レビュー

バランス対応プレーヤー+イヤフォンで破格の5万円。パイオニア「private」で聴くハイレゾ

 国内メーカーの中でも積極的にハイレゾ製品へ取り組む、オンキヨー&パイオニアイノベーションズから、「オンキヨー」と「パイオニア」両ブランドの小型プレーヤーが登場した。中でも、パイオニアブランドの「private XDP-30R」は、同日発表されたイヤフォン「SE-CH5BL」を組み合わせると、高音質なバランス接続対応ながら合計約5万円(直販価格は39,800円 + 8,480円)という価格が魅力だ。

ハイレゾプレーヤー「private XDP-30R」とイヤフォン「SE-CH5BL」

 ハイレゾ再生対応のポータブルオーディオプレーヤーは、価格帯も数十万円するハイエンド機から、より低価格かつコンパクトなモデルも加わり、バリエーションが広がっている。そんな中、バランス対応のポータブルプレーヤーで手頃なモデルといえば、代表的なのはAstell&Kernの「AK70」(直販69,980円/税込)だ。XDP-30Rは、プレーヤーとイヤフォンを合わせても約5万円という価格はかなりのインパクト。

 2つのDACを内蔵し、microSDスロットも2基装備、内蔵16GBメモリと合わせて最大416GBまで拡張できる。スペックを見ても“エントリー機”とは侮れない。この価格でどんなプレーヤーに仕上がっているのか、日常使いのプレーヤーとして定着しそうか試した。

片手操作の軽量なプレーヤー、バランス特化のイヤフォン

 「XDP-30R」の本体デザインは、アルミシャーシの特徴を活かし、角がシャープでソリッドな質感で、ハイレゾ対応を印象付ける形状。右側に大型のボリュームノブを備える。本体カラーはブラックとホワイトで、今回はホワイトを使用している。

private XDP-30R

 右下の部分が斜めにカットされた形になっているのが、既発売の上位モデル「XDP-100R」や「XDP-300R」と共通したアクセントで、同時に発表されたオンキヨーブランドの「rubato rubato DP-S1」と違う点でもある。外形寸法は94×63×15mm(縦×横×厚さ)で、コンセプトにもなっている「片手操作で様々な音源を楽しむ」のにちょうどいい持ちやすさ。重さは120gで、正面からのメタリックな見た目に対してかなり軽く感じる。なお、AK70は約132g、ウォークマンA30は約98gだ。

側面のボリュームノブ
microSDスロットは2基
USBは給電/転送用でデジタル出力には対応しない

 ディスプレイはタッチ操作。前面の黒い部分のうち、タッチディスプレイは2.4型と小さめだ。スマートフォンや、ウォークマン/AKシリーズなど他のハイレゾプレーヤーと比べると、タッチ画面は少し窮屈にも感じる。AK70(直販69,980円/税込)やウォークマンNW-A30(21,880円~43,880円)と並べてみると、ディスプレイ部分が少し奥まった場所に見える。タッチ操作の感度には問題はないため大きな支障はないが、この辺りはコスト面で割り切った部分かもしれない。

左のXDP-30Rは、右のAK70に比べて、画面が奥まっているように見える
左がXDP-30R、右がウォークマンA30

 背面の素材は樹脂のように見えるが、マットな仕上げで、手に持つと滑らずにフィットする。個人的な好みで言えば、全体が金属などでツルツルするよりも、持ちやすさでは良い印象だ。背面を角度を変えながら眺めると、特徴である「twin dac」の文字が見える。

 ヘッドフォン出力は2系統で、ステレオミニのアンバランス出力の脇に2.5mm 4極のバランスを装備。スピーカーなどに接続するためのラインアウトモードは、どちらの出力端子でも使える。USB端子は充電とデータ転送用で、USB DACとして利用できないのは上位モデルとの大きな違いでもある。バッテリは1,630mAhで、連続再生はFLAC 96kHz/24bitの場合15時間。

上部のヘッドフォン出力
左から、iriver AK70、XDP-30R、ウォークマンNW-A30
ヘッドフォン端子部。左から、ウォークマンNW-A30、XDP-30R、iriver AK70

