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フォーマット戦争と消えたBlu-ray 3D、そして配信へ。AVの20年と“その先”

2001年の2月、デジタル化の始まりと共に創刊したAV Watch。それから20年、映画やドラマ、アニメ、音楽などのコンテンツの流通や楽しみ方も大きく変化しました。

Blu-ray VS HD DVDのフォーマット戦争や、地上デジタル放送、スマホの普及、ポータブルオーディオブーム、映像・音楽配信の普及など、コンテンツの流通の変化はハードウェアのあり方・使い方、オーディオ・ビジュアルの楽しみ方も大きく変えました。

そこで、連載「RandomTracking」でもお馴染み、ジャーナリストの西田宗千佳氏とAV Watch 前編集長 臼田、現編集長 山崎の3名で、AV Watch誕生当時から2021年の動きを振り返ってみました。

「家電」から「デジタル家電」の時代

――VHSテープなどのアナログ時代から、デジタル化によって画質・音質は大きく向上。映画などをDVDで購入・レンタルするライフスタイルが一般化していった。一方で、それを記録する光ディスクの“次世代フォーマット”を巡っては、HD DVD VS Blu-rayのフォーマット戦争も勃発した。

西田宗千佳氏(以下、西田) :僕が初めてフラットパネルのテレビを買ったのがちょうど2001年頃。日立の32型で、まだ「Wooo」じゃなかった頃のモデル。偶然にも、ちょうどAV Watchの誕生と同時に私もデジタルAVの話を書くようになったんですね。突き詰めると'98年にスカパー! に加入したタイミングだと思うんですけど。

日立の世界初32型プラズマテレビ「W32-PD2100」とBSデジタルチューナ内蔵型「W32-PDH2100」の2機種が2001年4月に発売された

日立、世界初の32インチプラズマテレビを発売(2001年2月)

それまでのアナログAVにはあまり興味がなくて、オタクの嗜みとして、ビデオデッキは2台持ってたし、レーザーディスクも持ってたけれども、品質に超こだわっていたかというと、そうではなかった。どちらかというと、アーカイブがしたかったというだけで。

「デジタルの映像ってすごいな」と思い始めたのが、スカパー! に加入した頃だったと思うんですよ。「チャンネル多いってこういうことか!」と思ったのと同時に、「そういえばこれって『MPEG-1』ってヤツでやってるんだよな」と、PCとの接点が頭の中で繋がったのがちょうどこの頃でした。

そしてその後に、当時出始めだった日立の32型プラズマテレビを購入。「薄型パネルで映像を観るってこういうことなんだ」と理解できたのがまさに2001年でした。

ゲーム機の取材はその前からしていましたが、あくまでコンピューターとして扱っていたので、ちょっと方向が違ったんですよね。

“多チャンネル化やEPG(電子番組ガイド)、デジタルで映像がたくさん観られて、パッケージメディアも持っていて”といった薄型テレビの価値や、映像・音楽のデジタル化によって生まれた便利さが体感できた年だったと思います。おそらくAV Watchができたのも、同じような経緯からですよね。

AV Watch前編集長 臼田(以下、臼田) :そうですね。インプレスのWatch系媒体はIT、PC系から始まっているので、当時家電のデジタル化が叫ばれる中で、AVに関してもデジタル化に伴い、PCのように半導体を取り込んで……というような流れができてきて、PC Watchから分離する形で、2001年にAV Watchが立ち上がりました。

デジタル化に伴い、西田さんのようにPC分野で活躍していた著者さんが、オーディオ・ビジュアルや家電などに取材の幅を広げていくという例も結構多かったですよね。特にコンテンツが好きな人は、ハードウェアや環境がPCなどに近づいてくるような流れがあったと思います。

西田 :そうですね。映像よりも先に音楽、「CDをリッピングする」という流れがこの頃に来たじゃないですか。ただ、CDをリッピングして聴く、音楽を買って聴くというのが当たり前になるまでは、実は光ディスクがデジタル化して、テレビがフラットパネル化するよりも時間がかかったと思うんですよ。

テクノロジー的には2000年代前後には、CDをリッピングしてMP3にして聴くって割と当たり前になってきたんですよね。でも、まだ普通の人のものではなかったですよね。

臼田 :その頃だと「パソコンを使える人」がまだ限られていましたね。また、「CDをリッピング」っていうのもまだ「できる人にはできること」で、ちょっとダークな“してはいけないこと”といった印象もあったかもしれません。

ただ、パナソニックやソニーがデジタルに関わってきて、「もっと広くに普及するぞ!」という期待が高まっていたころですね。BSデジタル放送も2000年スタートですし、あらゆるものがデジタル化するのは見えていましたが。

西田 :そもそも「リッピング」というワードがちょっとダークでしたね。

AV Watch編集長 山崎(以下、山崎) :普通は「ダビング」でしたもんね。

西田 :「ハッカーコミュニティ」と「テックコミュニティ」みたいなギークな言葉の使い方って部分もあるんですけどね。

臼田 :「ちょっとハックして自分が得してしまう」みたいなニュアンスがありましたね。マニアとしては、そこが面白いというのが1つの盛り上がりポイントだったかもですが。

西田 :最近はもう、誰もMP3エンコーダーの話ってしないじゃないですか。どのエンコーダー使うのがいいの? みたいな話もなくなって、「まだMP3使ってるの? Oggじゃないの?」とか。行為自体が楽しかった時期だからっていうのはあるかもしれないですけどね。

山崎 :2000年代はMDのダビングが一般化しなかったじゃないですか。オーディオ好きや一部のマニアはMDを使ってるけど……って感じでしたけど、この頃って一般の人はCD-Rとかでしたっけ?

西田 :おそらく2つパターンがあって、レンタルCDから全く編集しないでMDに落としている人と、CDを購入してそのまま使う人が増えてきてた。ポータブルCDプレーヤーがすごく安くなって、それにヘッドフォンを繋いで聴くという時代がそこそこ長くあって、一般の人はまだそうだったんでしょう。CDたくさん入れるケースとか持ってましたもんね。家を出るときに「今日はこのパック」みたいな感じで選んでた記憶があります(笑)

臼田 :AV Watchの記事でも「CDチェンジャー」って2004年くらいは人気の商品でしたね。

山崎 :ミニコンポの上に、デカくて回るチェンジャーとかついてましたね(笑)

臼田 :海外輸入で100枚入るカードリッジのやつとか、ありましたよね。

2004年発売の松下電器産業コンポ「SC-PM700MD」。5CDチェンジャーを搭載している
2007年発売の松下電器産業のミニコンポ「D-dock SC-PM770SD」。SD/SDHC対応のカードスロットと、5枚のCDチェンジャー、MDデッキ、FM/AMチューナを内蔵

松下、CDからMDへ6倍速録音が可能な5CDチェンジャ搭載コンポ(2004年3月)

松下、D-snapやBluetooth機器と連携する「D-dock」(2007年4月)

山崎 :カーオーディオにも5、6枚突っ込んでガチャガチャやるやつとかありましたね。

西田 :結果的に“みんなストレージに入れちゃえば一緒じゃん”となるまで、自分が聴きたい曲に自動的に切り替えるというのが大切な時期が続いたんですよね。

同じような話で、ビデオデッキやレーザーディスク、ゲーム機、CSチューナーの映像を切り替えてテレビにアナログ入力するための「スイッチャー」がまだ元気だったのもこの頃くらいですよね。うちにはわざわざ高いマトリックス形式のスイッチャーを入れてましたからね。

それも今はもはやスイッチングしないですよね。テレビに付いてるHDMIで十分で。デバイスの中で映像と音楽とゲームとが切り替わる時代が来ちゃったので、ディスクを含めて、物理的に入れ替わるものが残ってた最後の時代がこの頃ですよね。

そして、DVDではアナログ時代からさほど画質が上がらないからといって“次世代ディスク”が来るんですよね。

BD VS HD DVD「フォーマット戦争」

臼田 :次世代ディスクと呼ばれたBlu-ray Disc(BD)とHD DVDのパッケージメディアの発売は2006年ですね。実はもう15年経ってます。

2006 International CESに出展されたBD-ROMパッケージ
東芝HD DVDレコーダ「RD-A1」の発表会で展示されたHD DVDソフト

SPHE、世界初のBlu-ray Disc発売開始(2006年6月)

ユニバーサル、HD DVDソフト6本を秋に国内投入(2006年6月)

西田 :Blu-ray Discってもうこんなに経ったんだ(笑) DVDよりある意味全盛期が長いんですよね。

臼田 :ただ、JVAのデータで日本での売り上げを見てると、BDが年間でDVDの売り上げを超えたのは、販売用が2015年で、レンタルを含む全体では2019年です。そういう意味ではDVDは息は長いんですよ。BDは十数年かけてシェアを上げてきて、ようやく「BDが標準」といえる時期になった。

その前に、まずBDとHD DVDとの「フォーマット戦争」なんてものもありましたね。

松下初のBDビデオ再生対応のレコーダ「DIGA DMR-BW200」

松下、BDビデオ再生対応のBlu-rayレコーダ「DIGA」('06年9月)

世界初の東芝HD DVDプレーヤー「HD-XA1」

「BDは戦艦大和。年内には決着」。東芝DM社藤井社長('06年3月)

東芝、HD DVDプレーヤーを3月31日発売('06年3月)

西田 :ある意味これが最後の「フォーマット戦争」ですかね。BD側とHD DVD側のそれぞれが話をしてくれて、というパターンで、対立構図がしっかりしていたので、取材する側としてはやりやすかったですよね。一方で、テクノロジー面では最初の段階からBD側の勝利が決まってましたよね。

