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買って間違いなし! '20年はアンプ&スピーカー豊作の1年だった。山之内×本田対談【'20冬 音編】
2020年12月25日 08:45
オーディオ・ビジュアル評論家の山之内正氏と本田雅一氏の両名が、話題の新製品や業界動向を独自の視点で語る半期に1度の恒例対談。全2回を通じて、下半期に登場した新製品と2020年の総括をお届けする。
2回目は「音編」と題し、各社からあいついで注目製品が発表されたプリメインアンプやスピーカー、ハイレゾ配信の新しい試みなどを取り上げる。
在宅でオーディオを愉しむユーザーが増加。コロナでJELCO休業も
本田:在宅時間が増えたことで、ノイズキャンセリングヘッドフォンなどパーソナルオーディオ製品の売り上げが増えてますね。自宅で過ごす時、生活音を遮断して仕事をしたいというニーズもあるでしょう。同じことはテレビなどにも言えますが、ホームオーディオはどうですか?
山之内:ほぼ例外なくホームオーディオ製品は好調と聞いてます。ステイホームで音楽を聴く時間が長くなり、オーディオ製品の需要が増えているのでしょう。新しく買うだけでなく、手持ちの製品を修理に出す人も増えているそうです。
本田:テレビで在宅需要といっても、五輪を見込んでいた部分をなんとか埋めた感があるけど、オーディオは期待値がなかった分だけ、まるまる在宅需要が伸びた印象ですね。一方で、低価格で高音質なアナログプレーヤー向けにトーンアームを供給していた老舗メーカーJELCOが、コロナ自粛の中で静かに業務を停止しました。数社が採用していたはずですが、突然のことで今後の製品供給への影響も考えられます。採用メーカーの動向はご存知ですか?
山之内:JELCOのトーンアームを使っているレコードプレーヤーは多いので、これから影響が出てくるでしょうね。リンの「Majik LP12」はClearaudio製のアームに変更して、いち早く新世代機を発売しました。春に軸受けを最新世代のKarousel(カルーセル)に変えたのと今回の新トーンアームの相乗効果で明らかに音は良くなりました。コロナ禍で部品調達が滞った例は他にもいくつかありましたが、少しずつ元に戻りつつありますね。
山之内:いま懸念されているのは、旭化成エレクトロニクスの半導体製造工場で起きた火災の影響です。AKMブランドのDACなどオーディオ機器に必須のデバイスの出荷が止まって、一部メーカーの製品は設計変更を余儀なくされるなど、深刻な影響が出始めています。特にDACは単純に他のチップで置き換えるのは難しいので、時間がかかる可能性がありますね。
本田:JELCOのトーンアームは品質に割に納入価格が安く、業務停止は残念でしたね。日本の採用メーカーもいくつかありますから、修理用部品や代替製品を含めて出口が早く見つかって欲しいものです。
デノン、マランツ、アキュフェーズなど'20年はアンプ豊作の年だった
山之内:プリメインアンプは2020年の注目分野でした。30万円前後の中級機から100万円近い高級機まで、強力な製品が目白押しで、例年より機種数が多かった。
デノンが創立110年を記念して発売した「PMA-A110」、16年ぶりにデザインを一新したマランツの「MODEL 30」、アキュフェーズの入門機に相当する「E-280」など、ミドルレンジは特に充実していて、どれを選んでも5〜10年は安心して使える実力があります。
山之内:ヤマハは6年ぶりに20万円台から60万円台までプリメインアンプを一気に3機種も投入して、オーディオメーカーとしての存在感を示しました。それから、海外メーカーではATOLL「IN50/IN100/IN200」の“Signatureバージョン”の音がかなり良くなりましたね。
本田:伝統的なオーディオコンポーネントが、コロナ禍の中にあっても順調な一方で、そうしたオーディオとは全く別のオーディオトレンドが生まれてきました。
“コンピューテショナルオーディオ”という言葉を使う製品ですね。アップルの「HomePod mini」がその代表ですが、プリメインアンプではTechnics「SU-R1000」のフォノイコライザーもその一種と言えるかもしれません。まさかアナログディスクレコードに測定信号を入れてカートリッジのクロストーク補正をするとは思いませんでした。
