藤本健のDigital Audio Laboratory
第857回
世界で1,900万台が稼働中! 人気ワイヤレススピーカー「Sonos」を試す~前編
2020年7月6日 12:04
Wi-Fiのワイヤレスネットワークを利用したホームサウンドシステム「Sonos」。アメリカ・カリフォルニア州・サンタバーバラにあるネットワークオーディオメーカー、Sonosが開発したシステムで、2004年に本格的に発売されてから、これまでに2,400万台が出荷されているのだとか……。
先日、そのSonosのワイヤレススピーカーをいくつか借りて少し試してみたところ、あまりにも簡単に使えると同時に、いろいろなことができる面白い機材だった。独自の世界観を持つユニークな機材でありつつ、試してみると、DAWなど本来はSonos非対応なシステムからでも音を出すことができた。ややマニアックな使い方もしてみたので、今回と次回の2回に分け、Sonosについて紹介してみよう。
ジョージ・マーティンの息子が音を監修。ソフトウェアでチューニング
AV Watchで足掛け20年もDigital Audio Laboratoryという名前で連載をしているが、趣味趣向がかなり偏っていることもあり、恥ずかしながらSonosという存在をまったく知らなかった。調べてみると確かに、ホームサウンドシステムにおいては世界トップメーカーのようで、長年、日本以外で展開してきたらしい。日本法人ができ、日本での営業展開をスタートさせたのは2018年だそうだ。
Sonosのシステムを知ることになったのは、先日届いたFacebookのメッセンジャーだった。元マイクロソフトの社長で、今年3月に慶應義塾大学大学院教授を引退された古川享さんから「Sonosの日本支社長に藤本さんを紹介してみました。Facebookの友達申請とかが来るかもしれないので、よろしくね!」との連絡があったのだ。
古川さんからの話であれば、面白いネタに違いないと、思ったところ、それと前後する形で、Sonos Japan ジェネラルマネージャーの瀬戸和信氏からFacebookでメッセージが届いた。
前述の通り、個人的には、まったくSonosを知らなかったので、瀬戸氏とオンラインミーティングをさせていただき、Sonosの背景を教えてもらうとともに、使い方に関する簡単なレクチャーをしてもらった。
瀬戸氏によると、Sonosは発売以来2,400万台を出荷して、今現在1,900万台が使われているとのこと。
「みなさん1台使うと、2台目が欲しくなり、さらにもう1台……と1世帯当たり平均3台使っています。ネットワークスピーカーなので、稼働率が把握できるのです。このSonosが大きく伸びた理由は何といっても“サブスク”です。Apple Music、Spotify、Amazon Music Unlimited……こうしたサービスにマッチしたスピーカーであったことがウケたのです。そしてこのサブスクが日本への進出が遅れた理由でもあります。数年前までは日本では7割がCDで、サブスクは1割以下という状況であったため見送っていました。しかし、日本もようやくサブスクが伸び出し、5年、10年先にはサブスクがCDよりも大きく成長することが見込めるようになったため、2018年に進出することになりました」と瀬戸氏は話す。
その後、BEAMSとパートナーシップを組んで販売を行なったり、TSUTAYA家電、IKEAの全店で販売を開始するなど、一般的なオーディオ機器とはちょっと変わった販売ルートを使っているようだが、商品点数自体はそれほど多くはないようだ。
主なものとしては、小さいスマートスピーカーの「Sonos One」、ひと回り大きいステレオスピーカーの「Play:5」、コンパクトなサウンドバーの「Beam」、屋内外で使え持ち運び可能な「Move」、従来のオーディオ機器でSonosを利用可能にするための「Amp」、それにサブウーファーの「Sub」などがある。
一番シンプルなSonos Oneは“スマートスピーカー”とうたっているので、「Google Home」とか「Amazon Echo」の類ということなのだろう。とはいえ、正直なところスマートスピーカー自体には、あまり興味が持てずにいた。以前、Google Oneのユーザーであることから、Googleから無料で「Google Home Mini」が届き、ちょっとだけ試したことがあったが、個人的には使い道がまったく見いだせず、人にあげてしまったくらいなのだ。
