プレイバック2023

「オーディオ入門に最高じゃん」というモデルが沢山登場した1年 by 編集部 山崎

デノン「RCD-N12」

2023年も様々なオーディオ機器が登場したが、取材をしながら「これオーディオ入門に最高だな」とか「俺が初めてコンポ買った時代にこんな製品があったらなぁ」と思う事が特に多かったのが今年だ。

もっとも印象深いのは、デノンHi-Fiミニシステム「RCD-N12」(11万円)。10万円を超えているので“オーディオ入門”とするにはちょっと高価だが、12月現在、通販サイトで10万円を切っているところも珍しくない。

コンパクトな筐体にCDプレーヤー、ネットワーク再生、2chアンプ、Bluetooth、USBメモリー再生、FM/AMラジオ、さらにはMMカートリッジ対応のPhono入力まで搭載。なんとHDMI ARC端子まで備えており、テレビと接続するコンポとしても使えるという万能ぶり。

アンプも内部でBTL接続になっているパワフル仕様で、音もミニシステムとは思えない堂々としたサウンド。聴きながら「これ1台あればいいのでは」と呟いてしまった。

同じくデノンの「DRA-900H」(121,000円)も面白い製品だった。HDMI入力を6系統も備え、ネットワーク再生もできる“AVアンプっぽい”製品なのに、2chアンプ。要するに「5.1chとか7.1chもスピーカー置く場所ないけど、2chの良い音でゲームとか映画を楽しみたい」という人にマッチしたアンプだ。

デノン「DRA-900H」

HDMI入力が6系統もあるので、BDプレーヤー、PS5、Nintendo Switch、Fire TV Stickを接続してもまだ2系統余る。先程のRCD-N12もHDMI ARCは搭載しているが1系統のみなので、特に複数のゲーム機のサウンドをよりリッチに楽しみたいという人には、DRA-900Hの方が便利だろう。2023年末の時点ではかなり尖った製品だが、新しい時代のAVアンプとして、DRA-900Hのような製品が今後増えるのではないかと感じている。

マランツ「STEREO 70s」

“HDMI入力搭載の2chアンプ”の先駆者と言えるマランツが今年投入した「STEREO 70s」(143,000円)も、オーディオ入門としてはちょっと高価だが、現在は実売11万円ほどになっており、コスパの高さが印象に残る。

それでいて、マランツらしい気品のあるデザインの筐体は高級感があった。薄型だが、HDMIは6入力搭載し、ARCにも対応。ネットワーク再生もできる。

プリアンプに、マランツの代名詞とも言える高速アンプモジュール「HDAM-SA2」を用いた電流帰還型回路を採用したり、パワーアンプもフルディスクリート構成だったりと、薄くても“ガチなHi-Fiアンプ”に仕上げられていた。オーディオ入門という枠を超えたアンプと言えるだろう。

机の上で良い音を楽しむデスクトップオーディオは、ピュアオーディオの入門でありつつ、“デスクトップで音質を追求する”オーディオの1つのジャンルだ。

そんなデスクトップオーディオで今年最も印象深かったのは、FiiOの「R7」(オープンプライス/実売112,200円前後)。デジタルオーディオプレーヤー、ネットワークプレーヤー、USB DAC、バランス対応ヘッドフォンアンプ、Bluetoothレシーバーなどの機能を縦型の小型筐体に搭載。アクティブスピーカーやヘッドフォンを接続するだけで、多機能なオーディオ環境が完成するという製品だ。

FiiO「R7」

AndroidベースのOSも搭載し、アプリの追加も可能。要するに、ポータブル・デジタルオーディオプレーヤー作っているFIIOが、その技術を使って、据え置きの小型コンポを作ってみた……というイメージだ。

デスクトップで重要な“省スペース”を追求し、ピュアオーディオでは珍しい“縦長筐体”。さらに大型ディスプレイも備えるなど、オーディオの常識に囚われない製品で、最初は戸惑ったが、実際に使ってみると、非常に使いやすく、音も良かった。

パソコンと組み合わせると便利な製品だが、パソコンを起動しない静かな部屋でR7 + アクティブスピーカーで聴く音楽は、まさに“小さなピュアオーディオ”という感じで、デスクトップオーディオの可能性を示してくれた。

組み合わせるスピーカーまで、自社で作ってしまい、そのスピーカーもエンクロージャーがアルミダイキャスト製というガチっぷりで、FIIOの「デスクトップオーディオに注力するぞ」というメッセージも感じられた。

FiiO「SP3」

イベントでは既に上位機「R9」も参考出品されており、2024年の登場が期待される。FIIOだけでなく、他のポータブルオーディオメーカーもデスクトップオーディオ機器を手掛けるところは増加しており、この流れは来年さらに強まるだろう。逆に、ピュアオーディオメーカーからのデスクトップオーディオ提案も、2024年は期待したい。

「秋のヘッドフォン祭2023」で参考展示された「R9」

コンポは不要、スピーカーにアンプやネットワークプレーヤーや、HDMI ARCを搭載する事で、“スピーカーだけでオーディオ環境が完成”という製品も増えている。中でもコスパが良いと感じたのは、ELAC「Debut ConneX DCB41」だ。

ELAC「DCB41」

ペア94,600円と10万円を切る価格ながら、HDMI ARC、USB-B(最大96kHz/24bit対応)、光デジタル、Bluetooth(aptX対応)、アナログRCA(LINE/Phono切替)入力を備え、デザインも本格的。

価格的に、ELACの代名詞であるJETツイーターを搭載していないのは残念だが、パワフルかつ満足度の高いサウンドが印象的だった。

ピュアオーディオ・ブランドが手掛ける、多機能な小型アクティブスピーカーとしてはJBLの「4305P」(ペア264,000円)が人気だが、その大型モデルとして、200mm径ウーファーを搭載した「4329P」(ペア561,000円)が登場したのも今年の5月だ。

このサイズでももちろん、USBスピーカーとしてPCと接続できるほか、Wi-Fi、Bluetoothで受信するワイヤレススピーカーとしても使用できる。オーディオ入門という話からは外れるが、「大きくてより本格的なスピーカーもアクティブに」という流れは、2024年さらに強くなるだろう。

左が小型の「4305P」、右のホワイトバージョン「4305P(WHT)」も来年登場が期待される
200mm径ウーファーを搭載した「4329P」

ソースとしてディスクプレーヤーやネットワークプレーヤーを用意し、アンプを買って、スピーカーを繋いで……という、今までのオーディオ機器のイメージやカテゴリ分けが良い意味で崩れ、自分に必要な機能だけを、省スペースで、価格を抑えて、しかも良い音で揃えられる時代になってきている。オーディオの世界に飛び込むには、最高のタイミングだ。

山崎健太郎