トピック

ミニLEDで"液晶モンスターAQUOS”誕生!? シャープ次世代ディスプレイを見た

ミニLED次世代ディスプレイ(試作機)

今年6月29日、シャープは“ミニLED次世代ディスプレイ”の開発を発表。大阪・堺市で同日行なわれた株主総会会場で、試作機を展示した。

ミニLEDは、ディスプレイの輝度を一段と高める事に加え、液晶の弱点であるコントラスト性能を飛躍的に改善できると期待されている光源だ。TCLやLGといった海外のテレビメーカーは、すでにミニLED採用テレビをハイエンドラインに展開し始めており、国内ブランドからもミニLEDテレビの登場が期待されている。

今回、短時間ながらもシャープが開発中の次世代ディスプレイを視聴することができた。圧倒的な高輝度と有機EL並みのコントラストを備えた試作機は、次期液晶AQUOSが大化けすることを期待させるものだった。

シャープ、「mini LED 次世代ディスプレイ」開発

次世代ディスプレイはピーク2,000nit超の“液晶モンスター”

同社が開発した試作機は、パネル解像度4K/3,840×2,160ドットの65型液晶ディスプレイ。表面処理は、映り込みを抑えながらもクリアな映像を表示できるシャープ独自のグレア系パネル「N-Black」が使われていた。

映り込みが少なく、つやのある黒を実現するN-Blackパネルを使用

次世代ディスプレイ最大の特徴は、ミニLEDをバックライトに採用した事。

従来の液晶テレビは、数十~数百個の白色LEDを拡散させて使うが、次世代ディスプレイでは従来機比で約1/10サイズの青色LEDを8,000個以上、液晶直下に敷き詰めている。

次世代ディスプレイでのミニLED搭載イメージ
従来ディスプレイでのLED搭載搭載イメージ

さらに、それらを1,000以上のエリアで分割駆動し、各エリアのLEDを細かく制御。映像内の暗部は光量を弱め、明部は光量をブーストすることで明暗のレンジ拡大と電力効率化を両立。結果、ピーク輝度2,000nit超、コントラスト比100万:1という“液晶モンスター”を作り上げた。

試作機に使われている青色LED
ボールペンとの比較
四角いブロックが青色LED。ボールペンの芯先くらいのサイズ

高輝度性能を売りにした液晶テレビでも、明るさはせいぜい600~1,000nit。2,000nitを超えるような超高輝度クラスはその多くが業務用ディスプレイに限られており、民生用のテレビでは、初代AQUOS 8K「8T-C80AX1」(約200万円)や、ソニーの8Kブラビア「KJ-85Z9H」(約200万円)など、指折り数える程度しかない。また分割制御数も数十~数百にとどまり、2,000オーバーの超高輝度、4ケタ以上の超多分割制御を実現するには、ミニLEDの存在が欠かせない。

液晶ディスプレイにおけるバックライトの違い

試作機で視聴した映像は、同社有機ELテレビの店頭デモ用に制作された素材。有機EL向けというだけあって、高コントラストなディスプレイに映えるシーンが多く、一般的な液晶にとっては都合のよくない素材なのだが、次世代ディスプレイは液晶とは思えない強烈なコントラストを描写。

港の夜景や夜祭りといった明暗の差が大きなカットは、看板のネオンや灯籠が眩しく光り物体が立体的に感じる一方、夜空や照明の当たっていない暗がりはしっかりと締まり、黒浮きする様子は一切見られない。星のような面積の小さい物体が煌めく様や最暗部の漆黒感などは自発光の有機ELに及ばないものの、それ以外のコントラストはかなり有機ELに近い。

次世代ディスプレイ
従来ディスプレイ(4T-C65CH1)との比較

そして何より、輝度パワーが凄まじい。蛍光灯が並んだオフィス環境下でも明る過ぎるほどで、外光が強く差し込むようなリビングに本機を置いても鮮明な映像が楽しめそう。その強烈な輝度の効果で、ビルや遺跡を捉えた日中の何気ないシーンも実際の太陽光が照らしているかのようにリアルに感じる。APL(平均輝度)が高いシーンはもともと、液晶方式が有利だったが、この次世代ディスプレイを見る限り、ほかとの差が一段と開いた印象。