東芝、HD DVD事業から撤退(2008年2月)

HD DVD終了から10年。変わりゆく映像市場と変わらなかったもの('18年2月)

臼田 :BDが「量産できる」ことが分かった時点で決まった感じですね(※編集部注:当時、東芝は0.1mm保護層ディスクであるBlu-rayは量産不可能と主張していた)。

西田 :HD DVDの持っていた“ネットとの親和性”みたいなところは、もしかすると、BDで今Javaベースでやっているよりも楽だったのかもしれないな、と思う時はあるんですけども。

とはいえ、結局今のBDの形に落ち着いたんだろうなと。HD DVDじゃなきゃいけない理由は、あのときには希薄だったので。

臼田 :'05年、'06年頃は、PCが映画スタジオなどに嫌われていたカルチャーというのが強く残っていたので、そこを狙ってHD DVDが巻き込んだみたいな構図はありましたね。

西田 :バランスが悪かった部分では、PCで求められていたのがROMではなくストレージだったのに、HD DVDは典型的にROMに向いたフォーマットだったというところなんですよね。

最終的には、BDですらストレージとしての役割はどんどん失われていて、もはや日本にしかないし、日本でも「BDに焼く」という行為は非常に小さなものになって久しいわけで。というところを考えると、あの当時HD DVD側が考えてた戦略は、やっていること自体は決して悪くないけども、バランスが悪かった。

BDの言っていた「これで映画を供給します」ということの方が、目的にも一貫性があったし、テクノロジー的にも一貫性があったということなんでしょうね。

臼田 :1つには“容量”という大きな問題があって、HD DVDは1層15GB、2層30GB。BDは1層25GB、2層50GBで、「そりゃあ多い方が良いでしょ」となるのは目に見えてましたよね。BDを作っている人達も当時から「これが最後の光ディスクになる」と何度も強調して、拡張性を訴えていました。やはり“容量”の部分は非常に大きかったと思います。

西田 :(BDは)多層化技術というのも見えていたし、多層化したときの容量もある程度見えていて、最初から増やせる余地もはっきりしていたというところも含めて、BDがあの当時有利だったんだなと思います。

AVファンはDVDを買わなくなって久しくなるけども、一般の人がDVDを使ってた時期はBDよりもずっと長くて、ひょっとしたら今も「光る丸い円盤はCDかDVD」だと思ってるかもしれないじゃないですか。お年寄りにどんなゲームを見せても「ファミコン」て答えるみたいに。

光ディスクに映像が入ってる=DVDで、みんな画質のことは気にしなかった。というのが、DVDの息が長かった理由なのかなと。業界と一般の間で乖離があったんだろうなと思いますね。

山崎 :(画質を)そこまで求めてない人が多かったというか、DVDがちょうどいいと思った人が大半だったということなんでしょうね。

臼田 :(DVDは)案外長生きしたよね。というか、まだ生きてるんですけど。

あと、フォーマット戦争で印象的だったのって、日本のメーカーが主導して、ディズニーやFOX、パラマウント、ワーナーなどのハリウッドスタジオを必死に取り込もうとしていた。日本のメーカーが、スタンダードを作ってリードしていく力が残っていて、当時のスタジオ側はそれに対して意向を伝えたり、支持をする立場だった。

BD/HD DVD両陣営がスタジオ獲得競争に力を入れた

HD DVD陣営、ハリウッド4社から支持を獲得(2004年11月)

それが今では、ディズニーが「Disney+」で直接配信するなど、スタジオが一貫してユーザーに届けるサービスが登場しています。フォーマット戦争当時とはだいぶ違う構図になってきましたよね。

映像配信「Disney+」、'20年内に日本上陸へ

西田 :再生するためのハードを売ることが一番の収益源だった最後の時代だったんでしょうね。映画会社にとっては、VHSの中頃の時代まではパッケージメディアはオマケで、映画が一番の収益源だったわけじゃないですか。ここにパッケージメディアが加わって、映画会社のマネタイズの方法が増えて、最終的に1本の映画から収益を得る中で、パッケージが占める割合が急激に増えていったのが90年代の後半から2000年代だと思うんですよね。

DVDになってみると、制作は楽で、コストは安く、結構な数売れるということで映画会社が本気になってきた。BDの頃には、映画会社が「キャスティングボートを握るんだ」と頑張ってやっていたわけじゃないですか。でも結局再生プレーヤーが必要だったので、それを作るのに長けていた日本メーカーの言うことを聞いてたわけですよね。その頃は。

これが今、プラットフォームという形のないものになって、“儲けるのはコンテンツを流す人”となった瞬間に、キャスティングボートがもう1回変わるわけですよね。日本メーカーの力がなくなったって言うのは、そういうことだと思っています。

もし、ハードからプラットフォームへの切り替えがうまくいっていたら、今も日本企業が元気だったのかもしれないけど、結局そうはならなかったわけで。日本企業がキャスティングボートを握っていた最後の時代……。ゲームは今も若干残ってますが。

臼田 :このフォーマット戦争でもゲーム(PS3)が重要でしたね。ゲームの存在感は大きかった。そういえば、XboxもHD DVDドライブを出してましたね。

PLAYSTATION 3 20GBモデル(左)、60GBモデル(右)
HD DVDの切り札だった「Xbox 360 HD DVDプレーヤー」。左がXbox 360、右がHD DVDドライブユニットだ

PLAYSTATION 3の今わかるAV機能-シンプルなBDプレーヤー('06年10月)

Xbox 360のHD DVDプレーヤーは20,790円('06年9月)

西田 :一番普及したHD DVDのドライブがそれですね。

ゲームというドライビングフォースがある上で、“映画も観られる”というエクスキューズがあったわけじゃないですか。この時期、私はよく「言い訳消費」という言葉を使ってました。「いい大人が自分の為にゲーム機を買う」というのが周りから咎められる時代だったので、「でもこれはDVDやBDも観られるからさ」と言い訳をしながら買っていた時代だったなと。

同じように、「あんなことやこんなこともできるから」と多機能な家電が売れていたのが2010年以前で、その頃はそんな「言い訳消費」のハードが好調だったのかなという印象です。ゲーム機が好調だったのは、まさにその典型的な「言い訳消費」の構造を持っていたからだと。

そして、今はゲームを買うのに誰も言い訳する必要がない(笑) 大人が普通にゲーム機を替えるようになった故に、ゲーム機における映像というのはそこまで強くなくなったのかなという気はします。

臼田 :ゲーム自体の作り方も、フィットネスや学習など、老若男女問わず誰もが楽しめるエンターテインメントという形に変わってきているということがあるのかなと。

山崎 :映像配信がメインになって、DVDやBDを観るためにゲーム機を買う必要もなくなりましたもんね。

西田 :DVDが長く生き残った理由って、レンタルDVDもあるかもしれないですね。質よりも内容が大事だったり、コスト面であったり。そしてそれが今は配信に変わってきてるんでしょうかね。個人としてはレンタルビデオ店に行かなくなって久しいので、わからないですが。

臼田 :そもそもレンタルのコーナー自体がなくなってきて、ビデオ屋が中古ゲーム屋になってきてますね。

西田 :2010年くらいまでが、一般の人がディスクを買って(借りて)観る時代で、そのあとはまた、「ディスクを買うのはマニアである」というレーザーディスクと同じ構造の時代が戻ってきた訳じゃないですか。

山崎 :マニア向けという意味では、ハードの面では、負けてしまったHD DVDの方が「RD-A1」や「HD-XA1」など、ハードとして力が入っていて、印象に残っていますね。BDの方はゲーム機が印象的ですけど、プレーヤー/レコーダーで印象的だったものって、今思うとあまりなかった気がします。

初代HD DVDプレーヤー「HD-XA1」

臼田 :日本だとBDがレコーダーからスタートで、HD DVDはプレーヤーで勝負するしかなかったという構図になってましたね。BDはPS3があったので、安いプレーヤーを出しても戦えないという状況でもありました。

西田 :次世代ディスクはDVDが普及しきったところでスタートしたので、普通だったら「高価だけど、画質も音も良い」とマニアが買い始めて、シャワー効果で一般層に流れていくはずだったんですけど、割と初手から安くて、クオリティがそこそこ高いもの……。この“そこそこ”というのがなかなか難しくて。

ここ20年デジタルAVで重要だったのが、“そこそこ”というクオリティの考え方の問題だと思うんですよ。CD/DVD/BDも、配信もそうなんですけど、クオリティでは「マスモニ(マスターモニター)で放送波を観る」というのが圧倒的で、それに如何に近づけるかを考えた時に、昔のAVファンは、高価な機器を買ってたわけじゃないですか。アナログ時代、例えばレコードなら、高いターンテーブルとスピーカー、アンプという具合に。それで理想の8割に到達する、といった世界だった。

ところがデジタルになって、普通の人が理想の9割に安く到達できるようになった。あと1割をハイエンドの人が突き詰めるという世界がやってきて、ずっとその構造が(20年)続いてると思うんですよ。

BDでハイエンドのハードがあまり出なかったのも、最初に8、9割をクリアできてる状況で、「残りの15%くらいを購入する人ってどれくらい居るの? それを作るためにどれくらいのコストがかかるの?」という話になってしまったんでしょうね。

臼田 :デジタル化でクオリティがある程度担保されるようになって、半導体は同じものを使いながら、上位機種は、コンパニオンチップや仕上げ、重さなど、最終処理の違いでクオリティを高めるといったアプローチを取っていますけど、ハイエンドならではの差別化が難しくなってきてますよね。突き抜けたものもできるけど、その突き抜けただけの価値をどこでビジネスとして回収するかという難しさは、テレビ、オーディオだけでなくいろいろなもので出てきていますね。