 イヤフォン「SE-CH5BL」はケーブルを耳に掛ける形で、9.7mmのダイナミック型ユニットを備え、40kHz以上も再生可能とするハイレゾ対応モデル。プラグは2.5mm 4極で、ケーブル交換はできないため、バランス接続専用のモデル。ハウジングは樹脂製で、プレーヤーに比べると“ハイレゾっぽさ”は見た目からは伝わりにくいが、決して安っぽいプラスチック感ではなく、光沢を抑えた落ち着きのある表面仕上げとなっている。

SE-CH5BL

さっそく音質チェック。バランス接続の良さを体感

 XDP-30Rで音楽を聴くには、パソコンからmicroSDまたは本体メモリへの楽曲転送などが必要だが、細かい操作は後ほどお伝えするとして、まずは基本操作と、肝心の再生音の良さから。

 電源を入れると、シンプルな構成のメニューが表示。OSはAndroidではなく独自のUIで、基本の「Music」と「Streaming」などがあり、Musicメニューから、アーティストやアルバム、ジャンルなどを選んで再生する。ハイレゾはPCM系が192kHz/32bitまで、DSDネイティブ再生は5.6MHzまで対応する。

トップ画面

 「低価格でもバランス接続の高音質を楽しめるように」という製品の企画意図どおり、再生が始まってすぐに、バランス接続の良さがハッキリとわかる。

 iPhoneなどのスマートフォンや、アンバンス接続のウォークマンA30などに比べると、左右のイヤフォンからクリアに聴こえるステレオ感、ボーカルの口の位置、動きまでイメージできる明確な定位感が味わえる。

 特徴である「バランス接続」の基本についても改めて確認したい。通常のステレオミニ(3極)などアンバランス接続の場合は、ユニットの片側にアンプ(正相)、もう片方にグランド/アースが接続されている。

 このグランド側に、アンプ(逆相)を接続して、1つのユニットを2つのアンプでドライブするのがバランス駆動。2つのアンプを使うため、ドライブ力が向上するとともに、グランドを共用せず、左右チャンネルのクロストークを低減し、ステレオ感(左右の分離)が明確になるのもメリット。

一般的なアンバランス接続
バランス接続は2つのアンプでドライブ

 今回の組み合わせで聴いていると、ダイナミックレンジの広いハイレゾの良さも味わえる一方で、CDの44.1kHz/16bit音源でも、バランス接続の良さがとても分かりやすく、イヤフォンの「SE-CH5BL」を力強くドライブする。水曜日のカンパネラのアルバム「SUPERMAN」では、「一休さん」や「ジンギスカン」などのベースの沈み込みの深さをしっかり刻みつつ、低音全体がもたつかず歯切れが良いため、各曲に共通する特徴である軽やかさが損なわれない。「世阿弥」で、左右チャンネルをボーカルの定位が動くような部分も、音の移動感がよりはっきりと感じられる。

 このイヤフォンは、ハイレゾ/バランス対応ながら1万円を切る価格ということもあって、過大な期待はしていなかったが、実際に聴いてみると、バランス接続の良さをストレートに表現しているのが分かる。

2.5mm 4極端子に接続

 通気部にはチューブを使った「Airflow Control Port」で低音の音圧バランスを整えているほか、ノズルの内径を広げ、振動板の再生音をストレートに鼓膜へ届くため、波長の短い高域が打ち消し合う反射波形を抑えられるという。

 その他にも、開発者に聞いた話では、新モデルのハウジングには新たにシリコン系の接着剤を使用し、接合部分の不要な振動まで抑えたとのこと。このように、資料では書ききれなかったほど細かなこだわりもあって、音の存在感がより際立つという、バランス接続の良さにつながっている。バランスに特化した(ステレオミニへのケーブル交換はできない)モデルであることも納得できる。

 試しに、このイヤフォンと同時に登場した、アルミハウジングの上位モデル「SE-CH9T」(実売12,000円前後)をつないでみると、こちらはよりフラットなバランスで、金属筐体と不要な鳴きをしっかり抑えた仕上がりにより、味付けせずハイレゾを楽しみたいという人に適したモデルだと感じる。

