“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
【年末特別企画】Electric Zooma! 2010年総集編~ 大きくトレンドが変わった年 ~ |
■ 口上
先週あたりから、いろいろなところで今年を振り返るイベントに出席しては今年を振り返りまくっていて、そろそろ首が一回転しそうな気配である。それだけ今年はいろいろ革新的なことも起こったし、同時にひどい話もたくさん起こった年であった。振り返ってみれば、とても1年に起こったこととは思えない、激動の年として記憶されることになるかもしれないと思っている。
さてAV機器の世界でも、様々なイノベーションが起こり、我々を楽しませてくれた。今年1年間で取り上げてきた機器を振り返りながら、今年の流れから来年の展望までを考えていきたい。
今年取り上げた製品をジャンル別に分類すると、カメラ系×17、チューナ/レコーダ系×11、クリエイティブ系×4、3D系×5、ガジェット系×2となった。特集やショーレポートは除いている。
相変わらずカメラ系が増えているが、これはビデオカメラとデジタルカメラの境界線がだんだん曖昧になってきて、選択肢が増えたからである。さらに3Dは撮る、見る、作るに分かれるため、他のジャンルと重なる部分も多い。では順に分析していこう。
■ ビデオカメラ、デジカメ動画篇
'09年のトレンドとしてデジカメが動画対応となり、ビデオカメラの存在意義が問われてきたのが今年である。各社その答えを模索するなかで、2つの軸が現われてきたように思う。
一つは、これまで業務用機グレードだったハイエンド製品が下に降りてきたこと、そしてもう一つは従来のビデオカメラにはなかった機能による差別化である。ハイエンド製品のコンシューマ化としては、ソニーの「HDR-AX2000」、キヤノン「XF105」あたりが記憶に残るところだ。従来とはレベルが一段違うプロ仕様のカメラを、個人でも買えそうな価格帯まで下ろしてきた。「XF305」はさすがに高いが、XF105が出たことでストーリーが繋がった。
- 第448回:限りなくプロ機のコンシューマ機、ソニー「HDR-AX2000」
- 第465回:キヤノン初の業務用ファイルベースカムコーダ「XF305」
- 第489回:小さく軽いががっつりプロ仕様、Canon「XF105」
もう一つ、従来のカメラにはなかった機能の差別化ということでは、1080/60p記録のパナソニック「HDC-TM700」、3D撮影も可能な「HDC-TM750」が印象に残る。今となっては少数派の3板式で、虹彩絞りも搭載していないが、別の路線で活路を見いだす試みは面白い。またJVCはBluetoothで音声収録という新しいトライアルを行なったが、他社は続かなかった。可能性はあるソリューションだと思うので、さらに改良を続けて欲しい。
- 第456回:ついに一線を越えた? パナソニック「HDC-TM700」
- 第479回:専用レンズで3D撮影も可能、「HDC-TM750」
- 第452回:コンパクトで相当遊べる多機能機、JVC「GZ-HM570」
従来型のビデオカメラは、機能的にはソニー「HDR-CX550V」あたりでもはや一つの完成を見たように思う。十分なワイド端とズーム倍率、虹彩絞り、マニュアル露出、HDD直結によるバックアップなど、やれることはすべてクリアしたカメラだ。
その一方、デジタルカメラの動画撮影対応がかなり進んで来た。コンパクトカメラでフルHD撮影対応のソニー「DSC-HX5V」、コラムでは取り上げていないがパナソニックの「DMC-FX700」、そして静止画カメラメーカーもネオ一眼で積極的にハイビジョン動画撮影に参入してきたのは印象的だった。ただ動画カメラとしての使い勝手としてはやはりまだオマケ的な印象はぬぐえず、やはりまだ軸足は静止画カメラにあるようだ。
- 第455回:ついにコンデジでAVCHDフル対応! ソニー「DSC-HX5V」
- 第457回:光学30倍ズームでHD動画、FinePix HS10
- 第458回:これまた裏面照射CMOS採用、Nikon「COOLPIX P100」
大きなムーブメントとしては、ミラーレス一眼が動画撮影機としてレベルが上がってきたことである。ソニー「NEX-5」はまさしくレンズ交換できるコンデジといった風情で、我々を驚かせた。同じアーキテクチャを使いながらハンディカムとして仕上げてきた「NEX-VG10」には、驚かされた。