視野角はどうかと上下左右に角度を付けて画面を覗いたが、もともとの輝度が圧倒的に高いこともあってか、輝度落ちはそこまで感じない。明るさのムラも気にならず、ユニフォーミティも上手く整頓されている。

また、LEDのエリア分割制御で指摘されがちなハロー(漏れ光)も気にならなかった。

明室×ダイナミックモード×デモ映像という限られた中での視聴ではあるものの、明部と最暗部の境界は自然で、映像とバックライト制御が上手くシンクロできていると感じた。思えばシャープは、RGB LEDを搭載した「XS1」(2008年発売)の頃からエリア分割技術を積極的に組み込んでおり、LED制御のノウハウに関しては他社よりも一日の長があるのかも知れない。

次世代ディスプレイ
従来ディスプレイ(4T-C65CH1)との比較

もう一つ、次世代ディスプレイで感じたのは色域の広さ。従来液晶は「白色LED+カラーフィルター」のコンビだったが、次世代ディスプレイでは「青色LED+量子ドットシート+カラーフィルター」という組み合わせでRGB光を取り出している。

液晶とバックライトの中間にある量子ドットシートとは、光の波長変換を効率的に行なえる優れた光学素材で、広色域化を目的に海外メーカーでは既に使われ始めている。今回の次世代ディスプレイは、量子ドットを使うことで従来機比1.2倍の広色域表現を可能にしたとしており、青色LEDの光からの赤・緑の波長変換と、カラーフィルターとの複合効果で広色域を実現したものと思われる。

ディスプレイ構造
従来ディスプレイ(4T-C65CH1)との比較

本機の広色域性能が目立つのは、CGでデザインされたスポーツカーのシーン。正直少しやり過ぎと感じるほど、発色が強く鮮烈な赤、青、緑色が目に飛び込んでくる。BT.709やDCI-P3のコンテンツよりも、4K/8K放送のような、BT.2020収録素材との組み合わせで本領を発揮してくれそうだ。

唯一残念だったのは、次世代ディスプレイのポテンシャルが高すぎる故に、再生に使ったデモ映像が力不足とすら感じてしまった事。有機EL向けに作成した素材では、パワーを持て余している印象だった。ピーク輝度2,000nit超、コントラスト比100万:1という液晶モンスターが表示するに相応しいガチンコのコンテンツを製品化の際にはデモして欲しい。

登場は意外と近い? 液晶モンスターAQUOSが楽しみ

今回は、「開発途中の試作機で用意されたコンテンツを観るだけ」という条件もあって、映画など、デモ映像以外のコンテンツを観たり、開発者の話を聞くことは叶わなかった。

ただ視聴を通じて感じたのは、開発中の次世代ディスプレイは、明るさという液晶方式の強みをより一層伸ばしながら、有機EL並みのコントラスト性能を獲得した“両方式いいとこどり”のディスプレイに仕上がっていたという事だ。

視聴した部屋には、比較用に最廉価AQUOS 4K「4T-C65CH1」が設置されていたのだが、高輝度・高コントラストを獲得した次世代ディスプレイの前では、現行機が“数年前に発売した古いテレビ”に見えてしまうほどの画質差だった。これが店頭なら、多くのユーザーが次世代ディスプレイを選択するだろう。

少なくとも液晶の弱点とされたコントラスト性能は、ミニLEDの効用でだいぶ改善され、「コントラストなら有機EL」と考えていたユーザーも心が揺れそう。液晶で残された課題とすれば、あとは動画解像度くらいかも知れない。

海外メーカーに比べ、国内勢はミニLED光源の導入が遅れ気味だったが、国内でシェアを持つシャープがミニLEDを液晶テレビにいち早く採用すれば、他も追随してくることが予想される。ソニーのBacklight Master Driveをはじめ、パナソニックもレグザも高精度なLED制御技術を持っており、導入の障壁は高くないだろう。有機EL一色だったハイエンド4Kテレビにも選択のバリエーションが増えそうだ。

最後に気になるのは、シャープの次世代ディスプレイがいつやってくるのか? だが、試作機を見た筆者の勝手なイメージでは、“次世代”と言うほどはそう遠くない未来……例えば、今年後半や来年にも、現実的な価格でひょっこり登場するのではと感じた。ともあれ、ミニLEDを搭載した液晶モンスターAQUOSの登場が今から楽しみだ。

阿部邦弘