 それに比べると、CH5BLは、低域部分の量感を持たせるように“薄化粧”したような印象も受けるが、過度に盛ったようなクセはなく、ハイレゾ&バランス接続の良さを手頃に、体感しやすい組み合わせとしてちょうどいい具合を、極限まで突き詰めたことがうかがえる仕上がりだ。

イヤフォンの上位モデル「SE-CH9T」

 ライバル機としては、ソニーのウォークマン「NW-A30シリーズ」やiriver Astell&Kernの「AK70」がイメージできる。後から登場したXDP-30Rを、バランス接続できないウォークマンAと比較するのは酷だが、価格が大きく変わらない両機で、同じ音源でも明らかにXDP-30Rの方がセパレーションが高く、アンプの違いもあってか、クリアでパワー感のある音で聴ける。AK70とXDP-30Rを比べると、AK70の方が、繊細な表現や、シャープな音の立ち上がり/立下がりといった基礎能力が高く、USB DAC機能もあるので数万円の価格差があることも納得できる。

 XDP-30Rの良さは、軽さ/持ちやすさを含めた取り回しの良さがありつつ、ハイレゾ/CDなど様々な音源を高音質で楽しむバランス接続の魅力が、低価格で味わえること。その目的は、聴く前のイメージよりもかなり高いレベルで実現していることを実感した。

期待していたスマホアプリでリモコン操作は?

 音以外にも、試してみたかったのがスマホアプリ「DuoRemote」でのコントロール。上位モデルにも現時点では無い機能として、XDP-30RにはiPhone/Androidスマホアプリをリモコンとして利用可能だ。XDP-30RはBluetoothヘッドフォンとワイヤレス接続して聴けるだけでなく、アプリを使うと、Bluetooth経由で曲送りなどの操作がスマホからも行なえる。

DuoRemoteアプリ

 「本体は小さいので、直接ボタンを押しても変わらないのでは?」という意見も分かるが、実際にアプリと連携させてみると、普段の筆者の使い方にはかなりフィットする。

 例えば、スマホでWebサイトやアプリなどを見ながら、XDP-30Rで音楽を聴いている時、曲送りをするには手に持ったスマホから持ち替えるか、反対の手でXDP-30Rの本体ボタン(またはイヤフォンのリモコンなど)を押す必要がある。アプリを使えば、画面を切り替えるだけでXDP-30Rの操作へスムーズに移れる。再生曲名/アーティスト名もスマホ画面に表示されるため、聴きたい曲まで何度も送りたい場合も、音が出るのを待たずにテンポよく進める。カバンや傘などで片手がふさがっている時にも、スマホから持ち替える必要はない。

スマホアプリ画面(左)。音源のサンプリングレート/量子化ビット数も表示

 ただ、本体の電源OFFなどでBluetooth接続が切れたときに、場合によってはうまく再接続できず、改めてペアリングし直さなければいけない時もあったので、接続性については今後も改善を望みたい。また、Bluetoothヘッドフォンで接続した場合(MDR-1000X使用)は、スマホとペアリングできなかったので、その場合はヘッドフォン側で操作する形(AVRCP対応ヘッドフォンの場合)になるだろう。

 DuoRemoteは現状、再生/一時停止、ボリュームといった基本操作に限った使い方ではあるが、スマホを操作してからXDP-30Rが反応するまでのタイムラグも少ない。他のプレーヤーにもあまりない機能であるので、一つの特徴としてBluetoothは便利に活用できる方向へ伸ばしてほしい。

ボリューム操作時の追従もスムーズ

プレイリスト作成でもスマホ連携活用

 音質については、間違いなく価格以上の能力を実感できた。一方で、今後の改善に期待したいのは本体の操作性の部分。起動時に本体メモリとmicroSDを読み込む時間が少しもどかしかったのと、一旦電源が落ちると、以前再生中だった曲が記憶されておらず、最初の曲選びに戻ってしまう。曲の途中で一時停止して、後からその続きを聴きたい場合も、一定時間が過ぎると、起動時にまたトップ画面になる。かといってオートパワーオフを使わないと、消費電力は少なくないのでもどかしい。