西田 :そのジレンマの度合いが激しかったのが、BDの時期だったのかなという気がしますね。今となると、音楽はオブジェクトオーディオをどうするか、ハイエンドなヘッドフォンを使うのか、ディスプレイもOLED使うのか、ハイエンドの大きな液晶を使うのかという選択肢が出てきた。BDの時期は意外と選択肢がなかったので、このキツい時代を日本企業がこらえきれなかったという話なのかもしれないですね。

ここをこらえきって、突き抜けたものを作って、コスト的な部分も含めて生産を頑張れれば、なんとかなったのに、みんなこらえきれないで、日本に引きこもっちゃった。ここで引きこもらなかったソニーとパナソニックは世界市場でなんとか残ったけども。引きこもった企業は家電もAVもやっていけない時代になってしまった。カメラは引きこもらなかったから、ずっと世界でやっていけてるんでしょうね。

臼田 :カメラもスマートフォンの影響が…… という話もありますが、それは置いておきましょう。

消えていったBlu-ray 3D。3Dの魅力は“場の再現”として見直されるべき

――高解像度の次に来る魅力、そして“劇場の3D上映を家庭でも楽しむためのもの”として、テレビの3D表示機能やBlu-ray 3Dが登場。しかし、その普及には多くの困難が待ち受けていました。

西田 :これ(Blu-ray 3D)、もったいなかったと思うんですよね。

臼田 :発売としては2010年頃。きちんと規格化されてBlu-ray 3Dができて、テレビ側の対応が進みました。パッシブ方式とアクティブシャッター方式のメガネを使って「おうちでも3D」が楽しめるようになり、映画では「アバター」をきっかけに「3D映画ブーム」も到来しました。

ワーナー、Blu-ray 3D「タイタンの戦い」を発売(2010年7月)

3D映画「アバター」ジャパンプレミアが開催(2009年12月)

アバター 3Dブルーレイ&DVDセット
(C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

山崎 :2010年の「3D VIERA VT2」が最初の3Dテレビですね。アバターの上映は2009年12月。アバターに合わせて始まった感じですね。そして、ラインナップから3Dテレビがなくなってしまったという記事が2017年なので、だいたい6、7年くらい頑張ってはみたけれど…… みたいな感じですね。

「3D VIERA VT2」の50型「TH-P50VT2」

パナソニック、世界初3DプラズマTV「VIERA VT2」(2010年2月)

3Dテレビ時代の終焉。3D対応機種が無くなった理由(2017年6月)

臼田 :たしか、「BD立ち上げから5年で次のジャンプが必要だ」みたいなイメージでBlu-ray 3Dが出てきた感じでしたよね。

西田 :“パネルメーカーの戦略としての3D”というのが強すぎたのが敗因なのかと思っていて。スタートの時点で、パナソニックが「液晶に対してプラズマの強みとして出してきた要素」という部分があるわけじゃないですか。

ところがプラズマが厳しくなってくると、パナソニック社内的にもパネルに対しての言及が減って、3Dに対するコミットも減ってきて、結果的に他のテレビメーカーも「べつに競合が推さないし、消費者も付いてこないならまあいいか」という話になってしまい、ブレーキが踏まれちゃったんだと思うんですよね。

臼田 :ハリウッドが作った3D映画を、家でも楽しめるテレビを作れるというのがパナソニックだったわけですよね。

西田 :そうですね。

そして、映画は今も単価を上げるために3D上映をしてたりするわけですよね。それは決して悪いことじゃないと思うんですよ。

一方で、やはり家庭にはあの形では馴染まなくて、これはテレビメーカーが担いでるだけではダメだったんだと思うんですよね。それこそHMD(ヘッドマウントディスプレイ)で、左右の目の映像を完全に分断して3Dを観るという形にしていかないとダメだったんだろうと。PSVRとかで観るBlu-ray 3Dって超綺麗なので、もったいないんですよ。

PlayStation VR「CUH-ZVR2」

しかし残念ながら、フォーマットとしてみんなが支持しなかった。3Dは、さっきの話でいう一般の人が85%に対して、上の“15%の人向け”技術だったので、まだキツかったのでしょうね。

臼田 :(3Dを表示する)偏光方式にしても、パネルのすり合わせが精度の面で大変とかで、コストの面でも勝てない技術ではあったんですよね。それが、テレビという媒体で再現するのが正しかったのかというと、当時は正しく思えたけど、予想以上にテレビ自体が低価格化していく、みたいなところがあったんでしょうね。

西田 :高画質化、低価格化という両軸が進んでいく中で、消費者の支持を得ている…… 例えば映像配信サービスが見られる機能をテレビに内蔵するのはプラスだけど、「3Dのために、一番重要なパネルに対してインパクトを与える価値があるのか」という話になってしまったということですよね。

せっかくだから本当は配信に向けて、3Dはもう一度復活して欲しいところはあるんですけどね。音がDolby Atmosになって良い感じに3Dになってきたので。

臼田 :それが「3D」と呼ぶものになるのか、という話にはなるんでしょうね。何と呼ぶものになるのかはわからない。

西田 :関連した話になっちゃうんですけど、人が立体的に感じるためには“移動を伴わなきゃいけない”らしいんですよね。ソニーの空間再現ディスプレイを開発した人の話だと、3Dテレビで理想的な映像を観ても15%の人は立体的に感じないらしいです。移動を伴う…… 例えば首を動かすと、その動きに伴って立体に見えるといった、要素があった上で初めて立体感を感じるみたいなんですよね。

というところを考えると、自分を中心に固定された場所で3Dが感じられるというのが、本当の意味で3D再現になるのかというと、ちょっと怪しいかもねと。ある1つのフォーマットの再現方法としてはアリだけど。それを「3D」という何か究極なものとして呼ぶかというと、それは違うんじゃないかと年末ずっと考えてました(笑)

山崎 :VRでHMDを被って、少しの空間を移動できるくらいが3Dを体験するには一番良いのかもしれないですね。

西田 :被ってる体験が良いかは別として、「自分がそこにいる」体験をするという意味合いにおいては、移動とか、自分の位置までとらないとダメなのかなという気はしますね。

臼田 :Blu-ray 3D、西川さん(大画面マニアの西川善司氏)が「今年は1本買った」とか年末に状況をまとめてましたけど(笑)

恒例? の「3Dブルーレイ」減少問題。2020年はどうだった?

山崎 :「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」4K UHD MovieNEXにBlu-ray 3Dが含まれていて、それが西川さんが2020年に購入した唯一のBlu-ray 3Dだったという話でしたね。

西田 :自分で買った最後のBlu-ray 3Dを調べてみたら「ローグ・ワン」(2017年)。そんな前だったかっていうのがちょっと驚きでした(笑)

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー MovieNEX 初回版
(C)2017 & TM Lucusfilm Ltd. All Rights Reserved.

これから空間オーディオも含めて、場の再現という点はもう一回見直されると思うので、何かあるんじゃないかな、という気はします。

4K HDRとUHD BDが登場。高画質化の頂点と視聴環境問題

――4K解像度のテレビの登場から、それに対応したパッケージメディアとしてUHD BDが登場。SDRに代わるHDR(ハイダイナミックレンジ)も誕生。しかし、HDRを撮影、表示するための環境は、まだ混沌としていて……。

臼田 :UHD BDの話に行きましょう。2015年にプレーヤーが発売されましたが、ソフトの発売は2016年。ほぼ5、6年刻みでBD、3D BD、UHD BDと出てきている感じですね。ここで「HDR」という要素が登場したほか、大容量化やコーデックの変化などがあり、「最高画質はパッケージメディアのUHD BD」というのが今も保たれている状況ですかね。

パナソニック、世界初Ultra HD Blu-ray再生対応BDレコーダ「DMR-UBZ1」

世界初UHD BD再生対応BDレコーダ「DMR-UBZ1」(2015年10月)

西田 :安定して作品を観てもらうという点ではパッケージって必要だと思うんですよ。そして、それを購入するのはマニアなので、「クオリティが低くてはダメだよね」と言うことでトップオブトップの存在として今あるのがUHD BD。だけど、この次に来るのが「8K UHD BD」になるのかと言われると微妙なところですよね。

臼田 :多分(8K UHD BDは)難しいですよね。

UHD BDが登場した2015年、16年の頃を思い出すと、「BD(パッケージ)がそのトップを満たせなくなりそうだ」ということで、スタジオ等から高画質が求められたこと、そもそも4Kテレビが普及しだしたのにパッケージが4Kではないという課題があって、最高画質を出したいというメーカーの要求と一致して、組めるニーズがあった。その一つの要素として、よりリアリティある表現に向けて訴求されたのが「HDR」でした。

西田 :ただ、HDRについてはあまりにも視聴環境にばらつきがあり過ぎていて……

臼田 :CGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)だとかユーザー側のコンテンツは、5年経ってもこの状況だったとは思わなかったですね。

西田 :カメラでHDR/HLGが撮影できるようになり、テレビに繋げば普通に観られる…… もっと言えば、PCやスマホでも普通に観られる環境が整うと思っていたんですが、キチンと観られる環境そのものがない。撮れる環境はあるけど、撮れたものをどうしようもできないという状況のままなので。

以前、小寺さん(小寺信良氏)とメルマガの対談のためにHDRの話をしていたのですが、ビデオのコンテンツをずっと作ってきた小寺さんですら、「HDRそのものを見せる取れ高が見込めないので、諦めてSDRにダウングレーディングすることを主軸にしている」と言っていて、お互いに「本当はHDRのまま見せたいんだが!!」「わかる。わかるんだが……」という状況になっていて。それをどうするかがポイントになってきますよね。