「Sonos Oneにはスマートスピーカー機能もありますが、それはあくまでも“オマケ”です。メインはナチュラルなサウンドが出せるスピーカーであり、繊細な音の表現ができるのが大きな特徴なのです。Sonosの音の責任者は、ビートルズの音楽プロデューサーとして有名なジョージ・マーティン氏の息子、ジャイルズ・マーティン氏であり、音に徹底的にこだわっています。すべて内蔵のDSPを使ってソフトウェアでチューニングを行なうため、大音量を出さなくても、非常に高精細なサウンドで楽しむことができるし、オーディオの知識がない方でもストレスなく使うことができます」と瀬戸氏。
使っていないので、今一つその世界観を想像できずにいると「たとえばテレビ用のサウンドバーを購入された方は、まずはテレビのサウンドを高音質で聴くことができて喜んでいただいていますが、これでSpotifyなどで音楽を聴くことを体験すると、『キッチンで料理しているときも同じように聴きたい』となってくる。そしてさらには『ベッドルームに置いみよう』、『トイレに置いたらいいんじゃないか』と。それぞれで同じ音源を同時に鳴らすこともできるし、部屋ごとに音源を変えることもでき、そうした操作をスマホアプリから簡単に行なうことができます。一方、小さいスピーカーから入った方は、小さいのにすごく低音もよく出るのでみなさん驚かれます。単体だとモノラルなのですが、もう一台用意するとステレオ再生もできます」と瀬戸氏は解説する。
サウンドバーの場合は、リアに別のスピーカーを組み合わせることでサラウンドで使うことができるとのこと。適当に置いても、ソフトウェアでチューニングするので、セッティングは簡単だし、すべてWi-Fi接続のワイヤレスだから電源さえあれば配線不要で簡単に5.1chのサラウンド環境を構築できるのも大きな特徴のようだ。
「言葉で説明していても、なかなか実感がわかないと思いますから、ぜひ一度Sonosのサウンドを試してみてください」と瀬戸氏。それなら、とりあえず一番シンプルなSonos Oneを一つお借りしたいと伝えたところ、「Sonosの面白さは複数台を使うことでより味わえるので、いくつかを見繕ってお送りします」とのこと。数日後届いたのがSonos Oneが2台とPlay:5が2台、それにAmpが1つ。小さなスピーカーが1つ届くのを想像していたので、宅配便で届いた大きな荷物に面食らってしまったが、まずは一番小さいSonos Oneから試してみることにした。
スマートスピーカー「Sonos One」を試す
Sonos Oneは高さ18cmほどの小さなスピーカー。フラットな天面が操作パネルとなっているようで、ここをタッチすることで操作ができるようになっている。
電源はACアダプタではなく、いわゆるメガネケーブルなのだが、底面にL字型に挿す形となっているので、外観はとてもスッキリしたデザインに仕上がっている。机の上に置く場所がないので、ひとまずは部屋の床に配置。
LANの端子があるので、ここにLAN接続しなくてはいけないのかな? と思いつつ、シンプルすぎるクイックスタートガイドを見ると、とくにLAN端子の言及はなく、「SONOSアプリをダウンロードする」とある。
というわけで、LAN端子はスルーし、まずはiPhoneを使ってアプリをGET。アプリを起動して、画面の指示にしたがってアカウントを登録し、Sonos Oneのセットアップを開始。LANはもちろんWi-Fiにもまだ接続されていないはずだが、しばらくすると、近くに1台のSonos Oneがあることを発見。これに対し、Wi-Fiの設定を行なっていくのだ。
この時点でおや? と思ったのは、iPhoneは5GHzのWi-Fiに接続しているのに、Sonosはそれを認識せず、2.4GHzのほうに繋ごうとしている。調べてみると、5GHzには対応していないようなのだ。仕方がないので、2.4GHzのWi-Fiに接続した上で、アプリの指示にしたがってSonos Oneのボタンを押して認識完了。ファームウェアのアップデートを促されたので、それも指示にしたがって、単純に操作していくと1、2分で完了した。
Sonosアプリと繋がると、Sonos Oneがまだ未設定であるとのことで、設定を促されたので、画面を開くと、Sonos Oneを使用する部屋を訊ねてきた。オフィス、ガレージ、キッチン、テラス、バスルーム……などと選択肢が表示されるが、これは利用する環境を設定するものではなく、あくまで使う部屋の名前なので、自分で名前を設定することも可能。