アナログディスクは音質は良いけど、ステレオのセパレーションは悪い。それが当たり前で受け入れられていたけれど、それが劇的に改善されると、ここまで音場表現が豊かになるのかと驚きました。これはみんなに体験して欲しい。この機能を入れた単体のフォノイコライザーも出してほしいですね。
山之内:SU-R1000のフォノイコライザーはアナログとデジタルを組み合わせた構成で、RIAA以外のイコライザーカーブを6種類も再現するなど、マニアックな機能も積んでいます。デジタルでなければできない技術でレコードの音を良くする手法はLINNなどに先例があるけど、カートリッジのクロストークまでメスを入れたのは画期的です(SU-R1000は電源部制御見直しのため2021年2月中旬に発売延期)。
山之内:ハイエンドではテクニクス以外にもラックスマンの「L-595A Limited」、オクターブ「V70 Class A」など、他の価格帯では実現できないような強いこだわりの製品も登場し、オーディオ全盛期を体験したベテランのオーディオ愛好家や真空管アンプのファンから注目を集めています。
L-595A Limitedの源流は1989年に発売された純A級アンプのヒットモデル「L-570」で、今回は純A級駆動の音の良さだけでなく、立体形状の角型スイッチなど、基本的なデザインも再現していて、当時を思い出します。V70 ClassAはオクターブのアンドレアス・ホフマンが最近になって力を入れているA級回路をプッシュプルで実現したもので、他のアンプでは聴けないエモーショナルな音を奏でます。ハイエンド機の方が回路やデザインのバリエーションが広がるのはオーディオの面白いところですね。
山之内:プリメインアンプの普及価格帯で新製品が少ないのが残念だけど、マランツの「PM6007」は6万円台半ばとは思えない実力機で、単体のプリメインアンプを初めて買う音楽ファンには強くお薦めします。
山之内:プリメインアンプと同じくらい省スペースで使えるセパレートアンプがNuPrimeから「AMG PRA」「AMG STA」として登場しました。コンパクトなハーフサイズだけど、このブランドとしては珍しくアナログ入力専用設計で、パーツや回路設計にかなりこだわった本格派です。プリとパワーで40万円ほどなので、プリメインアンプを買おうとしている場合も候補に入りと思います。
山之内:ネットワークプレーヤーとプリメインアンプを一体化したリンの「Majik DSM/4」は今年後半の最重要モデルの一つです。「Selekt DSM」と共通のすっきりとしたデザインに変わり、クラスDアンプを積むなど中身もまったく新しくなりました。アナログとデジタルのハイブリッド構成を採用したフォノイコライザーもよくできているので、MM型カートリッジを使っているならスピーカーをつなぐだけで良質レコード再生システムが組めます。
本田:Majik DSM/4は、実質的には機能を限定したSelekt DSMですね。電源周りもアンプ周りも共通性が高く、コンポーネントの入れ替えはできませんが、パフォーマンスに対してかなりお買い得という印象です。今後はこのデジタルアンプの採用をどこまで広げるかですね。LINNは一定周期でハイエンドのKlimaxシリーズをアップデートしていますが、来年はまさにアップデートサイクルに相当するはず。Klimaxが変わるとAkurateシリーズにも波及しますから、Majik DSM/4は今後の同社製品の行く末を暗示しているかもしれません。
本格的なアクティブ型から手頃なブックシェルフまで、スピーカーも良作揃い
山之内:スピーカーも完成度の高い製品がたくさん登場しました。AIRPULSEは低価格の「A80」に続いて上位の「A300 Pro」を導入。スタジオなどプロ用途でも使える本格仕様で、低音の質感と量感を両立させたいならこちらを選ぶのもありです。aptX HD対応のBluetoothはワイヤレス接続の常識をくつがえすくらい良い音が出てきます。
山之内:アンプ内蔵型では、KEF「LS50 Wireless II」もぜひ聴いていほしいスピーカーの一つです。パッシブ型のLS50が後継のLS50 Metaに代わりました。そちらもとても良いスピーカーだけど、そこに入っているメタマテリアル技術をそのままワイヤレスモデルにも載せたのがLS50 Wireless IIです。
厚さ1センチくらいの円盤状の吸音体のなかに迷路のような構造を作り、600Hz以上の高音成分を99%吸収してしまう。これをユニットの裏に配置すると、チューブ状の吸音体と同等以上の効果を発揮するということで、実際にとても音が素直になりました。旧モデルでややエッジが立ち気味だった音域が自然になっています。アンプ内蔵スピーカーというと機能性や利便性ばかり目が行きがちだけど、じっくり音を追い込んだアクティブスピーカーとして推薦します。