まさにiPhone 12のときのレビューがそうだったじゃないですか(笑)

iPhone 12は「動画」が面白い。HDRの魅力とLiDARの価値

山崎 :本当に読者に正しく見えてるかわからないから、西田さんや私の手持ちの機材でいろいろ試しましたね(笑)。

西田 :記事が2回に分かれてて、初回のときYouTubeにUPして、それとは別に元データも掲載して「DLして観てね」としていたら、YouTubeで観た人が「こんな白っちゃけたのしか撮れないのか!!」ってTwitterとかで反応していて……

いやいや、そうじゃないんだよと(笑)

元データのzipファイルを用意しましたけど、それをHDRできちんと観てくれた人がどれだけいるかという話ですよね。

山崎 :それがね、わからないっていう(笑) 3Dよりも混沌としちゃってますよね。

西田 :定義が無くて混沌とし過ぎてる。映画のHDRみたいにしっかり決まったものであれば、テレビに映したり、プレーヤーで再生すればある程度観てもらえるんですけど。

放送のHDRやBT.2020の色域拡大もそうなんですけど…… 今回、NHKの「麒麟が来る」でボロボロに言われたじゃないですか、「色おかしい」って。(制作側が)やってはみたけど、視聴者側との意識の乖離とか、観てもらう環境の不統一とかで、解像度以外の要素ってうまくいってないなぁという印象が強いです。

本当はそこにビジネスチャンスがあって、ユーザーにもお金を使ってもらって楽しんでもらう要素があると思うんですけど、どうももったいないなぁという気はしてます。

臼田 :今年あたりその辺が解消されることを期待して。(HDR対応の)iPhone 12が出て半年もすれば、世界がそれに従うかもという(笑)

西田 :それでいいのか? っていうのは若干あるんですけどね(笑)

UHD BDみたいに、ディスク買ってきて、プレーヤー使ってテレビで観れば「うん、こんな感じ」というのが、共通体験できるレベルになってくれればいいなと。そういう意味では、UHD BDって、規格としてきちんとしてた。

臼田 :共通の体験ができることが、パッケージの美しさですよね。

「見たままを撮れる」「よりすごいものが撮れる」という意味では、HDR自体の可能性はあるはずですが、ユーザーが撮ったコンテンツについてはまだまだですね。

西田 :テレビが(HDRによって)活かしてもらえるはずなんですよね。

日本ではHDRをきちんと観られるテレビって、そこそこの数の人達が持っているわけじゃないですか、4K HDR対応テレビ。それでも、Netflixに入ってるわけじゃなければまあ、観ないし。もっと言うと、Netflixでも4K HDR対応のプレミアムプランに入ってないと観られないわけで。プレミアムプラン、全体の何割が入ってるんだろう(笑)

山崎 :今の段階だと、HDR対応ゲーム機と、HDR対応ゲーミングモニターを繋いで遊んでいる人の方が、ちゃんとHDRを体験している、意識的に楽しんでいるかもしれませんね。

西田 :PS4 Proのレビューの時がそうでしたよね。ゲームを繋いでゲームの映像を見せると、HDRってわかりやすい。

ほかの映像技術だと「え?」って(笑) 比較の映像を用意して、「ここがこうなってるんだよ」って説明しないとわかりにくい。しかも、そういう映像をきちんと撮るのって大変なんですよね。

PlayStation 4 Pro(CUH-7000)

PlayStation 4 Pro製品版レビュー(2016年11月)

臼田 :(HDRは)PCでキャプチャすると白くなってしまって、よくわからないことが多いですよね。何だよこれ! って(笑)

西田 :少し先の話になりますけど、PCでMini-LEDとかOLEDのディスプレイが増えてくると、ちょっとそこは面白いのかなと思っているんですよ。

配信にも絡んでくるんですけど、個人がコンテンツを観るデバイスとして、スマホとPCってすごい重要になってきて、でも、スマホはクオリティ上がってきてますけど、PCってあまり上がってないじゃないですか。もうちょっとPCのディスプレイが綺麗になって、普通の人が映像を綺麗に観てくれるようになると、面白いことが起きるかなという気はします。

ゲームも同じですよね。良いモニター買って「これ凄え!」っていう人けっこう居るじゃないですか。

山崎 :いますね(笑)

臼田 :UHD BDでいうと、PS5が出ましたね。ドライビングフォースとなるゲーム機というのが、DVD、BDに引き続き出てきたわけですけど。ただ、PS3がBDを牽引したのとは違って、UHD BDが出てから5年遅れです(笑)

あと、PS5にはUHD BD省いた「Digital Edition」があるので、西田さんが言っていた「言い訳消費」とは違う位置づけになりましたよね。

「プレイステーション 5」(PS5)

PS5実機レポート! 静粛性・超高速読み込みによる“快適ゲーム体験”の正体

西田 :多分、SIEもどんどん変わってきて、AVとゲームの両軸で戦う会社では無くなったんでしょうね。言い訳消費が不要になって、ワールドワイドで見ると日本の市場が小さくなって、USとかヨーロッパの事情が忖度されることが多くなってくると、「ゲーム中心でいいんじゃない?」となっていった、ということだと思うんです。

だから、僕らはありえないと思ったけど、(2016年の)PS4 ProにUHD BDは載らなかったし。そういうことなんだろうなと。

今回(UHD BDが)載ってきたのは、コストが変わらないし、「あればいいんじゃない?」くらいのことに、やっとなったっていうことでしょうね。

臼田 :「選択肢を提供する」くらいの位置づけでUHD BDが乗っかってる感じですかね。ボディもデカいし、搭載するのは難しくないと。

西田 :ワールドワイドに見ても、映像もネットで観るものになっちゃったので。日本でもそうじゃないですか。とくに、去年から今年にかけては。

山崎 :西田さんと一緒にPS5に触った時に、PS5って爆速のSSDとディスクのローディングが同居してるじゃないですか。あれ触っちゃうと、ディスクの不便さを強調する機械にも見えちゃって(笑) 「またディスク買ってこよう」って気にならなくなっちゃうんじゃないかなって心配がちょっとあります。

西田 :HDDですら遅すぎるって言われちゃう時代に、それよりさらに一桁遅い光ディスクっていうものに人類が耐えられるかという(笑)

臼田 :速度、レスポンスの体験って、おそらく画質とか以上に効いてくる部分かと思うんですよ。

西田 :1回体験しちゃうと戻れないんですよね。

4K HDRで普通で映像を観るようになって、「じゃあ、2K SDRに戻れるか」となると、「ごめん」って言うじゃないですか(笑) もしくは低解像度の480pしかない昔のドラマを配信で観ると、「きっつー」てなりますよね。

臼田、山崎 :なりますね(笑)

西田 :レスポンスって多分それ以上に影響が強くて、故に音楽も、ディスクからiPodへ、iPodから配信へと、どんどんレスポンスが良い方、体験の良い方に変わってる。ライブラリ化とか置き去りにされた部分もたくさんあるんだけども、多くの人にとって重要なのってレスポンスだとかの方であるということなのかなと思いますよ。

最高クオリティはパッケージから配信へ?

――4K解像度での配信も登場し、そのクオリティはUHD BDに迫ってきている。一方で、パッケージがなくなってしまうと、作品の改変や公開停止などの恐れも。そして「コンテンツが残らない」という問題は、すでに始まっている!?

臼田 :クオリティの話で繋げると、最近のApple TVだと、音声がAtmosでHDRも入っていて、コーデックも新しくて、UHD BDにクオリティが迫る、超えるものもあります。“最高クオリティがパッケージではなくなる時代”は、ここ数年で来るだろうなという予感はしますよね。

山崎 :今年のCESで発表された、ソニーの「BRAVIACORE」なんか、まさにそうですよね。ソニーだけのサービスですけど。

80Mbpsの超高画質配信「BRAVIA CORE」

西田 :あれってどういうものかと思ってたら、テレビを買ってきた時に、プレーヤーを持ってない人にハイクオリティな映像を観てもらうに、Ethernetを繋いだらすぐ観られるというものが必要というインスタントさが重要だったということみたいで。

山崎 :テレビ購入者への“お試し特典”的なイメージがありますよね。

西田 :ニュースで出たときはもっと大きなもの(サービス)だと思ってたんですけど、インタビューで聞いてみたら「あ、これお試し特典だ!」って(笑)

山崎 :「テレビを買うと映画が5本観られます」とか、そんな感じ(笑)

西田 :逆に言うと、それだけ今の普通の人にとって、テレビと、プレーヤーやレコーダーを一緒に買うのがありえない時代ということですよね。世界的には、4K HDRのテレビを買ったら、「今までの2K SDRのレコーダーから4K HDRのレコーダーに買い替えて」という話ではなくなってる。

臼田 :今まではハイクオリティなものはパッケージで、機材さえあればどこでもクオリティが担保されたものが観られるという環境だったのが、配信サービスなどにロックされた供給になると難しい。パッケージの進化もUHD BD以降がないはず、と考えると、どうなっていくのだろうという不安はありますよね。ビットレートとかネットワーク環境とか考えると、なんか欲しいよね……というところがあるんですけど、その辺はまだ見えてないですよね。

西田 :見えてないですね。もちろん、ビットレートを上げるとか、コーデックを変えるという話はあるのかもしれないけれど、ディスクってハードウェアに依存しちゃうじゃないですか。今からもう一回置き換えか? というと、ユーザーがついてきてくれないし、家電であるが故に、アップデート可能でもないんですよね、ハードウェアって。

というところもあって、ディスクフォーマットっていうのは、コンテンツを固着させるためという意味合いが強くて、最高の体験では無くなっていくのかなぁという気は若干してます。

