藤本健のDigital Audio Laboratory
第858回

DAW接続でも音は出せる? 人気ワイヤレススピーカー「Sonos」を試す~後編
2020年7月13日 10:54
世界で1,900万台も稼働しているという、アメリカのワイヤレススピーカー「Sonos」。
単にPCやスマートフォンとワイヤレス接続して音を再生というのではなく、Sonos自体が直接インターネットに接続し、SpotifyやApple Music、Amazon Music Unlimitedなどを再生するのが従来のワイヤレススピーカーとの最大の違い。同じLAN内に接続された複数のSonosを連携できるというのもポイントだ。
前回、そのSonosの基本的な使い方などを紹介したので、今回は少し変わった使い方なども紹介してみたい。
直感的操作と作り込まれたネットワーク連携が便利
Sonosにはコンパクトな「Sonos One」をはじめ、テレビの前に設置するサウンドバータイプの「Beam」、昔のステレオラジカセ的な大きさでありながら、かなりな重低音・莫大な音がだせる「Play:5」など、いくつかのタイプがある。
前回の記事では一番小さなSonos OneをiPhoneでつなぎ、それで音質調整やSpotifyの再生などを行なってみた。またSonos Oneが1台だとモノラルの音になってしまうため、もう1台のSonos Oneを接続し、その2台をペアとすることで、ステレオで扱うことができることも確認した。
今回はまずここにもう1台のSonos、Play:5を接続してみることにする。
方法自体は、Sonos Oneを接続したときと同じで、いたって簡単。Sonosアプリを使い、追加設定を選んで指示に従って操作していくだけだ。
Sonos Oneのペアは書斎という名前の部屋に置いた形になっていたので、今度のPlay:5はメディアルームという部屋に置くことにする。ここでも、初回のみTrueplayというチューニングツールを使って音質調整することで、約45秒ほどで、その部屋に最適な音にすることができる。
書斎においたSonos Oneのペアと、メディアルームに置いたPlay:5の関係はどうなるのだろう?
これがなかなか良くできていて、Sonosアプリの出力先を書斎だけにすれば、書斎にあるSonos Oneだけから音が出て、メディアルームだけにすればPlay:5だけから音が出る。そして、両方を設定したら、Sonos OneのペアとPlay:5の計3つのスピーカーから同時に音が出てくる。その際、しっかり同期がとられているようで、タイミングがズレることはない。
さらに試してみたのは、書斎でSpotifyの曲を流しながら、メディアルームではApple Musicの曲を流すというもの。試してみると、それぞれ別々の曲が流すことができた。さらに、両方の部屋で、Spotifyを使い別々の曲を流してみたところ、これもうまくいった。Spotifyの1つのアカウントしか使っていないのに、そんな融通がきくのかとちょっと驚いたところだ。
ここまではiPhoneのSonosアプリだけを使って操作していたが、SonosアプリはiPhone専用ではなく、Android用、Mac用、Windows用とあるので、それぞれにSonosアプリを入れてみたところ、すごくうまくできていることに驚かされる。
いずれも同じLAN内に接続されている必要はあるのだが、立ち上げてみるとすべてのアプリが自動的に同期されており、同じように扱うことができるのだ。
たとえばiPhoneでSpotifyの曲を再生している状態で、WindowsのSonosアプリを見ると、その曲が表示されており、現在再生中の時間も見える。Windows側でストップすれば音が止まると同時に、iPhoneのアプリ側でもストップ状態になるし、ボリュームを動かせばそれぞれ同期して動く。
これはMacのアプリでも、Andoroidのアプリでも全部同じ。もちろんWindowsやMacで選曲して再生することも可能だし、WindowsのHDDに入っている楽曲をSonosアプリで再生することもできるのだ。
では、Windowsのファイルを再生している場合、iPhoneアプリにはどう見えるのか。実はこれもしっかり同期していて、iPhone側で音を止めたり、早送りしたりも可能。アートワークが設定されているデータであれば、そのアートワークをiPhoneアプリ上で見ることもできる。
同期はiPhoneに限らず、MacもAndoroidも同様だ。ただし、Windowsのファイルを再生しているのだから、WindowsのSonosアプリを終了すると音は止まってしまう。これがローカルデータの再生とストリーミングデータの再生の違いだ。
その意味では、ストリーミングデータのほうが、よりSonosとの相性がいいと言っていいと思うが、Sonosアプリからは、いわゆるサブスクリプション型のサービスだけでなく、ネットラジオにもアクセスできるようになっている。世界中のさまざまなラジオをストリーミングで聴くことができるので、そんな音楽・番組の聴き方も楽しいものだ。ローカルラジオ局というのを選ぶと国内のミニFM局もいろいろ登録されており、ここから簡単に聴くことができた。
では地上波のAMやFMラジオ局も聴けるのだろうか?