山之内:エントリーの価格帯でB&Wの600シリーズがリニューアルしたことも重要なニュースですね。600シリーズ25周年と銘打った今回のシリーズ名は「600 アニバーサリーエディション」ですが、限定モデルではありません。ネットワーク回路のコンデンサーを変えるなど地味な改良とはいえ、従来モデルよりも表情が豊かになるなど、音は予想外に大きく変わっています。
Monitor Audioもエントリーグレードのブロンズシリーズを一新しました。このメーカーはモデルチェンジの期間が短いこともあって、同シリーズは今回が6世代め。ブックシェルフ型の「Monitor 50」「Monitor 100」ならペアで10万円を切るので、ハイファイグレードとしてはかなり敷居が低く、使いやすいスピーカーです。
山之内:これらのシリーズと近い価格でソナス・ファベールのスピーカーが買えるようになったことも歓迎したいニュースです。「Lumina」という新シリーズで、フロア型のLumina IIIとブックシェルフ型のLumina Iだけでなく、センタースピーカーもあります。Lumina IIIとLumina Iの音を実際に聴きましたが、エントリーグレードでもソナス・ファベールらしい艶やかさと明るさがあって、特にヴォーカルは見事なほどよく歌います。
本田:ソネットをシンプルにしたようなデザインですよね。サイズはMinima Amator IIくらいですかね。CAD技術やドライバの生産技術向上で、小さなスピーカーでも高い特性を得られる用になってきました。そうした意味では、小型スピーカーの価値が高まってきていると言えそうですね。
山之内:Lumina IはMinimaよりもひとまわり小さいです。ソネットの半額くらいで買えちゃうので、人気が出そうですね。最近聴いたなかではその他にもクリプトンの「KX-1.5」とか、パラダイムの「PREMIER」シリーズなど、価格対性能比の良いスピーカーがいくつか印象に残っています。
山之内:B&Wですが、2020年10月の時点で正式にサウンド・ユナイテッドの傘下に入って、安定した開発体制が保証される形になったのは良いことだと思います。アンプのクラッセも同じグループですね。カナダで設計し、同グループのデノンやマランツと同じく日本の白河工場で作るそうです。違うブランドがタッグを組み、しかもブランドの個性を確保できるのならそれに越したことはない。成功例になるといいと思います。デノンやマランツのネットワークプレーヤーがHEOSのネットワークモジュールを共有している例などはユーザーメリットにもつながるでしょう。
本田:ソリッドな解像度重視の音は技術の進歩とともに入手しやすくなってきていますが、一方で手頃な価格でリラックスできる音を出すシステムが欲しいなと最近思うのですよ。決して低いレベルの音というわけではないのだけど、もっと緩くこ心地よく居眠りできる感じの音。オーケストラだとか、ガチガチのロックだとかは向いてないけど、ボーカルだけならいいとか。例えば、小型のスピーカーで鳴らすなら、そんなに広帯域ではない。昔ならシングルの真空管アンプを置いて、多少倍音の歪みがあった方が心地良いなという聴き方もあったけど。最近そうゆう感じで楽しめるアンプに出会えていないなと。
山之内:選択肢としては、やはり今でも真空管アンプが候補に上がるでしょう。トライオードのA級シングルアンプとか、ラックスマンのネオクラシコなら、価格的にも手が届くという人が多いと思います。
本田:その辺りの世界観、知らない若い世代も多いと思うんですよね。蔵前にある日本茶のバーにたまたま入ったら、20代の男の子が雰囲気のいいお茶のスタンドをやっていたんですよ。しかも、アナログのターンテーブルで音楽をかけている。ところが、鳴ってるのは、おそらく20年近く前のボーズのパソコン用アクティブスピーカー。せっかくの緻密に作り込まれた雰囲気台無しだなと。
で、そういえば昔、遊びで作ったミニバックロードホーンのスピーカー、ラジオ会館で集めた音質パーツや手巻きトランスに換装したシングルの真空管アンプがあったことを思い出したんですよ。今、レストアしてるところなんだけど、スペック的には優れたモノではないけれど、聴くとなぜだか心地いい。こういう、最終的に心に届く音、音楽って重要だなと再認識しました。