2年ほど前から米国では、Flip Videoという廉価なMP4カメラがブームとなった。日本でもJVCやソニーが製品をリリースしたが、結局のところ火が付くまでには至らなかったようだ。それよりもiPhoneをはじめとするスマートフォンの動画撮影機能がレベルアップし、そちらにユーザーが吸い取られた格好だ。
特にスマートフォンは通信機能があることで、アウトプットまで一元的に手元で完結する点が大きかった。米国のFlip Videoでは、いったん撮ったあとはPCで加工してアップロードという、PCありきのソリューションであり、米国人には親和性が高かったが、日本ではやはりノンPCソリューションが強いという定説を再認識した。
■ レコーダ・チューナ篇
テレビ放送のレコーダは、日本独自の進化を遂げた製品である。特に放送方式やDRMなどで、日本独自の複雑な運用を強いられることもあって、革新性の発揮のしどころが難しい製品である。
そんな中にありながら、今年は地味ながら完成度を高めた製品が多かった。パナソニック、ソニー、シャープが相次いで2番組同時圧縮記録に対応し、同時動作の制限を取り払ったことは大きなポイントだ。東芝も待望の本格BD機を出したが、2番組同時圧縮記録には対応できなかった。アーキテクチャの載せ替えにかなり時間がかかったようなので、来年以降が本番だと期待したい。
- 第453回:ついに2番組圧縮録画対応! パナソニック「DMR-BW880」
- 第464回:マルチタスクを極めたレコーダ「シャープ BD-HDW53」
- 第476回:ついにソニーも同時録画制限なしへ。BDレコーダ「BDZ-AX2000」
- 第482回:ようやく登場したBlu-ray RD、東芝「RD-BZ800」
個人的に革命的だったのは、BDからの書き戻しに対応したパナソニックの「DMR-BWT3100」と「DMR-BF200」である。すでに規格自体は昨年に策定済みだったとはいえ、一番乗りで実装し、さらに廉価モデルにまで搭載してきた。個人的にはBDXL対応よりも、こちらの方を技術的に評価したい。
またアナログ停波を見越して、今後はデジタルチューナの需要も高まるだろう。総務省の肝いりですでに5,000円チューナは実現しているが、録画まではサポートしない。そんな中で登場した東芝の3波チューナ「D-TR1」は、HDDを接続すればレコーダにも化けるというお得なチューナである。
執筆当初は2万円代前半ぐらいだったが、今は実売で2万円を切っているようだ。REGZAとの相性も良く、テレビをダブルチューナ搭載レコーダに拡張する、サポート的な使い方もできるところが面白い。
PC系のチューナは、フリーオのおかげでグチャグチャになってしまった感があるが、セキュアな条件をクリアしてiPhone/iPadに書き出せるという、コンセプト的に狙い撃ちのチューナが出てきた。特に「MonsterTV U1」は、ワンセグではなくフルセグをベースに縮小したものをiPhoneに書き出すことで、画質もなかなかいい。
もう一つ、テレビ系で新しいソリューションが、テレビ画面にネットの情報を載せるというしかけである。ニコニコ動画やニコニコ生放送は、放送画面の上に視聴者からのツッコミが載るしかけになっている。またニコニコ生放送やUstreamでは、画面の右側にTwitterのタイムラインが表示されるようになっている。
これらは一種のパブリックビューイングだと言えるだろう。日本ではスポーツバーなどがほとんど市民権を得ておらず、パブリックビューイングが行なわれる現場というのは少ないが、ネット上ではすでに実現しているわけである。
このようなしかけをパソコンのブラウザ画面上ではなく、テレビ画面の上に出現させたことに大きな意味がある。これまでテレビ画面の中に別の情報を表示させるシステム、たとえばTV向けのウィジェット、ソニーではアプリキャストのようなものは存在したが、ネットユーザーに訴求されていたかというと、そうでもないだろう。
しかしTwitterがブレイクした今、このようなカタチでテレビとネットがユーザーの手元で融合するというのは、面白いムーブメントである。
■ 肩すかし? まだまだこれから? 3D
今年の頭までは、今年は3D元年だとかいろいろ鼻息も荒い感じだったのだが、3月4月ぐらいに失速しはじめ、夏頃にはもはやコンテンツ不足が深刻化している状況が明らかになってきた。筆者は3Dの一般普及に関しては慎重な見方をしているのだが、自らクリエイティブしていくのならこんなに面白いものはない。
そんなわけで、3D撮影対応カメラや視聴環境などは一通りレビューしてきた。テレビやBDレコーダを3D対応に買い換えるのは大変な話だが、PCであれば比較的簡単に環境を整備できる。とは言ってもまだ潤沢に選択肢があるわけでもないというのが正直なところである。
