開発するのは簡単ではないと思うが、コロナ禍の影響で開発にかける時間だけはたっぷり確保できるようになったそうだ。

その時間的な余裕をどこに活かすかは作り手によって違いがある。既存の製品群の品質改良に取り組むメーカーもあり、斬新なアイデアで新たな需要の喚起を目指すブランドも目を引く。別項で挙げた2022年の注目モデルにもそれは当てはまり、定番製品のリニューアルやプラットフォームの大胆な見直しが成功につながっている。

2023年もその進化が足踏みしないことを望みたいが、どうなるだろうか。この時期に具体的な製品の動向を読み取るのは難しいので、筆者が特に注目している分野をオーディオを中心に3つほど挙げておこう。対談でも触れたが、まずはロスレス・ハイレゾストリーミング環境が欧州と同等の水準に充実することをまずは強く期待したい。それが実現すれば、アンプやプレーヤーへのネットワーク機能の導入がさらに進み、アクティブスピーカーの進化も加速するはずだ。特に後者についてはスピーカー専業メーカーが手がける本格派のアクティブスピーカーに期待が募る。

2022年の“オーディオ名品3選”~本田雅一編

JBL「4305P」

JBLならではのコンプレッションドライバを採用するホーン型ツイーターに、フロントバスレフのウーファー。ブルーのバッフルにウォールナットのエンクロージャーなど、往年のJBLを彷彿とさせる外観だが、その中身は音楽ストリーミング再生、AirPlay再生、Bluetooth再生、USB再生など、さまざまなデジタル再生機能とデジタルアンプを内蔵したワイヤレススピーカーだ。

有線LANでのネット接続や、左右チャンネルの有線接続も可能だが、Wi-Fiはもちろん、左右チャンネルはハイレゾ音声通信規格のWiSAで接続されるので、電源さえあればレイアウトフリー。しかし何よりも魅力的なのは、完成度の高い音質。ペア22万円でこの音質を実現できる3点セットは思いつかない。伸びやかで明るい音質、気持ちよく聴けるサービスエリアの広さなど、万人に勧められる良作だ。

4305P

アップル「AirPods Pro」(第2世代)

メーカーは「改良型ドライバとアンプを搭載」としか話していないが、前作からは大幅な音質の向上が図られている。完全ワイヤレスステレオのジャンルではB&O Beoplay EXが優れた音質で楽しませてくれたが、ノイズキャンセリング能力、通話時マイクのノイズ遮断能力と音声の的確な抽出、自然な透過モードや唐突な騒音に見舞われた際に耳へのダメージを緩和する機能など、iPhoneとの組み合わせに限定されるものの、機能と音質のバランスにおいて突き抜けて優れた製品に仕上がった。

アップルが別途充実させてきた空間オーディオ(Dolby Atmos)アレンジの楽曲再現性が高くなるよう音響設計がなされているとのことで、耳形状への最適化を行なうと驚きの立体的な音場も楽しめる。

AirPods Pro(第2世代)

ソニー「HT-A5000」

もし十分な予算があるならば、引き続き同社の「HT-A9」を強く推したい筆者だが、サラウンド環境の経験値が低いユーザーには、まずこの製品から入るのもいいだろう。この製品単体でも天井と壁からの反射音を用いたイネーブルドスピーカー、サラウンドスピーカーで立体音響を楽しめるが、そこに専用のワイヤレスサラウンドスピーカー、サブウーファーと追加していくことで、本格的なイマーシブサウンドの世界へと誘ってくれる。

下位モデルには「HT-A3000」もあるが、将来的なステップアップも見据えるならば、重要なフロントのスピーカー再生能力に余裕があるこちらから始めるのが良い。価格差以上に実力は高い。

HT-A5000(設置イメージ)
2023年の期待と展望~本田雅一

ディスプレイのジャンルでは、ミニLEDをバックライトに使う液晶ディスプレイが予想以上にコストダウンし、各社液晶テレビの画質を底上げしそうだが、やはり2023年はLGディスプレイの第3世代OLED(MLA-OLED)が注目だろう。2025年までを見据えると、中国TCLが日本のJOLEDからのライセンスを受けた印刷プロセスによるOLEDが量産される見込みだが、幅広い価格帯での画質の底上げという意味では、LGディスプレイの新パネルは注目に値する。

日本のメーカーもパナソニックが早速、MZ2000シリーズでMLA-OLEDの採用を明らかにしているが、いずれ各社のOLEDテレビにも波及していくはずだ。マイクロレンズアレイによって60%輝度が向上したことで2,100nitsまで最大輝度が伸びることが主な改良点だが、evoパネルで施された色純度向上なども併せ、表現力の幅は広がる。

“テレビ放送受像機”としての意味合いはかなり下がってきており、映像を楽しむディスプレイとしての意味合いは、今後、さらに強まっていくと思われる。テレビ単体でさまざまな映像メディアへとアクセスする機能は当たり前になっているが、今後はその質(応答性や柔軟に多様なサービスに対応できることなど)が問われるようになるだろう。

ホームシアター向けのオーディオに関しては、AVセンター市場の低迷が続く中、引き続きサウンドバーの高品位化が進むと予想する。基礎的な音質の向上はもちろんだが、無線によるリアルタイムのスピーカーリンク技術の活用が進むことで、手軽に高音質サウンドバー、アップグレードで無線スピーカーを配置するという流れができればいいのでは? と思う。

規格の面では無線スピーカー向け規格のWiSAが成熟し、ハイレゾ品質を保ったままでDolby Atmos対応を果たせるところまで技術が成熟してきた。AVマニア向けには、引き続きセパレート型のAVセンター+有線スピーカーによる多チャンネル構成が主流だろうが、あまりにエントリークラスとの差異が激しい。その間を繋ぐ製品として、ソニーのHT-A9などもあるが、よりカジュアルな製品群がWiSA対応で登場してくることを期待したい。

TWSなど無線イヤフォン、ヘッドフォンに関しては、iPhoneとのペアリングにおいてはAirPods Pro(第2世代)と競合できる製品が簡単に現れるとは思えない。しかし、ワイヤレスヘッドフォンというジャンルで、WH-1000XM5が達成したような“明らかに異なる評価領域”への進化の可能性がゼロというわけではなかろう。

オーディオ製品は、その製品を使った時にオーナーが感じる“感覚”が全てだ。そろそろワイヤレスのオーディオ装置も、機能やサウンドのキャラクターといった表面的な部分ではなく、より深い部分で感情に訴えかけるところに2023年は踏み込んで欲しい。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。

本田 雅一

テクノロジー、ネットトレンドなどの取材記事・コラムを執筆するほか、AV製品は多くのメーカー、ジャンルを網羅的に評論。経済誌への市場分析、インタビュー記事も寄稿しているほか、YouTubeで寄稿した記事やネットトレンドなどについてわかりやすく解説するチャンネルも開設。 メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。