ここではいったん書斎を選んで設定すると、続いてスピーカーチューニングのためのTrueplayなる機能が立ち上がった。これが、瀬戸氏が話をしていたチューニングを行なうためのもの。スピーカー側が約45秒ほどかなり大きめな音で「ピチュン、ピチュン、ピチュン……」というスウィープ信号を発信。iPhoneのマイクを部屋中いろいろなところへ動かしてその音をチェックしていく仕組みになっている。これによって部屋の特性を調べ、それに合った周波数特性になるようDSPを設定する仕掛けになっているのだ。
ちなみに、これはiPhoneのマイク特性が分かっているからこそできるものであって、さまざまなメーカーがあり、さまざまなマイク部品があるAndroidの場合、マイク特性を特定できないために対象外となっている。その意味では、Sonosを利用するために、iPhoneは必須といえそうだ。もっとも、必須なのは、Trueplayを実行するときだけだから、1回だけ借りてくればいいのかもしれないが……。
ハード側の設定が終わったので、続いてソフト側。Sonosの最大のポイントは各種サブスクリプションサービスが利用できるということなので、この設定を行なってみた。
個人的にいつも使っているのはSpotifyなので、これを選べばすぐにアプリと連携し完了。ちなみに同じサブスクでも、日本のサービスであるLINE MUSICやAWAなど日本のサービスには現時点では対応していない。
次にスマートスピーカーとしてのAI機能も設定。選択肢としてAmazon AlexaとGoogleアシスタントが選べるが、現在まだ日本国内ではGoogleアシスタントには対応していないようだったので、Alexaを選んで、セッティングは終了だ。
ひとまず床に置いたSonos Oneだったが、実際どんな音がするのか、Spotifyで曲を選んで再生してみると……なるほど。想像していた以上にいい音で鳴るし、床に置いてはいるけれど、下手に低音が響きすぎることもなく、クリアなサウンドで聴くことができる。また床での響きや部屋鳴りも抑えられていて、いい感じだ。
最初は椅子に座った状態で、下から鳴るスピーカーの音を聴いていたが、立って、部屋の中を歩いてみても音に違和感はない。全方位に向けた無指向性のスピーカーだから、場所を選ばないというのもセールスポイントのようだ。ただ、Sonos Oneひとつだとここから出てくるサウンドはモノラルだ。音の特性を把握することはできたけれど、音楽を楽しむという意味で、個人的にモノラルは論外という感じ。でも、Sonos Oneが2台あればステレオペアとして使うことができるそうなので、これをセッティングしてみることにした。
今回は瀬戸氏からSonos Oneを2台借りていたので、そのステレオ化を実現できるわけだが、ステレオ化のためにSonos Oneを2台買うとしたら倍の価格になるので、直販サイトで52,360円と、結構なお値段となる。
実際どう変わるのか試してみたところ、すでに1つ目が設定できているだけに、セッティングは至って簡単。電源を入れると、新しいSonosとして認識され、今度はWi-Fiの設定などは不要。どちらが左側なのかをボタンを押して明示した上で、再度ステレオペアとしてTrueplayを実行すれば完了。
ステレオ接続状態で再度Spotifyで音を聴いてみると、やはりモノラルとは大きな違いで、断然いい感じになった。両方とも床置きで、仕事椅子の左右少し離れたところに設置したのだが、音は下からというより、真横から聴こえてくるような感じですごくフラットなサウンドになる。
音量操作や曲送りなどはiPhoneのSonosアプリの操作でもできるが、Sonos One本体の天面パネルでも操作できる。最小音量にすると、隣の部屋では聴こえないレベルまで落とせるし、左右スピーカーの中心にいると、結構いい音で聴こえる。一方で、音量を上げていくと、このサイズからは信じられないほどの“爆音”が出てくるし、結構低域もしっかり出て、悪くない印象。日本の家庭であれば、Sonos Oneで十分過ぎる以上のパワーを持っていると感じた。
ちなみに、iPhoneのアプリを落としても、Spotifyの再生は続いており、iPhoneの電源を切っても続いている。つまりSpotifyを鳴らす上で、iPhoneはあくまでもリモコンとして動作しているのであって、SpotifyにはSonos Oneから直接アクセスしている。
さらに瀬戸氏から届いた一回り大きいPlay:5もあるので、これのセッティングも行なっていくと同時に、Android、MacそしてWindowsからはどのようにSonosのスピーカーが見えて、どのように活用できるのかいろいろと試していったので、そうした点については次回またレポートしてみたい。