- 第473回:3DでPCが生まれ変わる? 富士通FH550/3AM
- 第475回:3Dチャットを手軽に? サンコー「3D/2D WEBCAM」
- 第477回:より完成度を高めた3Dカメラ「FinePix REAL 3D W3」
- 第480回:NVIDIA 3D Visionで始める3D on PC
- 第486回:手軽な3D撮影機、レッツ「3Dsunday pocket HD camera」
3Dが撮影できるカメラは、オプション対応なども含めると少しずつ出てきてはいるが、現状ではまだ画質や画角、機能面で満足できる状況とは言い難い。実際プロでも3Dをちゃんと撮影するのは相当難しいので、コンシューマで撮影までとなると、かなりの制約の中で行なうことになりそうだ。
CEATECでは東芝の裸眼3Dディスプレイが大変な関心を集めたが、やっぱりメガネ国民である日本人にとっては、メガネの上にメガネをかける現状の3D方式に対して、躊躇している姿が浮かび上がってくる。現状3D製品の動きを見ていると、よほどのキラーコンテンツ、あるいはキラーソリューションが登場しない限り、このまま失速していく可能性も高い。そもそも地デジへの移行だけでいっぱいいっぱいで、3Dにつぎ込むだけの経済状況にないというのも、正直あるだろう。それだったらソフトウェアでアップグレードしていくPCベースの2D-3D変換技術の発達に期待した方が、楽しいかもしれない。
■ できること、次のステップへ。クリエイティブツール
これまで映像作品を作るという行程では、いわゆる編集ソフトを使って1カットずつ作っていくというのがセオリーであり、その方法論がわからないと、いいものが作れないというジレンマに陥っていた。いくらアマチュアでも、自作物の仕上がりのしょぼさにはみんな気づく。そもそも見る目は肥えているのである。これまではコンシューマだからあまりたいしたものは作れないということをみんなが我慢してきたわけだが、それもテクノロジーが解決しつつある。
motion dive 5 Compact VJやiMovie '11は、ユーザーの簡単な操作で高いクオリティのアウトプットが得られるソフトウェアとして、くくることができるだろう。ユーザーは細かい雑務から解放され、演出に集中できるようになる。全体が何となく気に入らない、といった漠然としたリクエストであっても、ソフトウェア側に用意された方法論の中から答えを選ぶことができる。
もちろん、プロであれば素材からエフェクトからすべてをオリジナルで用意するわけで、そこには完全オリジナルという世界があるわけだが、そこまでやらなくても十分な結果が得られるというのは、簡単で便利、しかも仕上がりも綺麗という、コンピュータに求められてきた実務がアートの世界にまで進出してきたことを物語る。
さらにそのアウトプットが、個人や家族という狭い範囲ではなく、ネットのサービスを通じて広く公開するというムーブメントにようやく日本でも乗り始めたというのが、今年の大きな意識変化だろう。すでに米国ではそのようなソリューションの製品が数多いが、これからは日本独自の感性を交えつつ、世界に通用する製品やサービスが展開されることを期待したい。
■ 総論
さてそんなわけでお送りしてきた2010年のElectric Zooma!総集編、いかがだっただろうか。経済的には停滞や後退が見られた今年だが、多くのガジェットやサービスがクラウド化し、無料化していく中で、人は何にお金を払っていくのか、ということが家電メーカーやクリエイター側に突きつけられた格好になったように思える。
そんな中、テレビ放送を見る、楽しむといった行為が復活してきたのも、経済的停滞と無関係ではないだろう。無料で楽しめる放送をしゃぶりつくしてやろう、楽しみきってやろうという動きは、来年7月のアナログ停波に向かって加速していくものと思われる。
また映像クリエイティブの世界では、いよいよレンズ交換式のビデオカメラが当たり前になってくる兆しも感じられる。それがビデオカメラのカタチをしているのか、それとも写真機のカタチをしているのかはあまり重要な議論ではなくなってくるだろう。ただの運動会記録という必需品への投資ではなく、いい絵を撮りたいんだという心の贅沢のためにお金を払うという動きが、動画の世界にもやってくる気配が感じられた1年だった。
さて、今年のElectric Zooma!はこれにて終了である。年明けは毎年恒例となったCESレポートで幕を開ける。来年はどんなモノが、私たちをわくわくさせてくれるのだろうか。
では少し早いが、みなさん良いお年を。