レビュー

新世代AKシリーズ完成。10万円を切る「SR15」、驚きの8ch DAC「SE100」を聴く

 ハイレゾプレーヤーの定番ブランド「Astell&Kern」から、新製品として相次いで登場したのが「SE100」と「SR15」の2機種だ。既発売の「SP1000」を加えた3機種が揃い、“新時代のAKシリーズ”がひとまず完成した形だ。今回は気になるSE100、SR15の実力をチェックする。

左が「A&norma SR15」、右が「A&futura SE100」

 AKシリーズと言えば、今まではAK2xx、AK3xxといったモデル名だったが、2017年に“世界最高峰のハイエンドポータブルプレーヤー”をコンセプトとした「A&ultima(エーアンドウルティマ) SP1000」が登場。今後は「A&◯◯」、つまり「エーアンドなんとか」という製品名のモデルが登場すると予告された。

 そして今回登場したのが、「A&futura(エーアンドフューチュラ) SE100」と「A&norma(エーアンドノーマ) SR15」の2機種だ。3モデル価格は、A&ultima SP1000が直販価格499,980円(税込)、A&futura SE100は同219,980円(税込)、A&norma SR15は99,980円(税込)となる。

 それぞれのコンセプトは以下の通りだ。なお、AKのラインナップはこの3機種だけでなく、エントリーの「AK70 MKII」や「KANN」は併売される。

  • A&ultima:AKの最先端テクノロジーを投影した最高峰かつ究極のプレーヤー
  • A&futura:圧倒的な性能で新たな音楽体験を可能にするプレミアムHi-Fiクオリティ
  • A&norma:AKの哲学と技術を凝縮。Hi-Fiオーディオの出発点
今後のシリーズラインナップ

SR15の特徴

 新たな2機種の特徴をおさらいしていこう。

 SR15のDACは、シーラスロジックの「CS43198」を左右チャンネル独立、つまりデュアルで搭載している。価格的には下位モデルとなる、AKの人気プレーヤー「AK70 MKII」(79,980円:税込)も同じデュアルDAC構成だが、使っているDACは「CS4398」で、ちょっと異なる。

「A&norma SR15」

 ヘッドフォン端子は、2.5mm/4極バランスと、ステレオミニの2系統。出力レベルはアンバランスが2.0Vrms、バランスが4.0Vrms(負荷無し)。SN比(1kHz)は122dB(アンバランス/バランス)とパワフルだ。

ヘッドフォン端子は、2.5mm/4極バランスと、ステレオミニの2系統

 PCMは192kHz/24bitまでのネイティブ再生が可能。それ以上のデータは192kHz/24bitにダウンコンバートされるが、384kHz/32bitまでのファイルが再生できる。DSDは2.8MHzまでネイティブ再生が可能。176kHz/24bitのPCMへの変換再生となるが、DSD 11.2MHzの再生もできる。対応ファイル形式はWAV/FLAC/MP3/WMA/OGG/APE/AAC/ALAC/AIFF/DFF/DSF。

 内蔵ストレージメモリは64GB。microSDカードスロットも備え、最大400GBまでのカードが利用できる。

 最新のUIを搭載し、それをサクサク動作させるためのクアッドコアのCPUも装備する。

側面に操作ボタンやmicroSDカードスロットを装備する
底部にUSB端子も装備する
背面

8ch DACの「ES9038PRO」をポータブルに搭載した「SE100」

 SE100最大の特徴はDACだ。据え置きの高級オーディオ機器に使われているESS製の8ch DAC「ES9038PRO」を、なんとポータブルオーディオ機器に初投入。8ch DACを、左右4chずつ使い、クオリティを高めている。なんとも豪快なプレーヤーだ。

 なお、最上位機のSP1000は、旭化成エレクトロニクスのDAC「AK4497EQ」をデュアル構成で搭載している。

「A&futura SE100」

 もう1つの特徴は高出力だ。ヘッドフォン端子は、2.5mm/4極バランスと、ステレオミニの2系統を備えているが、SP1000の開発で培ったノウハウを投入した回路設計により、パワフルな駆動が可能だ。

ヘッドフォン端子は、2.5mm/4極バランスと、ステレオミニの2系統

 SP1000はアンバランスが2.2Vrms、バランスが3.9Vrms(負荷無し)なのだが、SE100はそれを部分的に上回るアンバランス2.0Vrms、バランス4.1Vrms(負荷無し)を実現した。SN比もアンバランス122dB、バランス123dB、THD+Nはアンバランス0.0007%、バランス0.0006%と高いスペックを誇っている。