 「今ピンポイントでこの曲が聴きたい」ときに、アルバムやアーティストから絞るのはできるが、それだと目的の楽曲再生が終わった後にフォルダをまたいで別のアルバム/アーティストへ移らない。一方、全曲表示の状態から目的の曲を探すと、曲によってはスクロールにかなりの時間がかかる。

楽曲選択画面

 例えばウォークマンA30やAK70の場合、全曲表示の状態で、画面の右端をタッチしてスライドすると画面がスクロールするバーが表示されるため、曲名でABC/アイウエオ順のどのあたりにあるか見当をつけてバーをスライドすれば、素早く目的の曲を再生できて、それ以降はアルバム/アーティストをまたいで聴ける。

 XDP-30Rにもスクロールバーはあるが、それをタッチして上下できないため、日本語のタイトル(特に漢字)は何回も指を下から上へスワイプする必要がある。特定のアルバムだけ、アーティストだけ聴きたい時は絞り込み検索でいいが、できればアルバムやアーティストで絞らず流しっぱなしで聴けるようにしたい。聴き方の好みは人によって様々だが、SpotifyやApple Musicなどプレイリスト型の配信が広まっている今、プレーヤーの再生方法についても、アルバム単位で聴く方法とは別の選択肢の幅も広げてほしい。

 現状では、そうした自分なりの再生を楽しむには、プレイリストの活用が必須となりそうだ。プレイリストの作成は、XDP-30R本体で行なう。アルバムやアーティストなどの右側に表示される「+」を押すと、既存または新規で作ったプレイリストにその曲やアルバム/アーティストを追加できる。なお、iTunesなどパソコンで作ったものはサポートしない。

 XDP-30Rから新規でプレイリストを作ろうとすると、入力できる文字は英数字で、ケータイ風のテンキー入力。フリックはできないので、キーを押すごとにa→b→cと順送りして、目的の文字を入れる。かつてのケータイ入力そのもので、少し面倒。

 そこでBluetooth接続した状態のiPhoneで先ほどのアプリ「DuoRemote」を見ると、XDP-30Rに連動して新規プレイリストの名前を入力する画面になっており、日本語を含むiPhoneのキーボードが使えるのが分かった。フリック入力も可能なので、こうした点でも、スマホ連携のメリットが実感できた。

新規プレイリスト作成画面。XDP-30R単体は英数字入力だが、スマホなら日本語入力も

 PCなどからの楽曲転送には、専用PCソフトの「X-DAP Link(クロスダップリンク)」が用意されている。しかし、Media GoやiTunesなどに比べると、率直に言って使いづらい。手持ちの楽曲ライブラリがある場所(PCのHDDやネットワーク内のNAS)を指定し、3つ設定できる転送先にXDP-30Rの「内蔵メモリ」、「microSDスロット1」、「microSDスロット2」のそれぞれを割り当てる。その後、楽曲をまとめて転送するまでは大きな問題はなかった。

 しかし、後から1アルバムだけ、1曲だけ追加したいときにも、結局そのストレージ(microSDスロット1など)を全部転送し直すことになってしまった。1度接続したプレーヤーを再度つないだ時にも、また転送先の領域を手動で指定しなければならないのは、何回も続くと面倒に感じる。

X-DAP Link

 筆者の場合はウォークマンで使っていたMedia Goでの運用が一番慣れているので、X-DAP Linkの使用はいったん断念し、割り切ってMedia Goだけで運用することにした。転送先メモリの指定はMedia Goでもできるため、大きな問題は感じなかった。PCとの接続はUSBマスストレージモードのため、単純にドラッグ&ドロップで「music」フォルダへアーティスト名のフォルダごと転送する方法も問題なくできた。

