小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1156回
Electric Zooma! 2024総集編。「挑戦」が支持された今年のトレンド
2024年12月25日 08:00
挑戦が評価された1年
大掃除にはまだ間があるタイミングではあるが、今年も総集編をお送りする。2024年は、パリオリンピックの開催、大谷翔平選手の活躍、サッカーワールドカップアジア最終予選など、スポーツ中継に釘付けになった年だったのではないだろうか。視聴はテレビ放送に限らず、TVerなどネットライブ配信の可能性にも多くの人が気づいたはずだ。
ネット配信視聴の中心はこれまでスマートフォンやタブレットだったが、家族みんなでテレビで見るというスタイルが定着した。ネットが放送の代わりにテレビ画面を占有する時代の幕開けともいえる年であった。
一方で社会に目を向けると、船井電機の電撃破産からの民事再生、ソニーとカドカワが資本提携、ホンダと日産が経営統合の協議に入るなど、大手企業でも無事では済まない業界再編の動きが出てきた。それだけ独立独歩ではいられない、繋がり~連携が重要視された年であったように思える。
そんな今年1年で本連載が取り上げた製品をジャンル分けすると、カメラ×13、オーディオ×15、プロジェクタ×7、アクセサリ×5、制作・HowTo×5、レポート×3という結果となった。カメラの中にはドローンとスマートフォンも含む。
それでは早速ジャンル別に、今年のトレンドを振り返ってみよう。
カメラ篇
これまで本連載ではカメラ製品を扱う率が最多だったのだが、今年はオーディオに抜かれた格好となった。
その中でも人気だった記事を順番に並べていくと、意外なものが注目を集めていた。カメラ系でもっとも多く読まれたのが、8K解像度に到達した「Insta360 X4」の記事だった。
360度カメラは、やる人は熱心だがやらない人は全く関心がないという、興味がはっきり分かれるところだが、まさかこれがトップとは思わなかった。実際発売開始から爆売れしているという話もあり、最初から注目度は高かった。ただカメラ分野ではトップだが、総合順位では6位である。
Insta360は方向性として、全周囲を録って切り出すという使い方をメインにしており、全体が8K解像度あれば切り出しでも十分な解像度が得られる。基本的に後処理メインのカメラだが、多くの人はそうした動画の編集行為を難しいものと敬遠しなくなった、という事なのかもしれない。
カメラ分野2位は、初めてProの名を冠したDJI「Osmo Action 5 Pro」だった。
昨年あたりからアクション系のカメラは、各メーカーとも差がほとんど無くなってきており、完成度がどんどん上がってきている。その中でもProを名乗る本機に注目が集まったのも、当然だろう。
「Osmo Action 5 Pro」は同社製ワイヤレスマイクを2波収録でき、さらにはオートトラッキングも備えた。アクション撮りというより、Vlog撮りを強化したことが注目を集めたのかもしれない。
同じくアクションカメラ系では、「Insta360 GO 3S」と「GoPro HERO13 Black」を取り上げたが、GoProはそれほど関心が持たれなかったようで、ビューとしてはふるわなかった。時代はすでにDJIとInsta360の2強ということかもしれない。
カメラ分野3位はこれも意外な事に、ソニーの「PXW-Z200」の記事だった。
60万円以上する業務用機なので、普通の人が買うものではないが、久しぶりに登場したカムコーダに、今どんなことになってるんだと興味を持った人が多かったのかもしれない。実際テレビに限らず、ロケやスポーツ分野ではこうしたカムコーダが重宝されているわけで、なかなかデジタルカメラに置き換えるのが難しい。今後はこれがスタンダード機になっていくだろう。
業務用クラスのカメラということでは、キヤノン「EOS C80」の記事もよく読まれた。シネマカメラとの見方もあるが、テレビ分野でもシネマ的な映像が求められていることから、テレビ向けシネマカメラという立ち位置が面白い。