臼田 :そうなった時代の「最高」をどうやって確保するかとか、後世に繋げるポータビリティみたいなところにちょっと不安がありますよね。

西田 :世の中やっぱり、どんどんコンテンツが残らない傾向になってるところはあるんですよね。

臼田 :歴史化とか、そういうことができづらくなっているのかな、というところがありますね。

西田 :ここ30年間、我々って録画してきたわけじゃないですか。VHS、HDDに録画してディスクにダビングして、今はHDDで観たらディスクに焼かずに消しちゃったりする時代になりましたけど。その初期15年て、一生懸命CMをカットしてましたよね。今になって思うと、そのカットしたCMが大事だったんじゃんと(笑)

臼田、山崎 :そうですね(笑)

西田 :今は(CMなどの)余白が残らなくなって…… 余白が残ってYouTubeに違法アップロードされるというのが、多分2000年代が最後で。それ以降は公式のものしか残らない時代なんだなって。これは1つの問題だろうなって思ってます。

「ホームアローン2」から、トランプのシーンを消すとかいう話もあるじゃないですか。アレはそういう意味ではないらしいですけども。でも、「作品を勝手に変えちゃう」クリエイターや会社があるわけですよね。昔はディスクや録画が残ることによって、世に残っていたものがなくなってしまう。

本とかもそうで、版によって懐古的に確認できたものが、電子書籍でコロコロ変わっていくと、「版てなんでしたっけ?」という世界になってしまう。

コンテンツを楽しむという意味合いでは、そういうところをどうするかという同居感って今のところ、全部置き去りですよね。

臼田 :そうですね。(出演者などが)逮捕されると観られない、とかね。

西田 :配信が一番楽に観られるものになると、昔ジャニーズが出てた番組が観られないとかね。特撮マニア的に言うと「ウルトラマンティガ問題」っていうんですけど。

山崎 :あ~、なるほど(笑)

西田 :ウルトラマン配信されているんですけど、ティガだけ無いんですよ。何故かと言えば、主役が(V6の)長野君だから。こういう問題をどうするかというのは、これから解決すべきなんですけど、僕らができることでもないしという(笑)

あと、マニア的に言うと吹き替えが残らないというのが…… 吹き替えが複数作られなくなった。これは…… AVファンなのかな?

臼田 :吹き替えファン(笑)

西田 :いち吹き替えマニアとしては、アレだなと。ただ、吹き替えのクオリティは上がっていて、配信で吹き替えを同時に出してくれるようになった。ネット配信ってみんな吹き替えあるじゃないですか。

山崎 :世界配信を前提にしているので、字幕や吹き替えがあるのが多いですよね。

西田 :これのおかげで吹き替えの量がすごく増えて、クオリティが上がりましたよね。放送がどんどん弱って、映画を流してくれなくなったのと真逆の話で。

テレビ局がドライビングフォースでコンテンツが生まれてた時代が、デジタル放送になってテレビの視聴が減ったことで、地上波で映画などは決まったものしか流れなくなった。特定の「わかってる局」の「わかってるプロデューサー」がいる局だけ…… 言ってしまえば「テレ東」と「BSテレ東」だけが頑張って吹き替えを作ってくれて、みたいなところから、今度は配信になって吹き替えが増えた、みたいな流れではあるので。ある意味時代を象徴していることではあると思います。

デジタル放送と録画、2000年代生まれの配信サービス

――デジタル放送に切り替わり始めた2000年代。デジタル化に伴い、録画が自動化され誰でも簡単に劣化の少ない録画が可能に。そこで、作品の著作権を守るための策として、コピー・ワンスやダビング10が登場。また、同時期に配信サービスも開始されていたが、権利や視聴環境の問題など、普及に至るまでの道のりは長かった。

臼田 :放送と録画の関係もいろいろありました。2000年12月にBSデジタルが開始、2003年には地上デジタル放送が開始され、2004年4月に録画のコピー・ワンス規定が採用、2008年7月にはその緩和策ダビング10が登場しました。2011年にはアナログ放送が完全停波。BS4Kは2018年12月にスタートですね。

デジタル放送へ切り替わって、録画もHDDにできるようになって。デジタル放送だけの話ではないですが、デジタル化という意味で一番感動したのは、EPGがテレビで使えるようになったことでした。パラダイムシフトだなと感じましたね。

西田 :1996年か97年くらいに家にISDNのルーターを入れたんですよ。いつでもネットに繋がるようになって。「それで何が変わるんですか?」と聞かれたときに「テレビ雑誌と新聞のラテ欄が要らなくなります。これ新聞にとってはヤバイですよ」って答えたら、そのときは「そんなまさか」と笑われましたけど、やっぱりヤバかったよねと(笑)

そのあと、色んなデジタル機器にEPGが入るようになって。昔あったGコードを一生懸命打ち込んで録画予約する必要がなくなりましたね。裏番組はどうするとかに頭を悩ませながら、複雑怪奇な設定をVHSにしなければいけない「録画予約はお父さんしかできない行為」という時代が、デジタル化とEPG、自動録画の登場で終わった。

全自動録画まで出てきちゃって、もはや何も気にしなくなった。ただ、録画のカジュアル化がガンガン進んだ一方で、録画したデータを外に出せなくなった。

6チャンネル17日間分の番組を録画するタイムシフトマシン機能や、BS/CSデジタル放送録画に対応した東芝「レグザサーバー DBR-M490」。2013年6月に登場

東芝、BS/CS録画対応で最大8ch全録「新レグザサーバー」(2013年6月)

臼田 :コピー・ワンスが始まり、その後消費者対策としてダビング10の緩和策が出ましたという流れがありましたね。

西田 :コピワンのときにインテルは日本において、録画の識別はするけど、回数はカウントしない「EPN(Encryption Plus Non-assertion/コピーは可能だがEPG対応機器でしか録画コンテンツを再生・表示できない)」の導入を主張していて。多分色んな機器に映像を持ち出すとか楽だったんだけど、やっぱり権利者は嫌だったんでしょうね。

JEITA、「コピーワンス見直し」について提案内容を説明(2006年1月)

「ダビング10」とは何か。デジタル録画緩和策の実際(2008年2月)

このときはまだ「ここでしか観られない」「このタイミングでしか観られない」というのが、コンテンツの価値を高める唯一の手段だと思われてた。

ところが今になって考えてみると、コンテンツは“観せてなんぼ”で、「このタイミングでしか観せない」では客を逃がすだけだって明確にわかったわけじゃないですか。ただ、この時期って世界中がそれがわかってなかったんですよね。

それを変えたのは、多分YouTube。何を変えたかと明確には言えないですけど。

臼田 :配信の話もしましょうか。2000年代はNetflixがまだDVDレンタル屋さんだった頃。いろいろなサービスがありましたが、2004年頃には地上波各局が集まって配信サービス「トレソーラ」なんかも。

トレソーラ

トレソーラ、ブロードバンドを使ったテレビ番組配信サービスを実施(2004年1月)

西田 :トレソーラきちんと観たことある人いるの?

臼田 :PCのブラウザとかWindows Media Playerのバージョンが細かく決まっていて、視聴者をかなり選ぶサービスだった印象が……

西田 :この話で思い出したのが、第二日本テレビがローンチするときにすごく大変だった記憶があるのが、「視聴環境が複雑だったこと」なんですよね。観ようと思ってもなかなか観られないみたいな難しさがあって、なかなかローンチできなかったんですよね。そもそも、オリジナルの短いバラエティに対して視聴者がお金を払うのかという問題もありましたけど。

一番最初に映像配信の取材をしたのって、たしか2002年。NTT東日本/西日本が光回線の拡販に、ガンダムSEEDをテレビ放送終了後に配信し始めたんですよ。それが、初めて本格的にやった配信の取材なんですよね。

機動戦士ガンダムSEED
(C)創通・サンライズ

すごくヘンテコなシステムで、ガンダムSEEDが放送されてない県があるわけですよ。TBS系で土曜夕方の放送ができない県。そこに、ネットで同時に配信してしまうと、「テレビ局の権利を侵してしまう」ということで、フレッツを使って、県単位でリージョンコントロールしてたんですね。「バカじゃね?」と思ったんですけど(笑)

その取材の翌日か翌々日に当時マイクロソフトの副社長だった古川享さんにインタビューがあって、NTTの話をしたところ「いつでも自由に観られるのはいいね」という反応だったんですけど、リージョンコントロールして観られない県があることも話したら、1分くらい無言になってましたからね(笑) IT企業のトップクラスの人が言葉を失うくらい、配信に対する考え方が定まってなかったんですよね。

臼田 :権利の処理だとか、そもそも権利を許諾している人が何を許諾しているのかが整理されていなかった感じですかね。

西田 :配信ってなんのことだかまだわかってなかった時代ですね。

山崎 :ただ、これが新作をテレビ以外のメディアで配信した日本で初めての例なんですね。

西田 :ですね。バンダイとしてはめちゃめちゃ無理したんですよ、確か。バンダイチャンネルができたのがその前後?

山崎 :2002年。そう考えると、バンダイチャンネルも古いですね。

西田 :けっこう古いんですよ。

その当時は、お金を取るのはISP、プロバイダーだっていう考え方で、最初はプロバイダーに対して配信というサービスを提供するという事業者だったんですよね。今はOTTになっているんですけど。

そのくらい日本の配信の初期は、権利だとか「いつ誰に観せるか」とかいうところが混沌としていたんですよね。

YouTube、ニコニコ動画登場。配信認知のきっかけは震災?

