小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第956回
大きく生まれ変わった「GoPro HERO9 Black」、Maxレンズに注目
2020年10月7日 08:15
進化は止まらず
アクションカメラの草分け的存在のGoPro。初期の「小型で丈夫、そこそこ撮れて壊れるの前提」という時代を過ぎ、HERO7あたりからはありえないレベルの手ブレ補正をウリにして、すでに他者とは別の次元に向かっているように思う。類似品は相変わらず多数あるが、すでに機能的には敵ではない。ガチンコで勝負を挑んだ競合他社もあるが、人気や知名度の面も考えると、スポーツ撮影においてはもはや一人勝ちと言ってもいいだろう。
約1年前にHERO8 Blackをレビューしたが、HyperSmooth 2.0ですでに手ブレ補正も完成の域に達しており、もうこれ以上やることはないように思われた。
だが今年発売のHERO9 Blackでは、ボディ構造も新しくなり、また一歩進化の道を歩んでいる。すでに9月17日から販売を開始しており、公式サイトでの価格は54,000円(税込)。ただし1年間のGoProサブスクリプションサービスに登録すると、43,000円(税込)で購入できる。
ある意味記念すべき1桁台の終わり、HERO9の完成度をテストしてみよう。
やや大きくなったボディ
今回のGoPro HERO9は、写真でパッと見た限りではHERO8と区別がつかないかもしれない。それだけデザインテイストが同じなのだが、サイズが一回り大きくなっている。HERO8が66.3×48.6×28.4mmだったのに対し、HERO9は71.0×55.0×33.6mmだ。昔のGoProは防水用ハウジングなどのアクセサリを流用するためにサイズを同じにしていたが、昨今は本体だけで防塵防滴機能を持つようになったため、サイズにこだわる必要がなくなったということであろう。
外見で一番の違いは、フロントのディスプレイがカラー液晶となり、自撮り用のモニターとして使えるようになったところだ。サイズとしては1.4型ということになるが、アスペクト比がほぼ正方形だ。16:9での構図を確認するには、設定で表示アスペクトの設定を変更する必要がある。
【お詫びと訂正】記事初出時、“16:9での構図確認は背面ディスプレイを見る必要がある”と記載しておりましたが、フロントディスプレイでも表示アスペクトの変更が可能でした。お詫びして訂正します。(10月7日13時)
センサーは新規開発というが、画素数など細かい仕様が公開されていない。最大で5K(5,184×3,888)が撮影できることから、それ以上の画素数を持つことは間違いないだろう。静止画には解像度選択メニューがないが、動画は解像度によって撮影可能な画角やフレームレートが若干異なる。関係を一覧でまとめておく。
5K動画と静止画のレンズ画角については以下のようになっている。
なお画質に関わるパラメータとして、ビットレートの選択がある。ビットレートは「標準」が実測で約60Mbps、「高」が約100Mbps。ただし本体メニューとスマートフォンの設置では、「シャープネス」が「画質」と表記されるなど、パラメータ名に若干の違いがある。
【お詫びと訂正】記事初出時、“本体メニューからは設定できず、スマートフォン用のアプリから設定する必要がある”と記載しておりましたが、本体からも設定可能でした。お詫びして訂正します。(10月7日13時)
背面液晶モニターは本体のサイズアップに伴って2.27インチと少し大きくなった。少し前のコンパクトデジカメの液晶モニターぐらいのサイズになったと思っていいだろう。これぐらいあれば、画角だけでなく中に何が写っているのかの確認ができる。
右側面には、バッテリースロットがある。蓋が堅くて開けにくいが、下部の引っ掛かりに爪をかけて下に引っ張り、ロックを外すスタイルだ。内部にはバッテリースロットとmisroSDカードスロット、USB-C端子がある。左側にも意味ありげな構造があるが、ここは水抜き用の穴で特に開けたりできるわけではない。
底部はおなじみの折りたたみ式フィンガーがあり、固定治具を装着できる。またスピーカーはこの折りたたみフィンガーの奥にある。
今回の目玉機能は、Maxレンズモジュラーだろう。レンズ前のカバーガラスを外してMaxレンズモジュラー(直販11,900円/税込)をセットすると、超広角映像となり、それをトリミングして収録することでZ軸方向のブレを360度補正できる。今は何を言ってるかわからないと思うが、後段でその効果をテストしてみよう。
もう一つ変わった点といえば、パッケージングだ。これまでGoProは、アクリルケースの中にカメラが収まるという、ディスプレイ兼用パッケージだったが、HERO9からはそれをやめてトラベルケースに入れての販売に変更された。プラスチックの利用を削減するための取り組みである。ケース内部の型枠もリサイクル素材を使用している。
また進化した手ブレ補正
GoProといえば、HERO7から導入された強力な電子手ブレ補正「HyperSmooth」で知られるところだが、HERO8でHyperSmooth2.0へと進化した。そしてHERO9ではさらにHyperSmooth3.0へと進化している。モードとしてはOFF・ON・Boostの3段階だ。
今回はカメラを手持ちしてランニングしてみた。OFFでおわかりの通り、いくら広角レンズとはいっても走ればそれなりにカメラはブレる。だがHyperSmooth3.0では、画角が10%ほど狭くなるものの、かなり補正されるのがわかる。ただし、補正範囲の限界が来て跳ね返るみたいな動きが感じられる。BoostをONにすると、さらに画角は狭くなるものの、補正範囲の跳ね返りもなくスムーズだ。
加えてMaxレンズモジュラーをつけて同様の撮影をしてみたが、補正力としてはBoostモードとほぼ同じ効果が得られた。メリットは、Boostモードよりも広角のままで、同様の補正力があるという点である。