また暗部撮影にも強く、センサーの素性の良さをよく活かした設計になっている。
暗部に強いという点では、DJI「Air 3S」もいいカメラを搭載していた。一般的にはAir 3の改良版として注目度が薄いところだが、小型カメラでの暗部特性としては、トッププラスだろう。
オーディオ篇
コロナ禍を契機にオーディオに帯する考え方が大きく変わっていったのはご承知のとおりだが、今年は空間的な広がりを重視する製品が多く登場した。「空間オーディオ」の登場から3年、処理もこなれてきたということだろう。
とはいえオーディオ部門で、さらに他の部門も含めてぶっちぎりのトップだったのが、意外な事にCDプレーヤーの記事だった。
今年1発目の記事だったので、1年かけてビューが積み上がった結果とも言えるのだが、他に競合製品もあまりないので注目が集まったのだろう。有線イヤフォンならバランス接続でき、BluetoothはLDAC対応と、音質的な配慮も十分だ。まさに現代のスキマを埋める製品である。
続く2位、3位は次世代とも言えるスピーカー、共にクラウドファンディング製品がランクインした。
どちらも独自技術により、ステレオ音源をサラウンド化するというスピーカーである。空間オーディオのような上下や後ろまでカバーするものではないが、空間オーディオ音源として配信されていないソースも拡がって聞こえるということで、「新しいステレオ感」の誕生を思わせる製品であった。
同様の効果が得られる製品として、Creativeの「Sound Blaster GS3」と「Sound Blaster GS5」もあった。こちらはハードウェア構造はそのままでのソフトウェア処理だが、ワールドワイドでも同様のムーブメントが生まれて来ているのがわかる。
新しいムーブメントとしては、ソニーが新しく展開するULTシリーズにも注目が集まった。
同社の重低音シリーズにはXBシリーズがあったが、従来の「低音が多い」から「低音が深い」方向へのシフトが見られる。低音重視の方向性はもうここ10年ぐらいのトレンドではあるのだが、改めてもう一歩奥へ進んだという格好だ。ただ今年のトレンドである「広がり感」についてはキャッチアップできていない。今後の展開に期待したい。
また昨年からのトレンドからさらに完成度を深めた流れとして、オープンイヤー型イヤフォンが好調だ。今年はHUAWEI、ボーズ、ソニーの製品をとりあげたが、いずれも完成度が高く、今後の基準器になりそうな製品であった。
プロジェクタ篇
今年の特徴として顕著だったのが、プロジェクタ市場の盛り上がりだ。元々スポーツなど多人数で楽しむコンテンツではプロジェクタが強いと言われてきたが、今年はそれがネットライブで多く実現したことにより、ネット配信に強いスマートプロジェクタが需要のシナリオとようやく繋がった。
定番商品としてのAnker Nebulaシリーズは、今年はCapsle 3を投入、相変わらずの強さを見せた。またリーシング型プロジェクタで知られた「PopIn Aladdin」はXGIMI傘下となり、Aladdin Xとして単焦点プロジェクタなど別分野に進出した。
日本からではほとんど情報が得られなかったXGIMIに関しては、初めてキーマンにインタビューすることができた。同社が開発した、レーザーとLEDを組み合わせる「Dual Lightテクノロジー」の優位性も詳しく知ることができた。
一方で3色レーザーで輝度を稼ぐ方向性の他社も、量産効果によって価格を下げるという方向性で勝負してきた。JMGO、Dangbeiは日本でも要注目のメーカーだ。
またDangbeiはHD解像度ながらレーザー光源の小型モデルも製品化しており、小型は暗いという常識をひっくり返してきたのも印象的だった。
低価格で輝度が稼げるDual Lightか、それとも大量生産で価格を下げる3色レーザーか、来年以降は輝度の勝負になりそうだ。
アクセサリ篇
いわゆる周辺機器という意味のアクセサリだが、よく読まれたのはオートフォーカスアイウェア「ViXion01S」の記事だった。昨年から先行商品が出ており、その次世代モデルだが、ようやく筆者もゆっくり試すことができた。