Media Goでも転送できた

 ソフトの使いやすさは、何に慣れているかによって感じ方は違うものだが、純正ソフト以外の手段でも幅広く使える自由度があってよかった。X-DAP Linkならではの使いこなしを極めていくのも一つの面白さかもしれないが、ソフトに自分を合わせるのではなく、自分なりの使いやすさを基準にしたほうが、結果として長く使い続けることにつながると思う。

 なお、初期状態ではXDP-30R本体の「自動同期機能」がONになっている。これは起動時に毎回内蔵メモリやmicroSDを読み込み直して、表示内容を正しくするものだが、楽曲を入れ替えていなくても、毎回読み込み直す時間を待つのは少し無駄だ。そこで自動同期をOFFにして、microSDに曲を追加した時などは、手動で「今すぐ同期」→「追加された曲のみを同期」を押すことにした。よほど曲を頻繁に入れ替える人でなければ、この運用で良さそうだ。

好みの音質にとことんこだわる楽しみも

 これまで説明した通り、メニューはシンプルなものだが、音質設定は、このクラスの製品としてはかなり豊富かつ強力。最も特徴的なのは、バランスモードの出力切り替えで、2.5mm 4極イヤフォンを繋いだ状態で「Balanced (初期値)」と「ACG」がトップ画面からもワンタップで変更できる。

トップ画面でACGとBalancedの変更ができる

 「Balanced」は、通常のシングルエンド駆動に比べて出力が大きく、大電流が小信号部と共通のグランドに流れないため、音質面でも優れた効果が得られるという、一般的なバランス接続の方法。インピーダンスの高いヘッドフォンもドライブ可能としている。

 オンキヨー&パイオニア製品で独自の「ACG」は、基本的な駆動方法はBalancedと同じながら、グランドの基準をさらに強固にする技術で、安定感とクリア感を向上する。ただし、XDP-30RでACGを使うと、出力ボリュームは通常のシングルエンド駆動と同等になるという。

 今回使ったイヤフォンのSE-CH5BLのインピーダンスは26Ωで、極端には高くないため、結論から言うとどちらのモードでも問題なく聴ける。Balancedは全体のパワー感が上がる一方で音場は少し広めな空間で聴く印象に対し、ACGモードにすると、より輪郭がしっかりしてどっしりした音になる一方で、出力は下がるせいか、音場としては少し頭の中央に寄るイメージ。ちょっとした違いではあるが、「音場感」と「定位の明確さ」のバランスが、どのあたりでちょうど良く感じるかという好みや、曲ごとの違いによって、使い分けても良さそうだ。

 「ロックレンジアジャスト」機能も装備。DACが同期する際のロックレンジ精度をユーザーが調整できるもので、狭くするとジッタ(揺らぎ)によるノイズは減るが、ロックが外れる(同期が外れる)と、ブツブツと音が切れる。再生音を聴きながら、音切れしないギリギリまでロックレンジを狭く追い込むという、マニアックな聴き方もできる。パイオニア製品では、据え置きのDAC/ヘッドフォンアンプ「U-05」などに搭載されており、XDP-30RはWide→Normal→Narrowの間で7段階の切り替えができる。

ロックレンジアジャスト

 デジタルフィルタのSHARP/SLOW/SHORT切り替えも可能で、音の立ち上がりや消え際のメリハリが効いたSHORTや、逆に余韻を残したアナログっぽいSLOW、輪郭を明確にするSHARPが選べる。「ハイレゾらしさ」を楽しむには、初期値のSHARPやSHORTが分かりやすいので、これで手持ちの楽曲を聴いてみると、それ以前に使っていたプレーヤーとの音の違いが分かりやすいだろう。

デジタルフィルタ選択

 なお、「カスタムサウンド」機能としてイコライザも搭載されている。初期値はオフで、試しにオンでFlat(初期値)にして聴くと、あえて平坦にしたようにおとなしいサウンドになった。ハイレゾ+バランスの良さをそのままストレートに楽しみたいなら、カスタムサウンドはオフのままで良さそうだ。

 そのほか、ヘッドフォン出力を外部機器と接続するラインアウトモードもあり、同モードにするとヘッドフォン端子から最大音量が出力され、音量調整は接続した外部機器で行なう形となる。