――海外ではiTunesでの動画の単品配信やNetflixの配信参入で配信サービスが認知されていく中、日本では権利関係が混沌としていて普及が進まなかった2000年代。そんな中、YouTubeやニコニコ動画の登場、そして違法動画アップロードも横行。サービス側が権利問題を処理しながら、日本でも徐々に公式配信がスタートする。そして、2011年3月の東北大震災をきっかけにニュースのネット配信が行なわれ「配信の公共性」という認識が広まった。

西田 :2000年代前半は権利とかそういうのをすっ飛ばして、YouTubeとかニコ動があって。

臼田 :権利者で汲々としているなかに、CGMの怪しいやつらがドカンと来た、というのが、この時代の流れかなというところですね。YouTubeは2005年、ニコニコ動画もYouTubeの動画の上で始まりましたよね。

山崎 :YouTubeの動画を引っ張ってきて、そこにコメントを被せるカタチでスタートしたのがニコニコ動画でしたね(笑)

臼田 :非常に怪しい感じスタートでしたね。ただ、そこにコンテンツが集まって、それを観る人が集まるという循環が非常に「ネット」的でした。CGMというのがこのタイミングで生まれて、YouTubeもですが、この10年で、やや怪しい部分は残りつつも、その実績でクリーンに権利を処理してきた。

著作権侵害防止でYouTubeと権利者団体が協議(2007年2月)

角川グループ、アニメ配信などYouTube上で新規事業発表(2008年1月)

エイベックス、「ニコニコ動画」活用など映像事業構造改革(2007年11月)

西田 :結局「観せれば観せるほど価値が出る」というコンセンサスが全くない時代じゃないですか。要は「買わないとはなにごとだ!」みたいな時代だったので。広告ベースのネット配信については、全く認知ができていなかった時代なんですよね。

臼田 :そうですね。ただ、めちゃめちゃ盛り上がってはいましたね。

山崎 :GYAO! (旧 GyaO)が登場したのもこの頃ですね。Amazon インスタント・ビデオ(後のAmazon Prime Video)がアメリカでスタートしたのは2011年なので、もうちょっと後か。

USEN、ISP/キャリア不問の無料動画配信「GyaO」(2005年4月)

米Amazon、Prime会員向けに動画配信サービス開始(2011年2月)

臼田 :日本において配信の公共性みたいなものは、東日本大震災以降、意識されるようになったな気はしますね。CGM全盛の2000年代と2010年代では空気が変わったように思います。

月額で見放題、というのも2010年代に入ってから徐々に広がりましたね。Huluが2011年の8月で、ここでSVOD(定額見放題)が登場。dTV(当時のdビデオ)などは最初はTVOD(都度課金)でスタートだったので、見放題体験の始まりはこのHuluのタイミングでした。混沌の2000年代から、成熟が始まるような10年代に入ってくる感じがしましたね。

月額1,480円の映像配信「Hulu」が日本参入(2011年9月)

西田 :海外でNetflixが登場した理由って、「ディスク(DVD)配ってたら成長できない」となったからじゃないですか。リード・ヘイスティングス(Netflix CEO)が自慢してたのが、「俺はアメリカのありとあらゆる郵便局に行ったことがある」という話をしていて。それくらい郵便が滞るということで、きちんと配送のお願いとか交渉のためにアメリカ中を回らなきゃいけなかったらしいんですよ。「毎日220万枚やりとりされていて、3日分で富士山の高さを超える」とかそういう世界だったんですよ。

アメリカで人気の「Netflix」とは何か? (2010年9月)

そんな量を配達していられないので、使う人は少ないけど、配信とセットにしようという流れだったのが、気がついてみたらみんな配信の方を観てる。というようにアメリカでスイッチしていったのが、2009年~2010年ですよね。

ただ、大前提として日本と全く違う状況が1つあるのが、AppleがiTunesストアで映画を配信し始めたことなんですよね。アメリカにおいては、ディスクも売っているけど、同時にiTunesストアで映画が配信されるようになって、単品でそれを観る人というのが、2000年代の末に増え始めたんですよね。

つまり、先に単品での販売・レンタル配信というのが立ち上がった上に、それが使い放題になるSVODが来ているんですよ。日本でも同じように単品が先に来ていたんだけども、全くウケなくて、みんな(DVDやBDの)ディスクだったんですよ。アメリカは国土の広さもあって、単品配信がまずウケて、それが定着していたので、SVODが出てきたときにすぐ受け入れられていったと思うんですよね。

臼田 :初代Apple TVの登場が2010年なので、そういうタイミングですね。

西田 :さらにいうと、アメリカは日本以上にPCの利用率が高いことに加えて、みんな飛行機で国内を移動しているので、その移動中にPCで映画を観るとか、待合室で映画を観るとかいったタイミングがたくさんあったので、アメリカでは多分、iTunesストアで映画をレンタルすることが定着したところがあると思うんですよ。

そのような形で欧米では配信が認知されていたのだけど、日本では全然立ち上がらなくて…… アクトビラとかって多分それを横目に見ながらやってたんですよね。

でも、日本では結局それが立ち上がらなくて、「やっぱり配信てダメなんじゃん?」と思ったところに、海外にはNetflixが出て。

そして、アメリカのHuluって元々、YouTube対抗だったんですよね。YouTubeでタダで観られるくらいなら、きちんと自分たちで広告と定額で観せようということで、それが日本にやってきたんですよ。

そうすると日本人にとって、お金を払っての公式配信の最初の体験がSVODなんですよね。海外と逆なんですよ。

面白いところで、単品が定着したのって2020年ですよね。

山崎 :逆にそうですね。SVODのあとで単品が定着してきた。

西田 :これは日本独自の流れなのかなと。なので、日本ではスマホで観るのが先になったし、テレビで観るのはその後に定着した。PCの視聴率がそんなに高くない。あとはゲーム機で観るとか、色んなバランスはありますよね。

臼田 :SVODのタイミングで、家の中で大きなスクリーンで一番多く使われてたのがゲーム機、つまりプレステやXboxで、ここでもゲーム機がドライビングフォースになったんだなという気がしますね。

Huluの成功を受けて、SVODが色々出てきたのかなという感じでしたね。

西田 :もう1つ、2008年にNHKオンデマンドがスタートしていて、あれもSVODだったんですよね。

NHKオンデマンドトップページ(2008年当時)

ついにスタートしたNHKオンデマンドのPC版を試す(2008年12月)

山崎 :そうですね。月額の「見放題パック」ってのが用意されてました。

西田 :あれもまた、Windowsメディアプレイヤーの互換性問題などで初期が大変で、FlashVideoか何かに切り替わっていって…… みたいな流れでしたよね。

今や、NHK+で普通に観られるようになったけれど、10年かかったわけですよね。10年の間、ずっと「NHKが配信するのは民業圧迫だ」と言い続けたわけですよ。

山崎 :まだ言ってる人もいますけど(笑)

西田 :2008年とか2009年くらいに各社がきちんと自社配信するようになっていれば、世の中だいぶ違うようになっていたんじゃないかなぁ。地デジも控えてたし、やりたくなかったんでしょうけど。

臼田 :権利処理が大変だということもありましたね。2015年にNetflixが来て、ある程度ネットの契約の土壌みたいなものができてきたから、他の配信サービスも権利処理がしやすくなった、という話もありました。2016~18年頃には、民放テレビ局のサービス「TVer」「FOD」などが登場してますね。ABEMA(開局時はAbema TV)も2016年ですが、テレビ朝日色が薄かったので、一緒にするのは違うかもしれないですけど。

そういう意味では、HuluでSVODがカルチャーとして日本に定着して、Netflixの上陸で、そのインパクトと同時に、供給者側の体制にも変化が生じたという印象があります。

Netflix日本上陸

Netflix日本上陸。「課題は認知度。1年目は日本を学ぶ」(2015年9月)

西田 :ですね。Netflixがユーザーに対してインパクトを与えたのは本当に最近。多分、「全裸監督」(2019年)あたりからで。それより前にインパクトを受けていたのは、権利側だと思うんですよね。権利側に対して、「あ、こういう風なところが来て、こういう風に取って、こんな風にお金が回るんだ」というのが、Netflixが来てから回り始めて、みんなの認識が変わっていったというところがあると思うんですよね。アニメはその前から知ってたと思うんですけど。

臼田 :なので、アニメは多分少し先を行っていたというか、世界展開が早かった。

西田 :アニメは2000年代の前半辺りからGYAO! やニコ動などで公式配信やってましたもんね。

山崎 :やってましたね。そこはもう下地はできてたという感じですよね。

西田 :そこを見て追っかけて、みたいなパターンなんだろうと。そこを考えても、テレビ放送というのが最後にAVの主軸にあったのって、2011年のアナログ停波の頃ですかね?