補正力に関しては、車載撮影時にも大きな威力を発揮する。自転車のハンドルに本機を固定してBoostモードで撮影してみたところ、映像内でハンドルは動いているが、前方の風景のほうは動いていない。
本来ならば、カメラが固定されているハンドルが画面内で動かず、風景のほうが動くはずである。それがまるでハンドルとは別のところにカメラを固定しているような映像になっている。パッと見るとなんでもない普通の撮影に見えるだろうが、裏で動いているテクノロジーはものすごく高度だ。
その一方で気になったのが、液晶画面の反応の悪さだ。画面操作しても反応が帰ってくるのがワンテンポ遅いため、2回タッチして変なことになったりするケースが散見された。
また○で囲まれたボタンはわかりやすいが、文字列をタッチする操作も多く、その文字列のどこがボタンになっているのかが分かりづらい。そういうややこしさもあって、本体操作メニューを減らしてスマホアプリ側に全部移行させた部分もあるのかもしれない。
カメラ正面にも液晶モニターがあるので、自撮りは本体だけで可能になった。本体による音声収録は多少フカレに弱いところもあるが、喋りの明瞭感は問題ない。
センサーが新しくなっているので、静止画撮影のほうも試してみよう。静止画撮影では出力モードとして、標準、HDR、SuperPhoto、RAWの4タイプが選択できる。現場はもう少し日向と日陰のコントラストが高かったが、標準状態でもかなりうまく処理できている。標準とSuperPhotoであまり違いがないところからしても、GoProのアルゴリズム的にはそれほどいじらなくてもうまく撮影できたシーンということだろう。RAWに関してはいくらでもいじることができるので、撮れ高としての評価はしないが、かなり色味をいじってもRAW撮影であれば十分なキャパシティがあるのは言うまでもない。
前回HERO8でもテストしたが、静止画には夜間撮影用のプリセットがある。今回も撮影してみたが、前回同様カメラをしっかりホールドすれば、かなりSN比のいい写真を撮ることができる。画角をリニアにすれば、かなり広角ながら湾曲の少ない撮影もできる。最近はなかなか夜の街を徘徊するのも憚れるところだが、よく写るお散歩カメラという用途もアリだろう。
どんなに回しても水平、Maxレンズモード
では今回オプションとして今後発売予定のMaxレンズモジュラーを試してみよう。GoProのレンズカバー部は、以前から破損時の交換のために外せるようになっている。すごく堅いので、はずれないものと思っている方も多いようだが、HERO9では比較的外しやすく設計が変わったようだ。四角い部分を手で持って、どちらでもいいから回転させると、外すことができる。
【お詫びと訂正】記事初出時、“オプションとして販売されているMaxレンズモジュラー”と記載しておりましたが、10月12日現在、Maxレンズモジュラーはまだ販売されておりません。お詫びして訂正します。(10月12日)
カバーを外すと取り付けラッチが見えるので、この枠に合わせてMaxレンズモジュラーを当てて、90度回すと固定される。
GoPro背面液晶を上から下にスワイプして設定メニューを出し、右下のMaxレンズモードをONに、続いてその横にある「方向」をロックする。これでGoProをどう傾けても、必ず水平をキープする。
言葉で説明するより、動画を見ていただいたほうが早いだろう。カメラをどう動かしても、逆さまにひっくり返しても絶対水平で撮影できるので、カメラ自体のアクションもかなり自由度が高くなる。
まるでハチやチョウの視点で花の周りを飛び回ったり、放り投げて撮影することもできる。X軸とY軸方向に回転には対応できないが、Z軸方向の回転にはめっぽう強いので、あえてカメラをZ軸方向に回しながら放り投げると面白い絵が撮れるだろう。
Maxモードでは画素数が2.7Kに落ちるが、これは5Kのセンサーの真ん中あたりを使って、360度の回転に対応させるからである。当然真ん中あたりを切り出すので画角が狭くなる。それをあらかじめMaxレンズモジュラーで、広角に引き伸ばしておくわけだ。かなりの力技であるが、これまで存在しなかった機能だ。
前回HERO8ではテストしていなかったスロー撮影にも触れておこう。本機は1080pモードでリニア以下の画角では240p撮影が可能だ。これを30p再生すれば、最大で8倍速スローが得られる。音声も収録されているので、通常再生からスローへの編集も可能だ。今回は1080pで8倍速スローのサンプルを掲載しておく。
総論
昨今のGoProはHyperSmoothの進化がウリになっているが、特にHERO9のウリはMaxレンズモードだろう。HERO9を買うならこれを使わないと意味がないと言っても過言ではあるまい。
スポーティーな撮影では、ある程度画面がバンクしたほうが迫力はあるが、それとは別文脈でどんなに回転させても必ず水平という機能を生かして、新しい撮影方法や表現手法が生まれそうだ。アクションツールから、クリエイティブツールへジャンプアップしたのが、HERO9の大きなポイントだ。
昨今のV-Loggerブームもあり、別途オプションを買わなくても前面ディスプレイで自撮りができるのも、大きなポイントである。スマホと組み合わせて、Live配信用のカメラとして利用することもできる。
しかし他社が次第に音声収録に力を入れてきているのに比べると、GoPro本体の集音機能はここのところあまり進化がない。それを補完するために外部マイクが付いた「メディアモジュラー」が別売されているので、合体して機能拡張できるという意味では、用途が広いカメラである。
ただ、メディアモジュラーはHERO8のときから存在するが、まだ一度も実機でテストできていないので、良し悪しの評価は差し控えたい。
いずれにしても、HERO9でGoProはもはやアクションカメラではなく、違うフェーズに突入したことは間違いなさそうだ。