山之内:今年はロックやポップスのアーティストも作品が癒やし系になっていたりして、聴くシステムにもその潮流が広がるかもしれませんね。アコースティックな音の良さを再認識するという流れです。あえて真空管でボーカルをゆったり聴くとか、解像度はそこそこでいいから、柔らかさとか潤いを求める。
本田:ただそこで、真空管に戻らなければ、その世界観を得られないのかな? と言いう微妙な感じもありますね。
山之内:戻るというより、真空管の良い面を味わい直すととらえてもいいのでは? ドイツのオクターブのように真空管でも高解像度で情報量豊かなアンプもあるので、真空管だから緩い音が出るということはもちろんないけれど。
本田:緩さが生まれるのはあくまでシングルだからで、プッシュプルならむしろトランジスタより解像度も高くてシャープですよね。真空管のプッシュプルはスピード感たっぷりで解像度が高いものだけど、真空管というデバイスが古いからみんな予断を持ってしまう。デジタルアンプ化が進むオーディオ業界だけど、真空管のシングル、プッシュプル、いずれも後世の人たちに知って欲しいなぁ。
アップルのスマートスピーカー「HomePod mini」、初のノイキャン「AirPods Max」
本田:テック業界だと、“コンピューテショナルオーディオ”が脚光を浴びています。個人的に驚いたのが、10,800円のアップルの「既報HomePod mini」でした。リンゴみたいなデザインで、音は決して良くない。でも、あれを鳴らしているとみな嫌な顔をしないんです。情報量が突出しているわけでもなく、かといって欠落しているわけでもない。音楽的に正しい表現してるかというと、そうでもない。ステレオにしたところで無指向性だから、正確な音像表現になるわけでもない。でも部屋の中はそれなりに音楽で満たされるんです。
不思議に思って、どんなことをしているのかエンジニアに聞いたら、アップルミュージックの数十万だか、数百万だかの音楽をピックアップして、各曲のパート毎の特徴とか、周波数特性とか全部調べて、ある特定の音が入ってきたとき、その音をどうゆうふうに再生すれば、内蔵するドライバー破綻しないかを機械学習させたそうです。それをもとにリアルタイムに補正をかけながら、リアルタイムにDレンジも圧縮する。
ピュアオーディオとは真逆の方向だけど、再生させると、1万円しかしないスピーカーから嫌な音を排除できる。で、最終的にはいい音になったと。いろいろなオーディオファンの方にも聞いてもらったけど、みな心地良いといいます。そうゆうモノが出てきたと言うことに対して、オーディオ製品の評価の仕方もいろいろな軸で考えていくべきなのかなと考えさせられました。
山之内:アップルほど踏み込んではいないけど、いろいろな聴き方ができるという点ではテクニクスの「OTTAVA f SC-C70Mk2」もよくできていました。ネットワーク音源だけでなくCD再生もできる一体型で価格はちょうど10万円。歴代モデルのなかでこれが一番音が良く、マイクでテスト信号を測定して補正する機能の完成度も高い。どこに置いても聴き疲れしない素直な音が出るし、ある程度集中して音楽を聴きたいときにもちゃんと聴ける。これはヒット商品になると思いますよ。
本田:オフセンターでもそこそこ聴けますよね。テクニクスは、かなり原音原理主義的な印象を持っていたのだけど、OTTAVAに関してはうまく作り込んでいて、きちんと“音楽”を意識した商品づくりをしているのだなと。
本田:ところで、乳幼児の聴覚特性を検査する技術を利用したイヤフォン「NuraLoop」を聞いてみたら意外と良くて驚きました。価格帯的に情報量は多くありませんが、音場の再現は得意。脳内定位ではあるけれども、全部フラットで音場は広く、奥行きもある。これでハードウェアとしてもこなれてくれば、時代を変えて行くのではないかという潜在力を感じました。
ヘッドフォンではアップルの「AirPods Max」。あれは聴覚特性を予め基準信号でピックアップするのではなくて、リアルタイムに聞きながら、耳の中の反響音をピックアップして補正する仕組みです。そうすると、ちょっとした装着のずれとか、髪の毛の具合とか、もしくはメガネの装着有無とか、補正してくれるみたい。こうゆう製品は今後増えるだろうし、ワイヤードとは違うポータブルオーディオの世界が広がりそうですね。ただ、ワイヤレスはバッテリー交換が心配だけど。
山之内:アップルのノイキャンは、ソニーの「WH-1000XM4」よりもかなり高いでしょう?