 高精度かつ、800Fs(フェムト秒)という超低ジッタを実現する、電圧制御水晶発振器(VCXO)も搭載した。

 使い勝手の面では、最新のUIを採用、サクサクとした高速動作を実現するため、オクタコアのCPUも備えている。

側面に操作ボタン
底面にUSB端子とmicroSDスロット

 PCMは384kHz/32bitまでのネイティブ再生が可能。DSDは11.2MHzまでのネイティブ再生をサポートする。対応ファイル形式はWAV/FLAC/MP3/WMA/OGG/APE/AAC/ALAC/AIFF/DFF/DSF。

 内蔵ストレージメモリは128GB。microSDカードスロットも備え、最大400GBまでのカードが利用できる。

 筐体はアルミニウムで、カラーはチタンシルバー。バッテリ容量は3,700mAh。USB Type-Cの急速充電が可能で、約2時間の充電で連続再生時間は約11時間だ。

 外形寸法は約132×75.8×15.3mm(縦×横×厚さ)と、上位機種のSP1000と並べてみるとほとんど同じ大きさだ。しかし、SP1000が厚さ16.2mmに対し、SE100は15.3mmと、1mmほど薄い。面白いのは、現物を見比べると数値よりもSE100の方が“もっと薄く”感じる事だ。SE100は両側面が斜めになっており、SP1000よりもソリッドな印象を受ける。それがそのまま“薄さのイメージ”に繋がるのかもしれない。SE100の重量は241gだ。

側面が斜めになっている
上がSE100、下がSP1000。SE100の側面が両方斜めなのがわかる
右側面にあるボリュームダイヤル

共通する特徴

 SE100は底部にUSB Type-C、SR15はUSB microB端子を搭載。充電、データ転送に利用できる。USBオーディオ出力も可能で、トランスポートとして別のUSB DACへデジタル出力する事も可能。PCと接続してUSB DACとしても動作する。

 USB DAC動作時のスペックは、SE100がPCM 384kHz/32bit、DSD 11.2MHzまでサポート。SR15はPCM 96kHz/24bitまで対応。DSDファイルも再生できるが、PCM変換再生となる。

 Bluetooth 4.1にも対応。コーデックはSBC/aptX/aptX HDに対応。プロファイルはA2DP/AVRCPに対応する。高音質を追求して有線イヤフォンにこだわったり、Bluetoothでカジュアルにワイヤレスで使う、どちらにも対応できるわけだ。

 無線LAN(IEEE 802.11 b/g/n 2.4GHz)も搭載し、DLNAネットワーク機能「AK Connect」にも対応。プレーヤーとして、NASなどに保存した音楽ファイルをネットワーク経由で再生したり、スマホのアプリから遠隔操作も可能だ。このあたりは従来のAKシリーズと同じ特徴を踏襲している。

 2機種で注意したいのは、どちらもケースを付属していない事。AKシリーズは本格的な革ケースなどを同梱しているモデルが多かったが、SE100とSR15に関しては別売となっている。

操作性

 UIは同世代という事もあり、SP1000とほぼ同じだ。オーバーレイ表示が特徴で、メニューなどは再生画面の上に半透明に表示される。上から下へとスワイプすると現れるクイックメニューも半透明だ。つまり半透明メニューの下には、常に再生画面が存在しているため、再生画面に戻れないなど、“迷子”になりにくい。

SE100の操作画面
クイックメニュー
設定メニュー
アルバム一覧

 SR15はクアッドコア、SE100はオクタコアのCPUを搭載しており、高速な処理能力を活かし、UI動作はサクサクだ。DSDファイルの再生などをしていても、動きがカクついたりしない。このあたりは高級プレーヤーらしい使い心地だ。

SR15の操作画面

音を聴いてみる:SR15

 試聴には、イヤフォンのAK T8iE、AK T8iE MkII、e☆イヤホンのオリジナルヘッドフォン「SW-HP11」などを使用した。

SR15

 SR15のサウンドは、一聴してわかるが「安定のAKサウンド」。色付けの少ないニュートラルな音で、メリハリもあるクリアさが魅力だ。バランスも良好で、低域から高域までまんべんなく耳に入ってくる。特に低域が強すぎたり、高域がキツすぎたりする事もない。