Wi-Fiでradiko。アップデートでe-onkyoダウンロードも予定

 Android端末のようにアプリを入れ替えて楽しむ自由度は無いものの、無線LAN搭載が活かされるのはradiko.jpとtuneInのインターネットラジオ機能。Streamingメニューから、radikoは地域を選んで聴く形となり、有料のプレミアム会員登録(月額350円)を行なえば、住んでいる地域以外の局を聴ける「エリアフリー」も利用できる。tuneInは、世界中の様々な局を選んで聴ける。

radikoとtuneIn対応

 いずれもネットラジオの伝送レートなので、ハイレゾなどの音源と比べてしまうとシャリシャリした軽い音質だが、手持ちの音楽をしばらく聴き続けた後に、息抜きとしてオンエア中のラジオに耳を傾けるのも悪くない。手持ちの機器で、radikoやBluetoothなどの無い据え置きの機器があれば、ラインアウトモードで接続するといった活用もできるだろう。

 なお、radikoを聴いている時にDuoRemoteアプリでスマホと連携すると、スマホ側で音量調整はできるが、radikoの選局はできない。今後のアップデートで、選局や音楽再生メニューとの切り替えもできるようになれば、もっと活用シーンが増えるように思う。

radiko聴取時のスマホアプリの画面(左)

 他のネット配信サービスへの対応については、現時点で具体的な発表はされていないが、オンキヨー&パイオニアによれば、Spotifyや他の聴き放題サービスを含め、対応を検討中とのことなので、今後のアップデートによる充実に期待したい。

 XDP-100Rなど上位モデルは、これまで何度もアップデートを重ね、機能強化も行なわれている。今の時点で明らかになっているのは、XDP-30R(とオンキヨーのDP-S1において)ハイレゾでも容量を抑えられるフォーマットの「MQA再生」と、配信サイトの「e-onkyo musicからのダウンロード機能」への対応で、'17年夏のアップデートが予定されている。ネットワーク機能搭載の良さは、今後もさらに活かされてくだろう。

ハイレゾ&バランスを手軽に楽しむ組み合わせ

 今回のXDP-30RとSE-CH5BLの組み合わせは、「バランス接続の良さを、マニアだけのニッチな世界でなく、ハードルを下げて新しいマーケットを作りたい」と製品発表会で説明された通り、初めてのハイレゾプレーヤーとして購入する場合、価格と性能のバランスを見ても、迷わず薦められると実感した。

 もっとこだわりたくなったら、イヤフォンの交換にも手を出したくなるはず。バランス対応イヤフォンの種類も様々なので、何から手を付けるか迷うが、先ほど触れたパイオニアの「SE-CH9T」(実売12,000円前後)なら、アルミハウジングと真鍮ノズルを組み合わせた筐体で、これまで使ったSE-CH5BLとも傾向の異なる音が味わえる。さらに、このモデルはMMCX端子でケーブル交換もできるため、さらにマニアックな領域へのステップアップも可能。

SE-CH9Tで、ケーブルも交換。音質の印象もガラリと変わった

 XDP-30Rは、価格だけでなく、音質設定やイヤフォン交換など、より深いこだわりを追求したくなる底力を持ったモデルだと実感できた。ハイレゾはあくまで“CDより大きな器”であり、実際の音はレコーディングやマスタリングに左右されるので、ハイレゾだから必ずいい音とは言い切れないが、バランスとアンバランスは、音の存在感の強さが明確になり、多くの人にとって違いが分かりやすいように思う。CD音源でも、間違いなくバランスの恩恵はあるだろう。

 「これからハイレゾに完全移行するぞ」と意気込む必要はなく、「どうせ聴くならちょっといい音で」くらいの気持ちでも手の届く価格。既にCDを多く持っていて、ハイレゾにはそれほど魅力を感じていなかった人にも、手持ちの音源を、外でもいい音で聴ける手段になるだろう。スペックだけではなく実感としてのいい音を手軽に楽しむ方法として、今回使った“5万円バランス”は、かなり有力な組み合わせだ。

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中林暁