臼田 :アナログ停波は2011年7月でしたね。東日本大震災で遅れたりもしましたね。

山崎 :東北だけ停波を延期しましたね。

地上アナログテレビ放送が本日終了(2011年7月)

岩手、宮城、福島の3県でアナログ停波を延期(2011年4月)

臼田 :そういう意味でも、エンタメに対して震災というものは影響があったかなという印象がありますね。2000年代と2010年代の違いにおいて。

西田 :ここで話すまで震災の影響ってそこまで考えていなかったですが、言われてみると説得力があって。変な話ですけど、テレビとケータイ/スマホの画面って、2010年代以前は“別のもの”だと思ってたじゃないですか。ワンセグは観られたけども。

震災のときは、ワンセグもみんなで観てたし、ネットで無料配信されるニュースも観るようになって、「この小さい画面て、フラットパネルのテレビと一緒じゃん」という感覚をテクノロジーが分からない人でも体感的に持つようになったのかなと。

今はテレビの放送をスマホで観られないのが不自然に感じてTVerなどを使ったりしてるわけですよね。

臼田 :震災直後にNHKアカウントがUstreamで再配信したとかで話題になったじゃないですか。そこで、「公共性ってこういうものなんだ」という話が出て、その辺りから放送局などもネットへの向き合い方が変わった印象があるんですよね。

NHK総合のライブストリーム視聴数は約3,200万回に(2011年3月)

西田 :それは多分、1つありますよね。

ドラマとかアニメみたいな権利コンテンツの違法配信は嫌だったんだろうけど、海の向こうでは海賊版にファンサブ付けてたクランチロールが公式化して、YouTubeも公式化してみたいな流れが2010年前後にあって。

日本では、震災のときに「リアルタイムのニュースを、テレビと同じようにスマホやPCでも得られる」ということが「公共性」という認識になった。そこで、「普通のコンテンツも同じように観られないのはおかしい」という認識になっていったんだと思います。それでもやっぱり10年かかってるんですね。それが当たり前になるまで。

でも、テレビが要らなくなったというわけではなくて。コンテンツはテレビで観るじゃないですか。IIJが昨年末のトラフィックを出していて、年末のネットトラフィックが減ったんですって。何故かというとみんなテレビを観ていて、紅白で嵐が出たときにめちゃくちゃトラフィックが減ってたみたいです(笑)

コンテンツを生み出す場所とか、みんなが一緒に観る場所としてのテレビというものの価値は変わってないんだけど、「テレビでしか観られないのはどう?」ということになったのかな、と思いますね。

放送と配信ってそんなに別れてなくて、お互いに影響し合いながらここまで来たんだなという気がします。

臼田 :とくにこの10年は割と(配信と放送が)お互いが近づく流れが確実にありましたね。

ABEMAの登場とスポーツで普及したライブ配信

――2016年にAbema TV(現 ABEMA)が登場。独自のコンテンツとアプリ開発会社ならではのUIなどもあり、ネット上で独自のライブ配信が普及し始めた。DAZNのスタート、Amazon PrimeチャンネルにJスポーツが登場など、地上波ではなかなか観られないマイナースポーツからメジャーなスポーツも配信することで、その存在感を発揮してきた。

臼田 :1つその流れで象徴的なのは、ライブですよね。ABEMAの登場とか、あるいはDAZNのようなスポーツだったり、AmazonのPrimeチャンネルだったり。

まず、ABEMAは大きかったですね。2016年4月に登場して今年で5年になりますね。海外から輸入するモデルじゃなくて、「マスメディアを作ろう」という目標で始まったので、毛色はほかと少し違いますが、バラエティあり、ニュース、映画、アニメ/独自アニメもあり、その他マイナースポーツもありと、色々なところから始まってますね。

「ライブ」という部分は初期から修正ありつつも、ニュースやスポーツなどで引き続き強化している部分なので、ほかの配信サービスとの違いも大きいと思います。

スマホ上に“マスメディア”を。藤田社長が語る「AbemaTV」の狙い(2016年3月)

西田 :ですね。“何かあったときにABEMAを開く”という体験というか、習慣を大きく作りましたよね。今は色んなところが緊急会見の配信をやっているのだけど、「プライマリーに開くのはどこかというと、ABEMA」というブランディングが定着できた。これはワールドワイドに見ても、あまりないことだと思うので、すごいなと。

臼田 :最近ちょっと普通の配信サービスっぽくなってきましたね。ライブ感が少しなくなって、ビデオも統合して特徴が見えにくくなってきているようにも感じますが。

山崎 :少し前までは“亀田興毅に勝ったら1000万円”みたいな尖った番組でバズるみたいな形が多かったですけどね。

臼田 :それを辞めると去年のインタビューで言っていたはずなので(笑) 「トンガリスト会議」を辞めたんだっけ(笑)

AbemaTVから「ABEMA」へ。藤田晋社長に聞く4年間の変化とこれから(2020年4月)

西田 :「超面白い会議」に変えたんですよね(笑)

臼田 :2016年の開始時は、尖ってライブ感があるものを強く出していたけど、今は、普通に面白いを目指すなかで、テレビ的なライブだけでなく、見逃しや有料プランなども強化していくというのは面白いですよね。

でも(有料の)ABEMAプレミアム、まわりで入ってる人見たことないんですけど。

山崎 :あんまり見ないですね。

西田 :若者なんでしょうね、多分。

山崎 :「高校生にあの恋愛ドラマが人気だ」とか言われても実感もわかない(笑)

西田 :でも、ちょうど去年の春のインタビューが出た後に、たまたま会った人が「確かにうちの子ども、あの恋愛バラエティばっかり観てるんですよね」って取材先で言われたので、そういうもんなんだろうなと。

実は2015年にABEMAの話を聞いたときに、全然評価しなかったんですよね。多分自分がサイバーエージェントを侮ってたんだと思うんですけど。

スタートする前。ニュースとしてはテレ朝と組んでなんかやるって言ってたじゃないですか。でも、全然大きく見てなくて。本に書くときも「CA(サイバーエージェント)でしょ?」ってくらいのイメージだった。

そういう意味では、あのスタート直前直後のタイミングで藤田さんが取材を受けてくれたことというのは、大きかった。あとで藤田さんに言われたのが、「1回目は喋りすぎた」って(笑)。

臼田 :でも「マスメディアを作る」という宣言は、すごく良かったですね。「これまでのVODサービス」との違いを最初に示していて。

あと、アプリやUXをきちんと作れる会社というのが良かったですよね。日本の配信サービスの弱点ってそういうところでしたし。iOS/Androidのルールをちゃんと押さえて、使いやすいアプリが最初から出てきた。スワイプでチャンネル変更とか、スマホで観て操作している時の「分かってる感」が、登場当初からありましたよね。ゲームもアプリもサービスも作ってる会社の強さですよね。

西田 :これはもう、ゲームメーカーとかも含めて全部そうですもんね。最近になってもまだ改善されていない企業の方が多いですし。

山崎 :ありますよね(笑)

西田 :そういえばNHKプラスのアプリも、UIがABEMAに似ていて、良くできていました。

NHKプラス

西田 :一方で、AV Watchの読者の方でも、ビジネス目線で見ている人と、AVファン目線で見ている人の見方で、この辺は評価が違う気がします。

臼田 :そうですね。ABEMAは、Fire TVアプリとかも出た当初から出来が良かったですよね。配信サービスを上手くテレビのUIに融合させるというか。日本におけるこの手のサービスの雛形を作ってくれた感があります。

西田 :あれはもう藤田さん自身が、Fire TVで観せることとか、Apple TVで観せることというのがマストだということをきちんと認識していたことが大きかったと思うんですよね。「なんか出てたから対応しなきゃ」じゃなくて、「ああいうのがあるから一般の家庭に拡がるんだ」というのを正しく認識してたというところの強みだと思います。

臼田 :10年前と違うのは、Apple TV、Chromecast、Fire TVとかがあって、テレビも全部配信対応しているのが当たり前というのが、サービスを作り込むのにあたって、全然違うところですよね。テレビが変わったというのと、コンパニオンデバイスが変わったというのと。

西田 :結局テレビ自身が進化すべきなのか、それともテレビにくっつけるものが進化すべきなのか、という課題ってあると思うんですよ。テレビって、やっぱり買い替えにくいので。テレビはそのままで、Fire TV Stickなどのドングルでカバーするっていう方が本命なんじゃないかっていうのは、確かにそうなのかもという気がしますよね。

2020年春から、Fire TV StickがAmazonでずっと品切れしていたじゃないですか。それくらいあの安いもので、観られるものが増えるということに対する認知度が急激に変わったのかなと。

臼田 :もうTVにはアンテナだけじゃないんだよ、と。「WOWOWオンデマンド」とか、アンテナ建てなくても見れる環境もできてきましたが。

西田 :スカパー! もそうなんですけど。やってるチャンネルだとか、コンテンツを上げる能力は高いんだけど…… 入り口は「アンテナ建てる」って時点では厳しいよねと。

臼田 :あとは、ライブ配信が色んなストリーミングデバイスで観られるようになった。Prime VideoチャンネルでJスポーツ観られるとか、プロレスも色々観らるとか。とくにスポーツですかね。自社で作って、プラットフォームに流して、ついでに放送のチャンネルにも流すみたいな感じにはなってきていますね。

これって2019年くらい? たしかPrimeチャンネルがスタートしてJスポが入ってたのがデカいなぁと思ってましたけど。

西田 :多分、DAZNが立ち上がっただけではダメで。

臼田 :DAZNを忘れちゃだめですね、2016年スタートですね。

月額1,750円のスポーツライブ配信「DAZN」開始(2016年8月)

西田 :あるとすれば、DAZNがプロ野球を獲ったときですよね。サッカーだけはでは少し……代表戦以外を見る人は少しマニアックな世界なので。野球も少しマニアックになってきたかもしれないけど、とはいえ、界隈的には日本で一番大きいスポーツなので。

山崎 :確かにドラマとか映画よりも、むしろスポーツの方が一般の人への“配信のインパクト”って意味では強かったかもしれないですね。

一般の人が配信を意識し始めたのって西田さんが言ってた通り、全裸監督くらいからですよね。配信コンテンツが一般の人に広まったというか、芸能人がテレビで配信番組の話をし始めたのもだいたいそのぐらいですよね。

西田 :そうですね。

臼田 :そういえば2015年、Netflixが最初に上陸したときの反応って「第1弾がテラハかよ!」みたいな感じでしたよね(笑)

山崎 :そうですそうです、そんな感じがありました(笑)