視野が狭いこと以外はすでに技術的問題はクリアされており、ある意味「メガネに変わるメガネ」という立ち位置として、他にないユニークさを備えている。これまで本連載では取り上げていないが、メガネ型スマートディスプレイもどんどん進化している。どこかの段階でキャッチアップしたいと思っている。
意外に注目度が高かったのが、DaVinci Resolve向けのカラーパネル「DaVinci Resolve Micro Color Panel」の記事だった。これまでカラーパネルは、プロ用は475万円、ミドルレンジでも35万円と、それで食べている人にしか買えないものだった。それが一気に10万円を切ったインパクトは大きかった。
三脚のようで三脚ではないEdelkrone「StandPLUS V3」も、注目度が高かった。三脚は高さを変えるのが地味に面倒なのだが、アームを使って簡単に高さ調整ができるのは、いいアングルを探したいブツ撮りにはメリットが大きい。これは現在も筆者の仕事部屋で活躍している。
撮影治具としては、Feiyu Techのジンバル「Feiyu SCORP Mini 2」は面白かった。あらゆるカメラと通信することはできないので、ジンバル側にもカメラを付けました、という製品だ。これにより、人物のトラッキングはカメラがなんであろうとジンバル側のみで追従できる。
昨今はDJI Osmo Pocket 3のようにカメラ一体型ジンバル製品が人気となり、独立したジンバル製品は若干下火になりつつある。確かにバランス調整など面倒な部分もあるが、本機のようにスマホでも一眼でも使えるジンバルは希少だ。
制作・ハウツー篇
このジャンルでもっともよく読まれたのは、今年11月に出たばかりのM4版Apple Mac Miniの性能をDaVinci Resolve Studioを使ってテストした記事だった。これは全体でも3位に入る人気記事となっている。
コスパの高い製品として注目度も高く、ベンチマークも各種出ているが、実際の作業を通じてパフォーマンスを測るという視点が受けたようだ。
実際テストしたのは筆者の私物であり、現在もこのマシンで原稿を書いているわけだが、旧マシンからの移行もスムーズで、そのあたりはさすがにこなれている。電源などはどうにでもなるので、ディスプレイがなんとかなれば出張などでも使ってみたいところである。
配信ツールとしては、昨年のInterBEE発表されたクラウドスイッチャーを取り上げてみた。
従来クラウドスイッチャーと言えば、プロの配信事業者が使うものだが、これをOBS Studio並みに誰でも使えるようにしたと言う点で、ユニークさがある。ただ、だれがどう使えばメリットがあるのか、ピタッとはまるピースが見つけられていない印象も拭えないところだ。
また今年目立った製品としては、ワイヤレスマイクがある。DJI、RODEといった定番メーカー以外にもJBLが参入してくるという混戦状態で、しゃべりを撮るというVlogのような動画コミュニケーション界隈は伸びしろがある分野なのだろう。
総論
今年取り上げた製品とそのランキングを眺めて、改めて感じた今年のトレンドは、「専用機の復活」ではなかったかと思う。スマホは相変わらずなんでもできて新製品も続々投入されているが、2世代3世代前のモデルでなにか不自由があるかと言われれば、あまり差がないところまで来ている。そうした汎用の時代が終わり、もう一度みんなが知りたいのは、スーパーな専用機の情報なのではないか。
そういった意味では、CD専用プレーヤーやサラウンドスピーカー、8K360度カメラ、プロ用カムコーダのような、ものすごくニッチな専用機のニーズが高かった。またマイクのようなレガシー製品も、ワイヤレス化することで全く新しいジャンルの製品に生まれ変わるといった現象が見られた。
この点では作り手側の機材も受け手側の機材も、売れ筋製品一本槍から、本当に気にいる製品を自分で探すという余裕が生まれたのが今年ということになるだろう。こうした傾向は産業界にとっても追い風になっており、クラファン製品がメーカー製品を凌ぐ人気商品となるなど、挑戦をよしとする風潮が強まってきている。
来年は大手メーカーからも、よりチャレンジングな製品が登場することを期待したい。