本田:定価だと1.5倍くらい。実売だと2倍近いかも。
山之内:そこまでのメリットがあるかどうか楽しみですね。
本田:おそらく、これをスタート地点に評価軸を変えたいのではないかと思います。HomePod miniとかもそうだけど、問題解決の手段として、半導体技術とソフトウェア技術を用いるのはアップルの得意とするところです。ピュアオーディオのメーカーは、少量生産でもいいから職人の手によってチューニングして良い音に追い込んでいく。アップルの場合は、というかAirPods Maxは、ドライバも金をかけていそうだけど、問題解決の手段として、半導体とソフトウェアを使って、5%のマニアではなく、大多数の人に比較的リーズナブルに届けるモノに将来的にしていこうとする。こうなると、競争できるメーカがいなくなる。
数年前に発売した初代HomePodも4万円と高価でした。7つのビームスピーカーで位相干渉で指向性を持たせるものだった。あれも音が良い訳ではなかったけれど、あるとこにポンと置いておくと、自動的に適応して、どこで聞いても同じような感じで音が聞こえる製品だった。もっともっと簡単な方法で、演算能力だけで、10,800円で出したのが新しいHomePod miniです。今回のヘッドフォンのさらに先に、同じような感じのカジュアライズをしていくのだと思う。
山之内:いずれオーディオメーカーもそうした手法、ノウハウを自分たちで作り上げていく必要がありそうですね。ソニーの360 Reality Audioはサウンドバーでサービスエリアを広げたり、ヘッドフォンではパーソナライズした音場を提供して臨場感や立体感を高めている。いずれそうした技術はクルマや家庭で重要な役割を演じることになるでしょう。
本田:アップルのバーチャルサラウンドの技術は限られた環境でしか聞けないけれど、ものすごくちゃんと立体的に聞けます。今まで聴いたバーチャルサラウンドの中では一番まともでした。頭を動かすとちゃんと方向を認識するし、セリフの位置が変わらない。パーソナライズするものはビクターもやりましたね。今後オーディオメーカーどのように対応していくのか。各社開発しないといけなくなると思います。
見直され始めた配信の“音”。高音質化を目指し様々な実験が行なわれた
山之内:WOWOWとIIJがこの秋、音質を改善した映像ストリーミングの実証実験を行ないました(関連記事)。ステージでの演奏をリアルタイム配信する際に、MQAやAuro 3Dまたはハイレゾで伝送する試みです。映像ストリーミングは音質が話題になることは少なく、圧縮音声のまま進化しない。それをなんとか改善して、映像コンテンツの音をもっと良くしようというのが狙いです。映像との同期や再生環境など課題は多いですが、実証実験の映像と音声はまったく違和感がなくて、臨場感が際立っていました。
本田:NHKテクノロジーズの人と話していて。テレビの音声はいろいろと制約がある。ラウドネスで2重のコンプとか。放送とは別にハイブリットキャストでハイレゾを流して、再生側で同期させるとか、やってみたいなという話をしていたところです。
山之内:放送は再生環境にも課題が多いので、配信の方が現実的でしょうね。今回特に面白かったのはIIJとキングレコードの実験で、コルグの大石さんが開発した「Live Extreme」のシステムを使っていました(関連記事)。通常とは逆に音に映像を合わせる「オーディオ・ファースト」のコンセプトが新しい。スタジオの実演ではN響ホルン奏者の福川伸陽さんがホルン八重奏を披露しましたが、いまの環境では8人集まるのは良くないから、あらかじめ自分で他のパートを録音して、それを再生しながらソロパートを吹くという多重録音の手法です。ハイレゾで配信すると精妙なハーモニーが伝わり、聴き応えがありましたね。
本田:放送波フォーマットの問題がありますよね。あと、ラウドネス。あらかじめ収録していれば良いけど、ライブモノだと、攻めた設定で放送するのが難しい。あとは視聴しているシステムの問題、テレビで観ていることを想定するとある程度コンプレッションをかけないと、ピアニッシモが聞こえなかったりとか。
放送で音質を改善できればといいなと思ったエピソードがあります。知り合いにカラオケバトルで優勝するような人がいて。でも、放送よりも生の方が遙かに上手なんです。なぜ放送だと下手に聞こえるのか。むしろ放送の音だけを聴いたら、優勝しなかった方がもっと上手に聞こえたほど。で、局の人に聞いたら、コンプレッションが原因なのではないかと。
もしテレビ音声とは別にハイブリッドキャストなどを使ってできるのならば、面白いと思います。最近はテレビ番組もインタラクティブ性があって、視聴者が投票できる場合もある。でも、視聴者が聞いている音は生音とは別物なので、そうなると審査が成立しませんよね。もう少し、エンターテイメント性と音質とが番組として面白く仕立てられればなと思いましたね。