臼田 :今考えると正しい選択と感じますが、「フジと組んだからってテラハかよ」みたいな反応が結構ありましたし、最初の作品ラインナップは正直インパクトなかったですよね。けれど、徐々に伸ばして、会員数は去年だけで200万人増加とか、そんな事になりましたよね。

西田 :2019年までで300万人だったのが、2020年で500万人になった。

Netflix、日本で有料会員数500万人突破(2020年9月)

臼田 :なので、伸びが桁違いなんですよね、ここにきて。そういう意味では、一般化というのは明らかにこの1、2年で大きく認知が上がってる。西田さんがよく言ってた「500万の壁」(有料コンテンツサービスで500万を超えるものが少ない)ですね。

西田 :ええ、「500万の壁」。

臼田 :日本のコンテンツサービスの壁を越えてきましたね。

西田 :Prime Videoの方は2016年か2017年のタイミングで500万人超えてるんですよね。契約だけで言えば、dTVが2015年の段階で500万を超えてて、でもこれって所謂「レ点営業」(スマホ契約時にオプションサービスと一緒に契約させる営業)ですよね。その当時、実際の利用率って20%切ってたんですよ。

山崎 :あ、そうなんですか。ユーザーとしては100万とかですかね

西田 :だから実際のインパクトって低くて。AmazonもPrime会員の中でのPrime Videoを使っている人が100%というわけではないけれど、それでも相当の比率はいるので。今となってみれば、普通の人にとっての「映像を見放題にする」というのはAmazon Prime VideoかNetflixという形に落ち着いたんだと思うんですよね。

結局海外2社かよって思っている人もいるかもしれないけど、それは、アプリの出来がこの2社が抜けているんだからしょうがないだろと(笑)

臼田 :ただ、最近「○○のファンです」みたいな人達ってFODやHuluとか、Paraviとか毎月乗り換えたりとかしている人はけっこういるみたいで。ある意味、昔と比べて入会解約がめちゃくちゃ楽になったところもありますね。

西田 :各社スタートから縛りを一切やらなかったじゃないですか。そこが大きいのだと思います。

山崎 :もしかしたら、録画文化がなくなった代わりに、ガンガン配信サービスを乗り換えていくみたいな文化が、これからできるのかもしれないですね。

高解像度化の次は体験が変わる? 今後のAV業界を占う

――激動の20年。その先にあるものは!? 4K HDRの次に訪れるもの。配信時代に、AV機器がもたらしてくれる“体験の進化”を予想。

山崎 :そしてAV業界の今後を占う……という話へ。

臼田 :まとめっぽくいくと、テレビ局はこの10年で明らかに変わってきて、各自がやっているサービスも良くなって、ドラマのスピンアウト配信とかは、本当に当たり前になってきている。ソーシャルを使うのは当たり前、スピンアウトも当たり前。なんならスピンアウトにちょっと力入れ過ぎてて、テレビで本編だけ観ている人からクレームみたいなのも当たり前みたいな(笑) そんな流れが来ている気がするんですが。ある程度ネットを使ったテレビ局のビジネスモデル変革は、この10年かなり進んだ印象があります。

西田 :そうだと思います、まさに。テレビって勝手に観てくれるものだったのが、勝手に観てもらえないものになったわけじゃないですか。そうすると、いつでも観られるものを置いておいて、ファンになった結果、一番早く観たいからテレビに戻ってきてもらうみたいな構造が定着したんだと思います。多分、この5年のことだと思うんですけど。それは良いことですよね。アメリカみたいに有料チャンネルが基本で、「有料チャンネルの横滑りで配信」というのとはまた違うとして、そこが成立しているのかなと。

一方で、アニメみたいにテレビで観ている人がどんどん減って、配信で観ている人が増えるみたいな流れもあるはあるんですけど。結局コンテンツを作っている人に金が入るんだったらどっちでもいいっていうのが、アニメは先にそっちへ行っちゃっているので。それで良いんでしょうね。

ドラマはテレビ局がきちんと出資して、テレビのチャンネルに流すことを前提に作っているので、出資が配信側じゃなければ配信ファーストというようにはいかないですけど。

臼田 :これからどうなるみたいな話ですよね。

西田 :本当にAVファンとして考えるのならば、コンテンツのクオリティが次にどっちに行くのかというのが気になるところで、多分8KでHDRでという方には行かないんだろうなという気がするんですよね。

8Kコンテンツ重要だけど、8Kのパネルが当たり前になるとは思いづらいんですよね。異論がある人もいるんだろうけど。少なくとも、パーソナルデバイスのパネルが8Kみたいな高解像度には多分ならないでしょう。

8Kの価値がわかる大きさのテレビというのが、すごく普及することもないし、40型が8Kになっても大して嬉しくないじゃないですか。そうすると、我々が観てるのは結局4K HDRになるんじゃないかなと。

山崎 :それは確かにありそうですね。

西田 :そうすると、その先の音をどうするか。Atmosの登場も、大きかったと思っていて、登場当初は“家の天井にスピーカーを設置して”みたいな話で、それはどうなのかなって感じがしたんですけど、それがヘッドフォンでもある程度体感できるようになってきて、最近ではAirPods Proとか、AirPods MAXで空間オーディオも楽しめるようになった。特にAirPods MAXで聴く空間オーディオのクオリティが高いので、皆があのへんで聴くようになると、それはそれで違うのかなと。ソニーの360RA(360 Reality Audio)もそうですけど。

オブジェクトオーディオベースの体験の進化というのは、実はHDRと同じくらいには価値があるのかなと。本当のAVファン以外で、家に沢山スピーカーを設置している人っていないじゃないですか。サウンドバーですら持っていない人が多いですよね。そうすると、ヘッドフォンでの体験の向上から、その次に2chでの立体オーディオみたいな方向で体験の進化が来るのかなという気は若干します。

PS5もそうじゃないですか。あれも立体音響結構すごくて。コントローラーにヘッドフォンを繋げば体験できちゃうんで、良いと思うんですよ。Atmosにきちんと対応してないのはどうかと思いますけど。そこは早くアップデートで対応してもらいたい。

臼田 :わりと“ゲームの流れからのエンターテインメントの変化”という感じで、オーディオの変化もあるのかなと思いますね。

西田 :テクノロジーとして、やっぱり空間オーディオって元々ゲームで作られたテクノロジーですよね。その延長線上でいかにオーサリングして、みんなに楽しんでもらうかというところは来るかなと。

で、バイノーラル録音みたいな方向性もあるとは思うんですけど、やっぱりバイノーラル録音って収録が“点”じゃないですか。ヘッドフォンで聴くのであれば、空間オーディオとバイノーラル録音で、位置が変わらないならあまり体験も変わらないと思うんですけど、多分これから自分の位置が変わるだとか、演奏している人の位置とか、歌っている人の位置が変わるだとか、そういうのも増えていくと思うので、そこがこれからの伸びしろなのかなと。

臼田 :そうですね。確かに“画質が上がる”よりも、体験価値が上がる余地がありそうな気がしますね。

西田 :今日は話してませんが、ハイレゾがあるじゃないですか。ハイレゾも大切なんだけど、伸びきれなかったものの1つだと思っていて、これも「みんな85%で満足する理論」だと思うんですよ。

山崎 :まさにそうですね。

西田 :しかも今はみんなBluetoothのヘッドフォン使うようになったわけじゃないですか。そうすると、ハイレゾ価値ってたしかに大切なんだけど、金科玉条の如くハイレゾで原音忠実で、トールボーイのスピーカー立てて、という話でもないだろという。

山崎 :ないですね。

臼田 :むしろ空間オーディオ的な音源の方がハイレゾの魅力が出るかもしれません。

西田 :フォーマットとしてより新しいもので、きちんとしたハイレゾの体験価値みたいなのを伸ばすという意味合いでも、空間オーディオっていうのは、面白いのかなとは思っています。Dolby Atmosもそうじゃないですか。初期のAtmosのタイトルと、今のAtmosタイトルだとやっぱりクオリティが違ったりするので、そういうところも含めて、ちょっと期待はしてますよね。

そういえば、4K HDRでリマスターされた「ガメラ」、あれAtmosで、劇場で観たんですけど、めちゃめちゃクオリティ高いんですよ。そういうパターンもあるんだなって。で、劇場が新作を上映しづらくなって、リバイバル作品が多くなって、ドルビーがそこに上手いこと手を入れて、4K HDRでDolby Vision+Atmosリマスターしたコンテンツを上映しているじゃないですか。ああいうのもアリなんだなと。

あれを理想的に家で体験するよりも、本当は劇場で体験したい。“低コストでシンプルに家でサラウンドが楽しめるヘッドフォン“と“一番良い体験ができる劇場”っていう、極端に分かれていくのかなという気がします。

臼田 :この20年の劇場の進化というのも、実は重要かもしれませんね。

西田 :昔は映画館、結構厳しかったですよね。狭いとか汚いとか。隣の席が近いとか。

山崎 :IMAX上映が人気になって、あのクオリティを体験して、皆がショックを受けたというのは大きかったのかもしれないですね。劇場でのハイクオリティ体験にお金を払うみたいな。

臼田 :そんな劇場での特別な体験価値が、家で観る映画のクオリティを引き上げる余地を与えるというか。

山崎 :そうですね。お手本になりますからね。

臼田 :「アレを再現したい!」という気持ちがあると、新しいものを求めてくる気持ちが湧いてくるかなと。

西田 :もう一回劇場にみんなが足を運べる時期がくると、その間に溜めておいた作品がきちんと世の中に出て、「じゃあ自宅の機器をどうしよう」という話になって、商品がたくさん出て、AV Watchの読者が増えるといいなっていう話ですね(笑)

AV Watch編集部