残念ながらSonosアプリにはradiko機能は搭載されておらず、ここにある膨大なラジオ局のほとんどは海外のもの。ではradikoは聴けないか、というと、もちろん聴くための方法が用意されている。それがAirPlayだ。
AirPlayは、Appleが開発したネットワークを介してオーディオを再生する技術で、iPhoneに入った音楽をApple TVで流したり、HomePodに流したりできるというもの。この技術を各オーディオ機器メーカーにもライセンスしているため、beatsやボーズ、デノン、マランツなどの製品でもAirPlay接続ができるようになっているが、Sonosもその1つなのだ。
iPhoneのプレイヤーの画面でAirPlayアイコンをタップすると、先ほどSonosアプリで設定したメディアルームと書斎が選択肢として出てくる。ここで切り替えることで、iPhoneの音の出力先が内蔵スピーカー/イヤホンからSonosに切り替わるのだ。このままradikoを起動すれば、しっかりradikoの音をSonosから出すことができる。この時、Windows側のSonosアプリの画面を見ると、しっかりradikoが表示されている。
こうした連携を見るとAirPlayが非常にうまく設計されていることに気づくし、それを上手に使っているSonosにも感心する。どういう仕組みなのかを考えると難しいけれど、使う側からすれば、至って簡単。すべてを直感的に使えるのがSonosなのだ。
DAW接続でDTM用モニタースピーカーとして使えるか?
もう一歩突っ込んだ使い方をしていこう。
Sonosは、AirPlayが利用できるので、Sonosアプリを使わなくてもiPhoneやiPadと有機的に接続できるのはもちろんのこと、Macとも相性よく連携できるようになっている。
Macのサウンド設定画面を開くと、もうそこにはAirPlayのデバイスとして書斎とメディアルームが表示されているので、これを選ぶだけで、MacのサウンドをSonosから出力できるようになる。ミュージックをはじめ、各種音楽プレイヤーで利用できるのはもちろんだが、今回試してみたかったのは、DAWなどからも出力できるのかという点だ。
「KORG Gadget」を起動し、環境設定で出力デバイスを見ると、ここにAirPlayを設定できるようになっている。この状態で弾いてみると……、しっかりSonosから音が出る。
ただ、これでSonosをDTM用のモニタースピーカーとして使えるのかというと、そうではない。レイテンシーが非常に大きく2秒近くあるため、リアルタイムでのモニタリングがまったくできないのだ。各種バッファ設定を調整することで、多少レイテンシーを小さくできたとしても、せいぜい1秒を切る程度。
ネットワークを介し、いろいろと同期をとっているために、仕方がないところだろう。通常のモニターを行なった上で、Sonosに切り替えるとどんな音になるかをチェックできる、という程度に考えておくのがよさそうだ。
では、AirPlayに対応していないWindowsでは、Sonosアプリに依存しないSonos利用はできるのだろうか?