 前述のようにDACはシーラスロジック「CS43198」を左右チャンネル独立、デュアルで搭載している。型番は少し違うが、同じシーラスの「CS4398」のデュアルDACで搭載した、「AK70 MKII」とよく似た傾向。なんというか“作り慣れてるなぁ”と感じる完成度の高さで、DACの潜在能力を存分に引き出している。

 アンバランスの3.5mm接続でも十分な高音質だが、2.5mm 4極のバランス接続にすると、音場がさらに拡大、奥行きも深くなり、より立体的なサウンドが楽しめる。ヘッドフォンでも効果は感じられるが、イヤフォンの方が音場が広くなる気持ちよさの恩恵は大きいかもしれない。

左がAK70 MKII、右がSR15

 先程「AK70 MKIIと傾向が似た音」と書いたが、価格を比べてみるとSR15が99,980円(税込)、AK70 MKIIが79,980円(税込)と、2万円違う。「ではAK70 MKIIでいいんじゃないの?」と思われるかもしれないが、大きな違いがある。それは“駆動力”だ。

 音の傾向は似ているのだが、2機種で「藤田恵美/Best of My Love」を聴き比べると、1分過ぎから登場するアコースティックベースの低域がかなり違う。簡単に言うと、SR15の低域の方が深く、重く、情報量が多い。

 試聴などでAKシリーズの進化を体験している読者も多いと思うが、現在のAK70 MKIIは、初代AK70と比べ、DACがデュアルになり、アンプの駆動力も強化された。その結果、後継機種と言うより“別物”に進化した、非常に完成度の高いプレーヤーだ。しかし、SR15の中低域は、そのさらに上を行く。

 AK70 MK IIでベースの「ズーン」「ヴォーン」という音圧の豊かな、迫力のある低音を聴いた後で、SR15に切り替えると「ズズン!!」「グォン!!」というように、低域に芯があある。熱いエネルギーの塊が風圧のように押し寄せてくるのがAK 70 MK IIだとすると、SR15は風圧の中に鉄球が隠れていて、それがズシンと頭や骨を振動として揺らせているかのような違いがある。

 単に力強く張り出すのではなく、重く、深く低音が落ちる。そして中低域はパワフルでありながら、響きがボワボワと不必要に広がらない。締めるべきところはタイトに締める。“トランジェントの良い低域”と言ってもいい。キレの良い低音は、要するにヘッドフォンやイヤフォンの振動板を“キッチリすばやく駆動できている証拠”と言える。

 これだけ低域のクオリティが高いと、音楽全体に安定感が生まれ、余裕というか、風格のようなものを感じる。2万円の価格差があるので当然と言えば当然だが、SR15の方が確かに“格上”なサウンドであり、より高価なハイエンドプレーヤーの世界に足を踏み入れた音だ。

ヘッドフォンも十分に駆動できるパワフルさがあるSR15

音を聴いてみる:SE100

 SE100を聴いてみる。それまでSR15とAK70 MKIIを比較していたのだが、SE100に切り替えると、また別の世界が展開する。呆れるほど広大な音場、そしてSN比がメチャクチャ良い。静粛な音場に、本当にかすかな音も微細に表示される。SR15は99,980円(税込)、SE100は同219,980円(税込)と2倍以上の価格なので当たり前だが、やはり“格の違う”音だ。

SE100

 SNの良さ、音場の広さ、そしてシャープで微細な描写は、まさにESSのDACらしい音だ。それでいて、繊細なだけでなく、パワフルさもある。前述のようにSP1000を部分的に超えるほど強力なアンプを搭載している事もあり、緻密さとパワフルさが同居している。

 低域の深さ、安定感、そしてその中にある情報量の多さも特筆すべき点だ。「イーグルス/ホテルカリフォルニア」の冒頭も、ベースが「ズゴーン」と張り出すが、低域の分解能や情報量が不足したプレーヤーでは団子のように音がくっついて、単なるボワッとした音のカタマリにしか聴こえないが、SE100では「ズゴーン」という音が、ベースの弦が細かく震えて作られている事が、低域を浴びながらしっかりと聴きとれる。

 このクオリティははっきり言ってポータブルプレーヤーの音ではない。据え置きの、それもかなり駆動力のあるDAC搭載ヘッドフォンアンプを聴いているような感覚が、そのままポータブルで楽しめる。