Sonosのマニュアルなどを見てチェックしてみたところ、やはりWindowsで使うにはSonosアプリが必須であって、それ以外の接続法は記載されていなかった。であれば、WindowsでAirPlayを使うワザはないのかとネット検索してみると、いくつかのツールがある模様。
その中で、よさそうに思ったのが「TuneBlade」という$9,99のシェアウェアだった。いまいちどう使うものか分からないながらも購入してインストール。起動すると、タスクトレイに常駐するとともに、画面には書斎、メディアルームと表示されるも、ステータスはDisconnectedとなっている。
ここで接続すると、MMEドライバとして見えてくるということなのかと想像しつつ、サウンド設定の画面を見ても見当たらない。DirectSoundとしてもWDM、WASAPIとしても見えないので、$9.99も払って損した……とがっかりしたのだが、何気なく、Windowsから音を再生したらSonosから音が出てくる。
これはどういうこと? と思い、改めて確認すると普通のオーディオ再生を乗っ取る形でAirPlayへ横流しするソフトだったようで、必要に応じて、書斎とメディアルームの両方を接続し、同時に両方から音を出すこともできた。かなり強引な方式のソフトではあるけれど、それぞれの音量バランス調整などもできて、なかなか優秀。さらに設定画面を見てみると、バッファサイズを調整できたり、ループバック設定ができるなど、かなり多機能な内容ではある。
では、先ほどのMacのようなレイテンシーがあってもいいので、WindowsのDAWからSonosへ音を出すことはできるのだろうか? 各種DAWでは、ASIOで出しても、それをTuneBladeがうまく乗っ取ってくれれば音は出るはず……。
しかし試してみると、エラーが発生してうまくいかない。やはりドライバの取り合いになってバッティングしてしまうようだ。
ここでふと思いついたのが、先日取り上げたドネイションウェアの「VoiceMeeter Banana」(第852回参照)。とりあえず無料で使うことはできるが、まだまだいろいろな実験ができそうなソフトだったので、$25のドネイションをしたところだった。これを使って見るとうまくいくのでは? と試してみたのだ。
結果は大成功。VoiceMeeter Bananaをインストールすると、バーチャルドライバが生成されるので、まずはDAWからVoiceMeeter Bananaへ出力。その上で、VoiceMeeter Bananaから、普通のMMEドライバへ信号をルーティングするとともに、先ほどの方法で、AirPlayへ送ってやることで、CubaseやStudio Oneからも再生することができたのだ。
レイテンシーが2秒程度あるのはMacと同様だったが、このようにすることで、DAWからASIO、そしてVoiceMeeter Banana、MME、TuneBlade、AirPlayを経由させることで、なんとかSonosへ音を送ることができたのだ。まぁ、そんなマニアックな使い方をする必要があるかはともかく、これでWindowsでも自在にSonosへ出力できることが確認できたのは、一つの成果だったのではないだろうか?
最後にもう一つ試してみたのがAndroid。
Androidの場合、AirPlay対抗ともいえるGoogleCastが搭載されている。しかしSonosはGoogleCastには対応してないため、標準状態では接続することはできず、やはりSonosアプリが必要となる。
調べてみると、AirPlay対応するアプリはいくつか存在し、比較的広く知られているのが「AllCast」というフリーのもの。試しにこれをインストールすると、書斎とメディアルームは見え、接続するところまではうまくいった。
ただし、これは汎用的なドライバアプリではなく、あくまでもこのアプリ上で音楽を再生させるためのもののようだ。しかも、曲の再生ボタンを押しても、どうもうまく音を出すことができず、いろいろとトライしたが断念。やはりAndroidにおいては、Sonosアプリを使うしかないのかもしれない。
以上、ちょっと変わったアプローチでSonosを使ってみたがいかがだっただろうか?
サウンド的にも非常にいいし、いろいろな使い方ができるので、特にサブスクリプションのストリーミングの音楽サービスを使っている人にはお勧めできるワイヤレススピーカーと思う。
1つ個人的に気になったのは、電力消費の問題だ。Sonos Oneを触ってみると、温かい感じで、使っていないときも筐体が熱を持っている。そもそも電源スイッチがないので常にスタンバイ状態になっているのだ。
試しにワットメーターで測定してみると、待機電力で、Sonos Oneが1台につき3W、Play:5の場合は2Wだった。まあ、再生した際はそれぞれ5W、7W程度なので、そんなに大きい電力ではないのだが、待機電力に関しては、今後もうちょっと下げる形を考えてくれるといいな、と感じたところだ。