右がSE100、左がSP1000(ステンレススチールのAK-SP1000-SS)

 「いい音だぁ」と聴いていると、欲が出てきて、より高価な直販価格499,980円(税込)のハイエンド「SP1000」との実力差も気になってくる。そこでSP1000のステンレススチールモデルと聴き比べてみた。

 これが実に興味深い。SE100がESSの8ch DAC「ES9038PRO」を搭載しているのに対し、SP1000は旭化成エレクトロニクス(AKM)の「AK4497EQ」を2基、デュアルで搭載している。DACの違いがプレーヤーの全てではないが、DACによる傾向の違いが確かに音に現れていると感じる。

 端的に表現すると、SP1000は“情感豊か”で“しなやかな音”だ。それに対してSE100は“クールで精密”“ソリッドでシャープ”な音だ。ベースの低音が気持ちよく響いていく様子や、弦楽器の高域の綺羅びやかな描写など、SP1000を聴いていると胸にグッとくるシーンがいくつかある。旨味が強く、趣味性の高い音だ。

 SE100はそれよりも、ひたすら高解像度、高SN、高純度を突き詰めたようなサウンド。これもこれで説得力があり、自分の耳が良くなったような、何もかも聴きとれそうな気持ちよさがある。

 これはもう完全に好みの世界だ。ピュアオーディオが好きで、スピーカーだけでなくヘッドフォンの音も楽しんでいるという人は、もしかしたらSP1000の方が好きかもしれない。SE100はPCオーディオのように、素の音をどこまで高純度に再生できるかという点にこだわる人にマッチするだろう。

 組み合わせるイヤフォンやヘッドフォンによっても評価は変わってくるはずだ。例えば、音の個性は好きだけど、ちょっと分解能が足りないイヤフォンをSE100で精密かつタイトに駆動したり、「分解能は高いけれどもう少し情感豊かに聴きたい」というヘッドフォンを、SP1000で駆動するといった方法もあるだろう。

まとめ

 SR15とSE100、価格帯は違うが、どちらも音質、UI、共に完成度の高いプレーヤーだ。

 SR15は、2万円低価格なAK70 MKIIとどちらを選ぶか悩ましいところだが、個人的にはSR15をオススメしたい。単純に中低域の再生能力が高いだけでなく、駆動力の高いプレーヤーは、将来的に新しいイヤフォン/ヘッドフォンを買う時の自由度が高くなるからだ。10万円以下のプレーヤーとして、再生能力の高さはトップレベルだ。

 それでいて、本体が適度に“小さい”のもいい。ほとんどの人がスマホと一緒に持ち歩くわけだが、その際に、良い音だからとあまり大きなプレーヤーだと、持ち歩くのがおっくうになってしまう。音にこだわりたいが、使い勝手や気軽さも重視したいという人には見逃せないモデルだろう。

 個人的には、本体を手にした時にちょっと傾いているディスプレイのデザインに驚いたのだが、実際に数日間使っていると、それほど違和感はなかった。

SR15

 SE100は、今現在市場に存在するハイエンドポータブルプレーヤーの中でも、ナンバーワン争いに参加できるクオリティだ。価格も直販219,980円(税込)と豪快なので当たり前とも言えるが、例えば最上位で同499,980円(税込)のSP1000と比べても、肉薄する音質を実現している。SE100の方が好みだと言う人もいるだろう。

 SP1000とSE100の違いは、聴き比べるとDACの思想の違いなどが感じられ、とても面白い。購入予定がある人も、そうでない人も、専門店やイベントなどでぜひ聴き比べてほしい。ハイレゾポータブルプレーヤーの、新たな世界を実感できるはずだ。

 細かい話だが、使っていて気になったのは、前述のように両側面が斜めになっているので、机などに置いた状態から持ち上げると指がひっかかりにくく、落としそうになる事。ケースは付属しないが、別売のものなどを用意して、指で持ち上げやすくした方がいいだろう。高価なプレーヤーなので大切に使いたいところだ。

SE100の側面は斜めになっているんので、ちょっと持ち上げにくい

 SR15と比べると、大きく・重い“本気モデル”だが、その風格に見合う、いや風格以上のサウンドを実現している。感覚としては「据え置き機のサウンドを持ち歩いている」ようなものだ。喫茶店や電車の中など、いつもの空間が上質なオーディオルームに変化する楽しさは、上位機ならではのものだ。

山崎健太郎